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第二章:魚と犬と死神

百十一:月下のダンス ③

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 「多いな」

 神鳴館女学院付属高校の大きな校門を目指すように、アンデットの大軍が押し寄せていた。
 まるで進行拠点を潰された恨みでも晴らすかのように。
 武装するゾンビと骸骨が列をなしている。
 その速度は遅いが数が多いので威圧感がある。
 普通だったら絶望で逃げ出しているだろう。

「おもしろい」

 黒髪ロングによる徹底した指揮系統。
 全体を俯瞰した指揮官が的確に指示を出していく。
 その指揮はあえて俺に聞かせているのだろう。
 ツインテが孤立しないように援護をしつつ、全体に指示をだしている。
 薙刀を持ったお姉さん達の部隊も凄いな。 敵を寄せ付けない。
 斬って突いて間合いの長さを活かした立ち回りが巧い。 薙刀部なんだろうか。 袴を着て赤いタスキをかけている。
 東雲東高校だと突くだけの竹槍だが、取り入れられないかな?

「大丈夫か?」

 お嬢様学校の正面に続く道路。
 街路樹すべてが桜という一種の観光名所のような場所を、デュラハンの魔物が突き進んでいく。 しかもその数は2体だ。 1体相手でも校門を破壊されたと聞いたけど。

『すみません、ベルゼさん。 1体お願いできますか?』

 三階建てのビルの上から見ていたのだけど、やっぱり気づいてたね。
 黒髪ロングはこちらにお辞儀をしながら依頼してきた。
 俺は了解とばかりにヴォルフライザーを掲げてビルから降りる。
 大破していたバトラータキシードも修復が完了して万全の状態だ。
 ブラックホーンリアの補充も完璧。
 入湯税代わりに雑魚狩りのお手伝いといきますかね。
 まぁさっき盗んだ技を試したいだけなんだけど。
 
『ロォオオオッ!?』

 着地と同時にヴォルフライザーを一閃。
 ゾンビと骸骨の群れを薙ぎ払い、デュラハンの一体を足止めした。
 首なし騎士は戸惑いながらもランスを放ってくる。
 馬の下半身の支えがあるからかその一撃は重い。
 だが最小の動きからヴォルフライザーを繰り出し弾いた。

『ォオオオオオオオ!!』
 
 前足を上げさらに力強い一撃が繰り出されるが、冷静に見て大剣を合わせた。
 ツインテの動きを真似るように、左右の連打ではじく。
 筋肉と体格とステータスにものをいわせた攻撃ではなく、技を磨く。
 いいぞ。
 無尽蔵の体力と鋭く重い突きを放つ首なし騎士。
 いい練習相手だ。
 
「くはは」

 かつてはスペルカードを使わないと危険だった相手だが、今はどうだろう。
 成長している。
 激戦とガチャが確実に俺を強くしている。
 彼女たちを護る力を手に入れている。
 
「はぁああああああ!!」

『――ロォッ!?』

 もっともっともっと、強くなる!

『――リィイイイイイイイイイ!!』
  
 ヴォルフライザーの高速回転。
 うまく斬りこめた時はいつも以上に甲高い音を立て漆黒のオーラが増す。
 ゴルフのスイング矯正みたいだな。
 正しいフォームだといい音がなる。
 さてバンバンいきますか!


◇◆◇


 体勢を崩した『仙道 美愛』へと首なし騎士のランスが迫る。

「――っ! 美愛っ、一人で突っ走るな!」

 ギリギリのところで薙刀が振るわれランスの軌道をそらした。
 薙刀の間合いを活かした最大火力でやっとである。
 スキルによる恩恵がなければその薙刀ごと貫かれていたであろう。

「エビちゃんありがとうぅ!!」

 薙刀部主将『戎崎 春子』、釣り目の長身ガール。
 性格は苛烈だがその薙刀捌きは冷静沈着。
 『仙道 美愛』と同じくスポーツ特待生である。
 入学当初に決闘をして以来の親友だ。
 決闘の理由は薙刀と剣道どちらが強いかという男の子のような理由であった。

「なんて力だよ……! まともに受けたら武器がもたないね」

「うん。 殺されかけたよ」

 最初の襲撃で相対した『仙道 美愛』は首なし騎士に敗れている。
 その敗北はあまりにも大きかった。
 校門を破壊された。
 少なくない犠牲者を出した。

 その敗北は少女にはあまりにも大きかった。

「大丈夫。 今度は負けないよ!」

「……」

 『戎崎 春子』は思う、この親友の精神はどうなっているんだ?と。
 この怪物に、一度殺されかけた相手に、どうしてそうも目を輝かせて立ち向かえる?
 何かがおかしい。 頭のネジがぶっ飛んでいる。
 でも彼女が剣の天才で頼りになる親友であることに変わりはない。
 そもそもただの剣術馬鹿だったと、『戎崎 春子』は思考を放棄した。

「頼むよ、神童」

「もう、エビちゃんもでしょ?」

 入学当初、二人の身長差は圧倒的だった。
 戎崎は高一にしては身長が高く、仙道は低かった。 体格もまた戎崎は大人と比べても良く、仙道は中学生にしてもひょろいほうだった。
 これは武道において致命的だ。
 まして剣道と薙刀。
 その武器のリーチ差もあって、戎崎は自分が決闘に負けるなどと微塵も思わなかった。
 薙刀をわかっていない、剣道しかしらない井の中の蛙だと、神童様の鼻をへし折ってやるつもりだった。 マイナー種目の宿命か、こちらは知っているのに相手は知らないというのも戎崎をイラつかせた。
 だが折れたのは自分の鼻《プライド》であった。

「ふん。 さっさと倒して飯にしようぜ? 今日は差し入れがあったらしい」

「あー! ベルゼ君が持ってきてくれたやつだねぇ!」

 災害対策の整ったお嬢様学校であっても、食糧事情は厳しい。
 神駆の持ってきてくれる食料も好評である。

「嬉しそうだな……あいつどこみてるんだ?」

「……向こうで誰か戦ってるね」

『ベルゼさんが1体を持ってくれています。 あちらは問題ありません』

「なっ!?」

 そんな訳ないだろと、戎崎が憤るが。

『あちらはいつでも倒せます。 遊んでいるようですね』

 指揮官からの無情な一言が、『仙道 美愛』に火をつける。

「私がヤるよ。 エビちゃんは見ててね」

「っ!?」

 彼女の心を具現化するように、燃え盛る闘気が彼女を輝かせる。

「『仙道 美愛』、――いざ参る!!」

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