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第二章:魚と犬と死神

九十六話:

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 「……」

 こんなに簡単に魔結晶が手に入って良いのだろうか?
 黒炎の怪物との死闘に比べてしまうと、なんだかね。
 でも嬉しい。
 魂魄ポイントもがっぽり。
 怪獣もっといないかな?

 大地の結晶のようだ。 属性的には土なのかな?
 僅かに振動するようなエネルギーを感じる。
 これで3つ目。
 服部先輩たちが成功すれば4つ揃う。
 
「ふふ」

 思う存分に大剣を振り回した。
 大型の魔物を相手にするのは楽しいな。
 一発もらった時に耐えられるのか気になるが、試す気は起きないね。
 当たらなければどうということはないのさ。
 ブラックホーンリアの立体機動力が反則だよな。
 鈍間な敵なら完封できる。

「……」

 大剣での攻撃は漆黒のオーラが発生するまではあまり効いているそぶりがなかった。
 ひょっとするとあの体毛は物理耐性が高いのかもしれない。
 全身鎧の巨大怪獣。
 銃やグレネードじゃ厳しかったんじゃないかな?
 火炎放射器で戦うにはリーチが厳しいだろうし。
 そもそも自衛隊って火炎放射器なんか装備であるのだろうか。
 だからこの横取りは正当なものである。
 そう断じてマナー違反ではないのだ。

 もし魔結晶寄越せとかいってきたらブチギレたろ。

 おそらく山木さんであろう自衛隊員が駆け寄ってきていた。


◇◆◇

 藤崎駐屯地目前で繰り広げられた超大型怪物の討伐。
 これは多くの人々が目撃することとなった。
 隊員の多くが、避難した一般市民の一部が、彼らは一様に思った。
 アレはなんだ!と。
 笑いながら宙を自在に移動し、超大型怪物を蹂躙する青年。
 あんな恐ろしい巨大な怪物。
 銃を持って遠距離から見るだけで恐怖で足が震えるというのに。
 アノ青年は超至近距離で大剣のみで圧倒して見せた。
 どうしてそんなことができる?どうすればそんなことができる?
 一部の者は青年に恐怖し、一部の者は青年に憧憬を抱く。
 それほどまでに異様で衝撃的な光景であった。

「これか……これが、山木の言っていた……可能性!」

 第45代藤崎駐屯地指令、『京極 武蔵』は先の会議で嘲笑された山木の一般人戦闘兵の可能性を思い出していた。 
 まじめで正義感の強い男の発言とは思えなかったことだ。
 一般市民に武器を持たせ戦わせる。
 神鳴館女学院付属高校への任務失敗、及び官給品の消失と併せて大いに叩かれた結果になったが。
 
「たしかにコレを目の当たりにすれば、あの男ならそう考えるか……」

 怪物を圧倒した青年を見る『京極 武蔵』の瞳には何が映るか。

「……これは、危険《・・》だな」

 『英雄』を迎え入れる駐屯地の熱狂とは裏腹に、彼の心は冷静沈着に盤面を見ていた。

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