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第二章:魚と犬と死神

七十六話:

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 俺は養殖を辞めることにした。

「痛っ!」

 パワーレベリングは彼女たちの為にならないのだ。
 泥臭く体で覚えるしかない。
 俺が商人、サポーターとして立ち回るのが正解だったんだ。

「ええい!」

「っ木実ナイス!」

 もちろん彼女たちが安全に戦えるよう、万全にサポートするけど。
 俺が木実ちゃんの全てを支える。
 そうか、その為のガチャなんだと、俺は天啓を得た。
 それに危険は排除する。

『――キコァアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「うるせぇ」

「ギゴア!?」

 東雲東高校の最初の襲撃で反町さんの腕を折ったバケモノ。
 2メートル近い身長にトップアスリートのような筋肉。両肘の太い棘が特徴的な無機質な瞳をした魚頭の怪物。 魚頭よりも人に似ている、魚人怪物とでも呼ぶか。
 短距離選手のようなぶっとい太ももは、咆哮と共に一瞬で彼我の距離を詰めてきた。
 ただその軌道は一直線で読みやすい。
 一瞬だけブラックホーンリアを起動し立体軌道で魚人怪物の上をとり切り裂く。
 一撃だ。
 魚頭もそうだが、魚系は耐久力が低い。 その分攻撃特化なのかもしれない。

「ふん」

 魚人怪物は魔石を残して消えた。
 魂魄16に大きめの魔石。ウマウマなんですけど?
 脳筋相手は戦いやすいなぁ。
 やっぱり問題は遠距離攻撃対策か。
 
「やぁ!」

 玉木さんに槍を貸したが凄くいい感じだ。
 エルフになったことで体が軽いと言っていた。精霊魔法で体を動きやすくしている効果もあるんだろう。
 ブルンブルンと跳ねる双丘が目に毒だ。
 装備もしっかり整えないとな。フェアリードレスは防御力はどうなんだろう?近接には向いてないとおもう。
 何度か戦闘をこなすことで、魚頭だけだったら4人で普通に倒せるようになっていた。 スキルも習得しているし、魂魄ランクもエリートにならずとも、おそらく成長はしているんじゃないだろうか?

「いい感じだね!」

「……うん」

 スペルカードを使っている葵は何か考えているようだ。
 無表情でも分かるようになってきたぞ。


◇◆◇


 魚の魔物を撃退しつつ、東雲東高校に戻ってきた。

「なんだか様変わりしたわねぇ」

 戦国DIY。
 わずか数日で普通の高校が砦のようになっている。

「アマミク様じゃ!」

 農民兵……ではなく武装した老人たちがワラワラと集まりだした。
 その甲冑重くないの?元気過ぎない?なんか前より生き生きしているな。

「鬼頭君! おかえりなさい!!」

 服部も元気そうだ。
 いや、ちょっとやつれたか? だいぶ疲れが溜まっていそうだ。
 服部を先頭に老人たちに囲まれ学校を歩いていく。

「生活感があるわね」

「……うん」

 避難してきたママさんたちが洗濯をしている。
 電気がないから手洗いで大変そうだ。
 学校で洗濯物が干されていると変な感じがする。
 グラウンドのほうではテントが張られ、煮炊きも行われているようだ。
 
「備蓄食料は尽きちゃったから、周辺から集めてきてるんだ」

 『猫の手』も利用しているよ、と教えてくれる服部の雰囲気が前とは少し違う気がした。

「みんな頑張ってくれてる。 ……でも、このままじゃダメなんだ」

 小さく可愛い顔をしただけの男子高校生はもういなかった。

「打って出ようと思うんだ。 僕たちの手で、取り戻すために」

 それは服部だけじゃなかった。
 反町さんも、九条さんも、他の生徒たちもみんな戦う覚悟を決めていた。

「東雲東高校奪還作戦――始めるよ!」

 若い炎の雄たけびが空へと放たれた。

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