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第二章:魚と犬と死神

七十八話:

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 今日は東雲東高校には戻らず、民家に泊まることにした。
 以前にも押し入ってしまったお家だ。
 申し訳ないという思いがあることに少し安堵しつつ、家主たちが無事に避難してくれたことを祈りながら使わせてもらう。
 同じ家のほうが木実ちゃんの心理的負担が少ないかなと思ったし、本当にいい家だからだ。
 塀の高い一軒家で、ガレージもついている。 旦那さんの趣味なのか様々な工具も揃っている。 子供部屋に飾られた写真から幸せな家族なんだとよくわかる。

「……」

 写真を見ていた木実ちゃんの瞳からスッと雫が落ちた。
 ……まずいな。なんて声をかければいいかわからない。 
 いやそもそも会話なんてまともにできないのに、泣いている女の子に声をかけるなんてぇ!?
 難易度高すぎぃいい!!

 葵とミサに任せて俺はこの場を離れた。
 玉木さんはご飯を作ってくれている。
 楽しい夕食の時間を邪魔させないため、周辺の野犬でも狩るとしよう。
 決して女子の涙から逃げたわけではない。


 ブラックホーンリアの反則じみた機動力。
 好きだったアニメの立体軌道をナチュラルにこなす。
 今では繊細なコントロールも可能で民家の屋根を壊さずにパルクールができる。
 身体強化のスキルレベルが上がったおかげか、回転にも強くなった気がする。
 地味に忍術のスキルも影響しているんだろうか?

「久しぶりだな、ワン公」

「「ガルルルル!!」」

 口から炎を漏らす双頭の野犬。
 大型犬以上の体躯に赤茶色の体毛。 肩と前足の筋肉は肥大している。 赤い瞳が闇夜に爛々と輝く。
 最初の戦闘はまさに死闘だった。
 バトラータキシードを大破されたのは今のところこいつだけだ。

「たしか30ポイントだったか?」

「「ガルッ!?」」
 
 だが、ガチャ装備を使いこなしている今の俺の敵ではない。
 俺の余裕の態度が気に入らないのか、前傾姿勢をとり威嚇する双頭の野犬。
 口から今にも炎を吐き出しそうだ。

「かかってこい、駄犬」 

「「ガルァーーーー!!」」

 怒り狂った双頭の野犬は炎の息吹を放つ。
 それは火炎放射器のように俺の目の前へと炎壁を作った。
 肌を焼く熱波が迫る。

「「ガ……」」

 リィイイイイイイイイイイイ!!

「――虚空回転斬り」

 地を蹴り炎の壁を飛び越え、虚空を蹴る。
 大剣の重みと遠心力が回転の力を増し、ヴォルフライザーの本領を発揮する。
 『虚空回転斬り』。
 ジョイソンが見ていたら「WOWニンジャ!!」と喜びそうな技だ。

 弱点である首の付け根。
 炎を吐いているときは無防備だぜ?
 挑発に乗った時点で双頭の野犬の負けだった。

>>>魂魄獲得 30ポイント
 
 最後の抵抗のブレスすらなく、双頭の野犬は赤紫色の魔石と赤茶色の体毛を残して消えた。 赤茶色の体毛はドロップアイテムだろう。 使い道わからないし『猫の手』で売り払おう。

「ウマウマ」

 一発30は旨い。
 残念なことに倒すと周辺の魔物は逃げてしまうのだけど。
 まぁ拠点の安全は確保されたので、気兼ねなく雑魚狩りにいきますかね。
 残犬狩りじゃ!


◇◆◇

 
 野犬狩りが楽しすぎて遅くなった。
 民家へと戻ってきて玉木さんの作ってくれた料理を食べた。
 絶品ママノエ丼である。
 ママノエもちゃんと料理するとおいしい。見た目さえ気にしなければ、あと断末魔の叫びも、圧倒的に良コスパの食材である。
 ママノエ布教活動も頑張るぞ。
 
「……やりますか!」

 家の持ち主の旦那さんの部屋。
 お高い琥珀色の液体をショットグラスに注ぐ。
 未成年者の飲酒は法律で禁じられているが、まぁ、いつ死ぬかわからんこんなときだから、お酒くらい勘弁してほしい。
 結構酒飲みの才能がありそうな気がする。
 そういえば親父も酒が好きだったきがする。あまりよく覚えていないが。

「リミテッドガチャ!」

 リミテッドガチャをしたい。 そう念じると、いつもとは違った。 帽子をかぶる猫ではないのだ。

「ほう……!」

 リミテッドガチャについて俺はいくつも仮説を立てていた。
 それはいったいどんなガチャなのか。
 内容が違うのか?
 期間限定のレアアイテムが出現するのか?
 天井が決まっているのか?
 排出率がアップするのか?
 そう様々な憶測を脳内で思い描いたのだ。

「複数あるだとぅ!?」

 期間限定ガチャもぉ!排出率アップガチャもぉ!あたり確定天井ガチャぁあもお!?今のあなたに最適ハウジングガチャああああああああああ!?

「神アプデすぎワロタァーー!!」

「ちょ!? どうしたのシンク君ーー!?」

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