上 下
103 / 179
第二章:魚と犬と死神

百一話:バード

しおりを挟む

「グココココ、グココココ」

「……」

 ニワトリを想像していた俺の前に、デカい怪物が現れた。
 山木さんが好戦的で危険な怪物とよんでいたバード。
 やる気満々でうなり声をあげている。

(ニワトリではないなぁ……)

 ニワトリをそのまま大きくしたというよりは、ダチョウにちかい。
 緑色の体毛。胸元はカラフルだ。
 小さな顔に猛禽類の目が光る。

「む!」

 見た目通り速い。
 縮めた首を放つ鋭い嘴による突き。

「っ!」

 飛ばないといってた翼が開き、前蹴りを放ってきた。
 翼を開いたことで滞空時間を稼げるのか、数発の連続蹴りだ。
 ヴォルフライザーで受ける。
 スピードもパワーもなかなかだ。
 もし群れていたら危険な魔物かもしれない。

「はっ!」「らあっ!」

 左右から二人がバットとバールで襲い掛かる。
 バードは飛んだ後は無防備なようだ。

「グココココ……」

「よしっ!」

 運動神経のいい人ってなんとなく見た目でわかる。
 この二人、『吉田 太陽』と『斎藤 一華』もそうだった。
 もしかすると、俺の能力が上がった影響で相手のステータスを感じ取りやすいのかも?
 確証はないけれど。
 
「とどめよ」

 『斎藤 一華』の放ったバールがバードの小さな頭にめり込んだ。
 一切の躊躇がない。
 真顔で撲殺できる素敵なお姉さんです。
 いいね。
 運動神経があっても戦闘できるかは別物だ。
 ミサも最初は酷かった。ダメでも慣れるまで追い込めば問題ないが。
 
「案外やれるもんだな」

 1対3だからね。
 敵の数が増えるごとに難易度は跳ね上がる。
 
「羽」

 ドロップアイテムは小さな魔石と羽だった。
 何体か狩ってみたけど肉も卵も落とさない。
 やはり猫の手で売って販売品を増やすしかないか。
 しかし一つ懸念事項がある……。
 東雲東高校の近くの猫の手で売ったとして、ちゃんと販売品は増えるのか? という問題だ。

「……」

 黒の魔皇帝とかいうやつのせいで、どこかゲームのような仕様が多い。
 そうなると増えないという可能性もある。
 この周囲の猫の手を探しておく必要があるかも。

「次、いきましょ」

「ああ! いこうぜ!」

 野宿はしたくないから今日は探さないけど。
 頼もしい新人たちと共闘しつつ、東雲東高校を目指す。
 今回の遠征は大成功だな。
 魂魄がっぽりに魔結晶、それに戦力2名の追加だ。
 東雲東高校は犬に魚に忙しいから、やる気のある人材は大歓迎ですよ。
 朝から朝までみっちり働ける。
 生き残ればすぐに強くなるよ、二人とも。

「いくよ」

「よっしゃああ!!」

 帰ったらみんなにも相談しようかな。
 伝わるといいのだが。


◇◆◇


 『吉田 太陽』と『斎藤 一華』の二人が東雲東高校にたどり着いたのは夕方であった。
 日は暮れ始め街灯の無い街は闇に包まれていく。
 駐屯地にいれば今頃は炊き出しの手伝いでもしていただろう。 電気はなくスマホもテレビすらない場所で人が集まる。 恐怖と不安で避難している人たちは不満を漏らしていた。
 それは最悪の空気だった。 二人は集団から離れて自衛隊の手伝いをしていた。 そのほうが気もまぎれるし、なによりそんな集団の側にはいたくなかった。

「「っ!」」

 東雲東高校の夕方というのは忙しい。
 主に夜に襲ってくる野犬と朝から夕方にかけて襲ってくる魚のダブルパンチだからだ。
 人と魔物が争い、魔物同士ですら縄張り争いを行う。
 けたたましく聞こえる争いの音に、二人は驚いた。

「た、助けにいかないと!」

 校門に殺到する野犬の群れと対峙する学生たち。
 それを見た吉田は走り出す。
 しかしその心配は杞憂だった。

「構え! 突けぇっ!!」

 低い位置から襲い掛かる野犬を相手に、学生兵たちはさらに低い位置に竹やりをカートに装着し待ち構えた。
 号令と共に押し出される竹やり。
 可動式槍衾だ。
 ジャンプして回避した野犬には野球部のバットが炸裂する。

「おお!」

 東雲東高校では常に新しい作戦が考えられ実行される。
 みれば男も女も、小学生くらいの子供も、70歳を過ぎていそうな老人ですらもみんなで戦っていた。
 そこには確かな団結力があった。

「すごい……」

 グラウンドからはいい匂いも漂ってくる。
 電気もスマホもテレビもない。 人が集まって喋るのは一緒だったが、こちらはまるでお祭りのようだった。
 人々が困難な状況で頑張って必死で生きている。
 今を乗り越えようとしている。
 
「「……」」

 その光景を見た二人は、自分たちの選択は間違っていなかったと安堵した。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...