74 / 179
第二章:魚と犬と死神
七十二話:東雲東高校防衛戦 ①
しおりを挟む鬼頭君たちがいなくなって、状況は悪くなる一方だ。
昼夜を問わず怪物の叫び声が響き渡り、人々の精神を蝕んでいく。
体育館にいる避難してきた人たちの顔色は良くない。
「ええぞぉ! そこに運ぶんじゃぁ!!」
「「「せい! せいっ!!」」」
その一方で、雪代さんが残してくれた元気の出る水――聖水を飲んだお年寄りたちが元気溌剌と働いている。
アマミク様が帰ってきたら美味しい野菜を食べさせるのだと、畑を作っている。 近くにあった菜園から土と野菜を運び込んでいる。 相当の重労働だけど倒れないかな? 心配だ。
「慎之介君、竹を取ってきたぞ」
「こんなに!? ありがとうございます!」
東雲東高校の防御を固める為に竹が必要と話したら、いっぱい取ってきてくれた!
川近くの林は竹が多いけど、魚の怪物が出てあぶないのに無理をしてくれたみたい。
「ははは! 心配しなくても大丈夫じゃよ慎之介君。 すきるとかいうののおかげで、全盛期のように動けるわい」
清おじいちゃんはニカっと笑って力こぶを見せてくれた。
農作業で日焼けした肌に皺の深い笑顔が素敵だ。
スキルなんてなくても避難してきた誰よりも働いてくれていた清おじいちゃん。
率先して危険な怪物とも戦ってくれた。
「うん、……それでも無理はしないでね」
おじいちゃんたちの生きる力の眩しさに、僕は涙がでそうになるのを必死にこらえた。
「僕たちも負けてられないよね」
頑張ろう。
皆で生き残る為に。
今できることを精一杯に頑張るんだ。
「大丈夫ですか? 痛いところはないですか?」
僕は元気のない人たちに声をかけて回る。
暗い顔をした人には大丈夫だと元気づけて、痛そうにしている人には『手当』のスキルを使う。
大きなケガは治せないけど、ずっと使っていたせいか前よりも多く使えるようになったきがする。
少し治る速度もはやいかな? ほんとうに少しの変化だけど、なんだか嬉しいよ。
「慎之介君!」
僕がみんなに声をかけ、防衛の為の指示をだしていると、屋上で監視をしている生徒が叫んだ。
その声に作業をしていた人たちは手を止めて上を見上げる。
必死の声だったからだ。
「犬と魚!」
魚頭の怪物と犬の怪物。
「数っ、――多数!! 両方からこっちに向かってきてる!」
まだ時間はお昼過ぎ。
魚頭は夕方から、犬は夜になってから襲ってくることが多かったのに。
今日は長い一日になりそうだ。
「九条さん、呼んでくる?」
それはダメダ。
彼女は戦い続けている。
夜から日が昇るまで。
まだ休ませてあげたい。
「……大丈夫。 僕たちで、僕たちが守るんだ!!」
僕はいつまでも彼女に守ってもらうだけじゃ嫌だ。
僕は彼女を守りたい。
鬼頭さんみたいに強く大きい男になるんだ!
集まった皆が僕の言葉に頷いてくれた。
おじいちゃんたちはなぜか目を潤ませて大きく頷いていた。
「いくよ! みんな配置について!!」
僕は気恥ずかしをごまかすように、大声で戦闘準備と叫んだ。
◇◆◇
何度かの防衛で僕は気づいた。
魚と犬の習性と呼べばいいだろうか、怪物たちの行動範囲と規則だ。
共通するものは一定の壁を乗り越えないということ。
同じ行動を繰り返すことが多い。
弱い怪物を駆除すれば、強い怪物は現れない。
「ゲート解除!」
また門《ゲート》を作ると必ずそこを狙ってくる。
道上にバリケードを作るだけでも門としてとらえるみたいだ。
裏門に集まった魚頭。
綱で結んだゲートを開くと机や棚で作った簡易な道がある。
その正面にはバリケードだ。
鋭い爪を見せびらかせて魚頭がゲートに群がっていく。
「一斉掃射!」
僕の指示に、大きな返事が返ってきた。
空気を裂く竹の音と、魚頭の断末魔の叫び声。
清おじいちゃんが取ってきてくれた竹を使ったトラップ。
スズメをとるために昔作った、と教えてくれたモノだ。
魚頭の弱怪物ならまとめてなぎ倒せる。
倒れた怪物たちへ、バリケードの隙間から竹やりが突き刺さる。
「回収は後で! 次の敵に備えて準備をお願い!」
「「「おう!!」」」
皆の士気が高まる。
裏門をみんなに任せて僕は犬の怪物が迫る正門へと急ぐ。
犬の怪物はやっかいだ。
魚頭たちよりも動きが速く、無理に門やバリケードを壊しにこない。
奴らは集まり上位種がくるのを待つんだ。
中型の赤い犬や大型の双頭の犬型。
正直、双頭の大型は鬼頭君がいなければ僕たちは全滅していたかもしれない。
それほどに、戦力には差がある。
「出るよ!」
だから僕たちは打って出る。
九条さんには止められたけど、僕も戦うよ。
「服部はそこで待機だ!」
「っ!? で、でも!」
「あぁ? わかんねぇのかっ、ぶっとばすぞ!?」
「ひぇえ!?」
反町さんにめちゃくちゃ怒られた。
そんなに怒らなくてもいいじゃないですか!?
「おまえらぁ、いくぞ! 気合いれろ!!」
「「「しゃあああー-!!」」」
反町さんを筆頭に、金属バットやカラーコーンで武装した生徒たちがバリケードを越えていく。
金属バットはわかるけど、カラーコーンでどうするんだろう!?
「びびんな、ゴロよりはやかねぇぞ!」
地を這うように突っ込んでくる犬の怪物。
その牙は足に食い込み離さない。
獲物を引きずり倒し急所にかみつく。
何人もの人を殺してきた怪物だ。
「くぅ~~っ!」
ナイスキャッチ!
腰を落とした生徒がカラーコーンで犬をキャッチした。
「ナイっきゃ!」
顔からカラーコーンに突っ込んだ犬の怪物に、バットが振り下ろされる。 危険な牙を封じこめたナイス作戦だよ。
「すごい!」
言うのは簡単だけど、実際にするのが凄いよ。
さすが野球部!
反町さんを先頭に犬の怪物たちをやっつけていく。
赤黒い犬の中型を反町さんが片づけたところで、犬の怪物たちは退却していった。
「やるぜ俺たち!」
「あぁ! 俺たちだってやればできるんだ!」
戦闘に参加してくれた皆が喜んでいる。
自分たちにもやれる。
僕たちは自信を手にいれたんだ。
(僕は戦ってないんだけどね……)
戦闘で傷を負った人たちに『手当』をしていく。
僕にはこれくらいしかできないから。
九条さんに認められないと戦闘には参加できないのだ。
無理に参加しても足手まといだしね……。
「はは……」
戦勝ムードの僕たちの耳に、悲鳴と――
『――――!』
――銃声が響いた。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる