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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

六十九話

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 どこの世紀末ですか?

「ギャギャ」

「ゲギャギャッ!!」

 そう問いたくなるような出で立ちの、個性の強いゴブリンたちが集まっている。 
 ナイフを横に持ち舌舐めずり、ヒュンヒュンと何かを付けた紐を回し、買い物カートを改造した騎馬もどきに乗るゴブリンたちもいる。
 小型や少し大柄な個体も含めて数が多い。

「ぁっ……あぁ……ぃいやああッ……」

「ギャギャギャッ」

 捕まえた人に悪さをするゴブリンども。
 首と手を木の板に固定され衣服を剥ぎ取られた人は、まるで奴隷のように扱われていた。 その光景に、俺は一瞬で沸点に達する。

「ーー」
 
 『ヴォルフライザー』を一振り。

「ギャギャ……ッ!?」

「ギャ……」

 甲高い音は響き、怒気に中てられたゴブリンたちは立ち竦む。

「ふぅぅ……。 殲滅する」 

 冷静に。 そう思い大きく深呼吸したけど、やっぱりダメだ。
 ゴブリンどもを殲滅する。
 
「ギ、ギャ!?」

「ふっ!」

 一瞬で彼我の距離を詰め、斬り捨てる。
 高回転する刃はオーバーキル。
 ほとんど手ごたえすら感じずにゴブリンたちを撃破する。

「ギャギャ!」

「――っ!」

 遠距離攻撃。
 何かを投げたゴブリン。
 投げつけられた袋を切り伏せると、小さな爆発を起こした。
双頭の野犬のブレスに比べれば威力は大したことはないが、……臭い。
 なんだこの臭い。 犬耳の影響で嗅覚も強化されているから、マジできついぞ。

「……殺ス」

「ギャギャギャッ!?」

 騒がしいゴブリン。
 増援が来ても厄介だ、速攻で倒す。
 
「はぁっ!!」

 横薙ぎに振るった大剣はゴブリンたちを纏めて薙ぎ払い。
 投げつけられる臭い爆弾は回避する。
 触れるな危険。 機動力を活かし躱したついでに突撃。 醜悪な顔を驚きに染めるゴブリンたちは、逃げ出した。
 ビルの時と同じ、どこかに隠れて待ち伏せでもするのだろう。

「うぅ……」

「……」

 ブラックホーンリアを使えば追いかけて殲滅も可能。 ただあまり無駄遣いはしたくないし、泣き崩れている捕らえられていた人を放置もよくないだろう。 
 服を貸そうと思うが、ガチャ産のバトルタキシードは脱げない。
 何か無いかと、辺りを探す。

ガラガラガラガラ。

「?」

 異質な音が道路に響く。
 買い物用カートだ。
 スーパーなどに必ずあるソレが、こちらに向かって進んでくる。
 何か乗っているのが見える。
 大きい。
 肥え太った、ゴブリン。

(なんだ……?)
  
 迂闊だった。
 肥え太ったゴブリンは、カート上で不気味に嗤う。
 立ち上がることさえできなそうだ。 陽気に首を揺らし舌を出している。
 そのあまりの滑稽さに、俺は完全に油断していた。
 カートが近づくのを許してしまった。

「グギャギャギャ――アアアアアアアアアアッ!!」

「――――ッッ!?」

 ゴブリン爆弾。

「くはっ!」

 視界が一瞬で紅に染まり、衝撃で吹き飛ばされた。
 背をガードレールに強打。 べコリとへこむ白いガードレール。 
 爆発した辺りから紫煙が漂う。 

「っ!」

 これは、毒?
 肌に触れるとピリッとして、僅かに吸い込んでしまいむせる。
 あっ、と泣き崩れていた人を確認するが、最初の爆発で死んでいた。
 その無残な亡骸は爆破の威力を物語っている。
 
「あぁ……」

「ギャギャッ!」

「グギャギャギャ!!」

 ゴブリンは嗤う。
 離れた位置から肩を大きく揺らし指をさし、コチラを嗤う。
 死んでしまった人を嗤っているのか、口を押さえて片膝をつく俺を嗤うのか、それとも派手に爆発した同族を嗤い弔っているのか。

「クソが!」

 今すぐに駆逐したい衝動に駆られるが。
 体がマズい。

「ゴホっ、ゴホっ」

 咳が止まらない。
 手が僅かに痺れて悪寒がするし、これって毒状態か!?
 一時撤退。
 葵の家に戻る。

「シン! 無事?」 

 無事ではないが、即死系の毒でもなさそう。
 とりあえず、前に出した万能薬を試してみる。
 ゴクリと水なしで飲み込む。 効くかどうかの確認はおいて、葵と葵ママを担ぐ。

「ああんっ」

「んっ」

 寝ぼけた葵ママが首に顔を埋めてくる。 旦那さんと間違えているのか艶めかしい声で名前を囁いてくる。 ゾクゾクしちゃうからやめてほしい。
 葵もしっかりと捕まり脱出する。

「……」

 二階から上空へ。
 ゴブリンたちは家の前にまた集まり、襲撃の準備をしている。
 空を飛ぶ俺たちには気づいていない。
 咳と僅かな痺れで飛行が難しい。

「あっ、ああっ」

「シン、……わざと?」

 違う。 わざと揺らして巨乳の感覚を楽しんでいるわけじゃないよ!?
 だから首筋をハムハム甘噛みしないでっ。


◇◆◇


 奪還したビルの前に二人を降ろす。
 こちらに気づいていた黒髪ロングたちがやって来る。

「おかえり……なさい?」

「ベルゼ君、――臭い!」

「……」

 臭いって酷くない?
木実ちゃん達も気づいてやって来た。

「鬼頭君、大丈夫ですか? 体調が悪そうですよ??」

「シンク君っ……」

 上目遣いで心配してくれる木実ちゃん。
 玉木さんも駆け寄ってくるが、鼻を押さえて離れた。

「うぅ……ごめんなさい。 体が、その臭いを全力で拒否しているわ……」

「……」

 くそぉ。 ゴブリン爆弾の精神的ダメージ半端ない。
 物理的な威力も相当だ。 助けられなかった、あの光景に、気分はどん底に沈んでいく。
 それに毒も治っていない。 万能薬で症状は軽減されているみたいだが、完治はしていない。 万能に効くけど完治はしないのか……。

「はい、鬼頭君」

「!」

 木実ちゃん聖水。
 しかも出したてほやほや。
 俺は、ありがたく飲み干す。

「ぷふぅ……アリ」

「はい!」

 ちゃんとお礼の言えない俺に、彼女は満面の笑みを咲かせる。
 木実ちゃんの笑顔が、最強のお薬です!
 落ち込んだ気分も一気に晴れた。

 次は油断はしない。
 
 ゴブリン共は絶対に駆逐する!

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