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第二章:魚と犬と死神

八十話:ガチャボス出現

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「ハァァァァァァ……!」

 気合が足りなかったんだ。

「コォオオオオオオオオオオ!!」

 全身全霊を持って挑まなければ、ガチャに失礼というもの。
 息吹を使い全身に気を張り巡らせる。
 徐々に指先へと集中していく。
 この一回に、賭ける!
 神よッ!!

「――――セイッ!」

 リミテッドガチャ『黒のガチャ』をタップした。
 黒いロングコートを着たイケメンシャム猫さんが指を鳴らし華麗にガチャのレバーを引く。
 
「こい」

 俺の『ガチャ』は演出が凝っている。
 それは先にアタリハズレが判ってしまうという諸刃の剣。

「……」

 そうつまりコレはハズレだ。
 イケメンシャム猫まで「やれやれ」といった感じで肉球を上にあげてんじゃねぇぞ……。
 うんともすんとも演出の発生しない筐体から黒いカプセルが排出された。
 当然の如く、羽の散る演出もなし。
 おぉ神よ、なぜですか。 あんなに祈ったというのに。

「っ、……せめて下着以外で」

 無情にもイケメンシャム猫が投げやりな感じで剣を横に振るう。
 もはや諦めたその時、――神は舞い降りた。

「んん゛!?」

 禍々しい障壁が黒いカプセルを守る。
 音が聞こえる。
 死神の鐘の音だ。

オォォ…… オォォ……

 不気味な音色の響きと共に死神は舞い降り、手に持った禍々しい大鎌をイケメンシャム猫へと向けた。

「これはっ!?」

 死神が守る黒いカプセルが激しく発光しだす。 妖しい黒い光だ。 死神を強化するように力を送る。
 黒いロングコートを着たイケメンシャム猫さんの顔に焦りの色が広がる。
 中腰に大鎌を構え必殺の力を溜める死神。 相対するイケメンシャム猫さんはさせまいと高速の剣技で攻め立てる。
 しかし、死神の禍々しい障壁を突破できない!
 
『クリムゾンストライク』 

 シャム猫さぁああああん!?
 死神の大鎌による必殺技が決まった。 決まってしまった。
 鮮血を出し倒れてしまうイケメンシャム猫さん。
 死神は黒いカプセル奪い飛び去って行く。
 って、あれ? 俺のカプセルは……。

「は?」

 やられてしまったイケメンシャム猫さんからフェードしリミテッドガチャは閉じられた。
 俺の手には何もない。
 何もない。

「は?」

 ――――ハズレすらないんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?



◇◆◇

 
 昨日は泣いてみんなに心配をかけてしまった。
 幸せそうな家族写真を見て両親の安否がきになってしまったから。
 意識して考えないようにしていたけど。
 高校でみんなの優しさに触れて少しセンチメンタルになっていたのかな。
 お詫びに朝食を作ろうとしたけど、気を使われて休んでてって言われちゃった。
 みんなだって疲れてるし家族が心配なのは一緒なのに。
 
「うん、頑張ろう!」

 暗くなっても何もよくならない。
 わたしにできることを頑張ろう。
 一人でも困っている人を助けたい。
 きっとそうすれば、私の家族も誰かに助けてもらえてるって、信じられるから。
 
コンコン。
 
「はーい?」

 葵ちゃんや、ミサちゃんはノックをしたりしない。
 玉木さんかなってドアを開けると、鬼頭君が立っていた。

「おはよう、鬼頭君! ……鬼頭君?」

 背の高い彼を見上げる形で朝の挨拶をした。
 ジッと見つめあうと、コクリと頷いてくれた。
 あ、心配してくれてる顔だ。

「えへへ、ごめんね。 もう大丈夫だから、今日からまたよろしくね!」

 鬼頭君の顔を見ていたら元気が湧いてきたよ。
 彼の逞しい体は安心感をもたらしてくれる。
 匂いも好きだよ。
 
「ふぇ? プレゼント?」

 いま、わたし……。
 鬼頭君からプレゼントをもらった。
 洋服屋さんの紙袋に入っていて軽い。
  
「あ……」

 お礼を言おうと思ったのにすぐ出て行ってしまった。
 ……照れてたのかな? 少し顔が赤かった気がするよ。

「ふふ♪」

 励まそうとしてくれたんだ。
 嬉しいな。
 苦手そうなのにプレゼントしてくれて、ちょっと照れてて。
 嬉しい。

「あわわ!?」

 鬼頭君のプレゼントは大人な下着だった。
 上下のセットでとっても高級そうだよ?
 白地に花をモチーフにした刺繍が施されてる。
 思わずつけてみたいと思ってしまう魅力があるよ。

「えっ!?」

 花のエフェクトと共に下着が光の粒子となって私の体に吸い込まれていく。
 何が起こっているのかわからなかった。
 近くにあった姿見を見ても特に変わりは――

「……大きくなった?」

 今はまだレザー装備をつけてなくて、動きやすいテニスウェアを着ているんだ。
 なんだかいつもより胸の部分が強調されている気がする……。
 上にこう、補正がかかったような。
 それにとっても動きやすい。
 私は体の一部を動かして試してみる。
 いつもだったらちょっと痛くて困ってしまうのに、今は平気だった。

「すごい!」

 このブラジャー、凄いよ。
 これなら激しく動いても痛くないかも。
 ありがとう、鬼頭君!
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