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第二章:魚と犬と死神

百十話:月下のダンス ②

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 左右から刀の一撃が迫る。

「シィッ!」

 小さく速く。
 それでいて一撃一撃が重い。
 手なりで打っているようで違う。
 彼女の技巧を理解できない。

 ヴォルフライザーを使うわけにはいかないので、ガチャ産の両刃の剣で受ける。
 幅広の剣は大剣ほどではないが耐久力はありそうだ。

「リィアアアッ!」

 左右の連打なのに軸がまったくブレない。
 目が慣れそうになると掻き消えるように横へと移動する。
 反応が遅れる。
 独特の動きに惑わされる。

「……凄いよベルゼ君。 ふふ、本気で打ち込んでるのに」 

 惑わされながらも反射神経だけで対応している。
 スキルや魂魄ランクが上がったおかげだろうか。
 ツインテとの打ち合いは改めて自身のスペックをはかるのにちょうどいい。
 それに彼女の技を盗める。
 上半身のブレは少なく手なりでの打ち込みに見えるが、注目すべきは下半身の動きか。
 スパッツのおかげで筋肉の動きまでまるわかりだ。
 よく見よう。

「もう! ベルゼ君のエッチ! そんなにスパッツが好きなのぉ!?」

 じっと見てたらバレた。
 でもエッチでみてたわけじゃありません。
 軸はブレないし上半身もほとんど動かない、けど意外と下半身は忙しそうだな。
 こうか?

「ぐっ!?」

 左右の打ち込みに合わせて足を動かすのではなく、足の運びに左右の連撃がついてくる。
 その足の運びがめちゃくちゃ速い。
 速いのか?
 入れ替える速度が速い。
 
「ふむ?」

 ただこれだと手なりの攻撃になってしまうな。
 彼女の重い一撃の秘密はなんだろう?
 もっとよく見て盗もう。
 みとり稽古は忍者の基本。
 技術は徹底的に盗むべし。
 さすが忍者汚い。

「むうううう!!」

 真似してるのがバレた。
 美少女がちょっと頬を膨らませて殺気を飛ばしてくる。
 狂気に満ちた目が挑戦的に笑ってくる。
 そんな簡単には盗めないぞと、あえてわかりやすく打ち込んでくれる。

 ブレない。 可動域は狭い。 でも重い一撃。
 その動きで体重を乗せている?
 どうやって?

「ハァッ!」

 急転。
 左右の連打から喉元へと突きが繰り出された。
 剣で軌道を逸らしながら体を捻りなんとか躱す。
 衝撃が突き抜ける。
 その刀には闘気が迸っているのが見えた。
 殺す気かっ!?

「ええええ!?」

 ええええ、じゃないよ。

「ふぅぅぅ……!」

 少し距離をとり仕切り直しか。
 彼女の剣の技のからくり。
 切り返しの速さだ。
 動きの少ない上半身に秘密はあった。
 高速の左右の連打も、最後の必殺の突きも。
 一見忙しそうな下半身に秘密がありそうだが、上半身と腕の動きそれに腰か。
 試しに剣をふってみる。

「っ」

 面白い。
 新たな技術を身に着けるのは楽しい。
 窮屈な感覚が解放されていく感触がたまらない。
 
「もう! そんな足をドタドタしないの! ベルゼ君へたくそーー!!」

「……」

 ダンスは苦手だ。
 ツインテにリードされながら夜のダンス会は熱を帯びていく。
 しかしそんな楽しい時も終わりは来る。

『美愛さん。 遊びは終わりですよ、正面にエネミー多数。 大型、特殊個体も確認。 急いでください』
 
 黒髪ロングからの念話が飛んできた。
 アンデットたち攻勢だ。

「あはは、もう終わりかぁ。 また遊ぼうね、ベルゼ君!」

 屈託のない笑顔を向けてツインテは走っていった。

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