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第二章:魚と犬と死神

七十五話:

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 「そうですか……残念です、また戻ってきてくださいね?」

 東雲東高校に戻ることを伝えると、疲れ顔の黒髪ロングこと『一ノ瀬 栞』が心底残念そうにしていた。
 深夜はアンデッドの襲撃に、昼間は民間人の保護とその能力をフルで使っているらしい。 相当に疲れが溜まっているんだろう。

「うむ」

「絶対ですよ?」

 念を押されてしまった。
 この人、まっすぐ目を見てくるからずるいよなぁ。美人だし。
 多少は失敗もしたけど、戦力としては評価してもらえたんじゃないかな?
 温泉にも入りたいしまた戻ってくるさ。 次に来るときはお土産にママノエもいっぱいもってこよう。


 ツインテは出ているようで挨拶はできなかった。
 木実ちゃんたちは仲良くなったアルテミス隊やフレイヤ隊の子たちと話しをしている。
 葵はママさんと抱き合っていた。 豊満なママさんの胸に埋まっている。 うらやましい。
 
「ママ、残るって」

 こちらのほうが壁がしっかりしているし、安心かもしれない。
 連絡のつかない旦那さんの件もあるようだが。
 そういえばうちのじいさんは無事だろうか? 殺しても死ぬようなジェイソンではないが。 張り切りすぎてヤリすぎていないだろうか……。


「じゃあ、いきましょうか!」

 エルフの玉木さんがロッドを掲げ張り切る。
 彼女の短い髪を淡い緑色の光がいたずらしている。
 俺には見えないが風の精霊でもいるんだろうか。

「はい!」

 木実ちゃんが元気だ。
 東雲東高校のみんなのことが心配だったんだろう。避難してきたご老人たちにも大人気だったからな。もはやアイドルだったよ。いや、女神だったか。変な宗教ができあがりそうだったもんな。

 しかしうちのパーティは後衛しかいないな。
 RPG的に言えば、戦士1、魔法使い2、神官1、商人1だ。
 ゲームでみれば悪くないが、現実では前衛不足。
 ミサが前衛をはれればいいのだが、性格的に厳しそう。

「お外怖いお外怖い……」
 
 今も魔物の気配におびえて縮こまって移動してるし、サポーターポジションかな。
 いっぱい荷物持ってもらってるから助かるんだけどね。索敵も重要だし。
 俺はバッグから小盾を取り出す。丸い鉄製の盾だ。白ガチャから出た特に能力もなさそうな防具。具現化できているので渡せるそれをミサに渡す。
 決してさらに重いものを持たせて筋力をあげさせようとか、そんなつもりはない。
 商人キャラなら脳筋一択とか思ってないよ。

「はやく、魔法使いたい」

 ステッキとスペルカードを構える魔法少女、葵。
 まだ魔法購入できるだけの魂魄は溜まっていない模様。
 人によって購入に必要な魂魄が違うらしい。
 俺は魔法に必要な魂魄が多すぎるので諦めてる。
 ガチャで無駄遣いしてなければ買えたかもだが……。
 
「魚」

 犬耳レーダーに魚の魔物の声が聞こえた。
  
「サンダーボール!」

 構えていたスペルカードが光となり雷の玉となって魚頭の魔物に襲い掛かる。
 遅い。
 ノロノロと魔物に向かって進んでいく。
 せっかく奇襲をしかけた形なのに、魚頭たちには余裕をもって躱された。

「「「キコォッ!?」」」

 ブブゥン、と。
 雷球は輪となって素早く広がり魚頭たちを捉え、雷撃ダメージを与える。効果は抜群だ!
 なにコレめっちゃかっこいいんですけど?

「ふふふ!」

 葵の目がキマってるんですけどぉ!?

「スペルカードって詠唱がいらないのねぇ」

 一撃では死ななかった魚頭もビクンビクンして虫の息だ。
 木実ちゃんとミサで止めを刺さしていく。
 
「やはり雷属性かな、いや、闇属性もすてがたい……にゃ!?」

 飛来する骨矛を叩き落す。
 棘つきだ。
 最初は苦戦した。腹に穴をあけられるほどに。
 でも今は敵じゃない。
 ブラックホーンリアの機動力で一気に詰め、ヴォルフライザーで斬り殺す。

「――っ!」

 2体目だ。
 隠れていた2体目が葵に骨矛を投擲した。
 心臓が、時が止まる。
 間に合わない。
 マズイっ、そう思った瞬間。
 視線の先で鈍い銀の輝きが疾駆した。

「うああああああああああっ!」

 陸上少女の雄たけびと、鈍い音が木霊した。
 呆然とする葵を助けたのは、丸盾を構えたミサだった。

「怖ぁあああっ!?」

「『風の精霊、集れ踊れ、ウィンドショット!』」

 風の弾丸が棘つきを穿つ。
 緑の風が頬を撫で、安堵のため息が零れた。
 無事でよかった。

「手首痛ぁ……」

「ミサ、ありがと……」

「ミサちゃん大丈夫ですか!?」

 周囲を警戒しつつ思考する。
 やっぱり集団行動は難しい。木実ちゃんたちには安全な所にいてもらったほうがいいんじゃないか? 宝物は大切にしまっておきたい。
 でもそれは、彼女の願いに、彼女たちの願いに反する。

「う? ……さんきゅ」

 ミサは臆病でも根性はある。
 度胸だって今見せた。
 渡したポーションを手首にかける彼女の目は、恐怖に負ける負け犬の目じゃない。

「……」

 変わらないといけないのは、俺の認識だ。

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