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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

六十六話

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 『一ノ瀬 栞』の保有する能力。

 【千里眼】

 その名の通り千里先を見通すが、距離や障害物の多さで見え方は変わってくる。

「ビル内部にエネミー多数。 上層階に避難している方々がいます」

 虚空を見つめる一ノ瀬の瞳には、ビル内部の情報が映し出される。
 無機質なホログラム映像。
 徘徊するエネミーに立て籠もる人たち。
 鮮明に情報を映し出すことも可能だが、精神的な疲労を軽減するため簡略化した情報のみ読み取る。 
 寝る暇も与えられない一ノ瀬は、すでに【千里眼】を使いこなしていた。

「内部は障害物が多いです。 フレイヤ隊と美愛さんで先行してください」

 東雲駅の目の前にある家電量販店。
 最新家電はもとより生活雑貨やレストランまで併設された人気施設。
 今現在も多くの怪物や人がいるようだ。

「その前に、入り口掃除しないとだよ~~」

「そうですね」

 ビル入口にたむろする緑色の怪物。
 綺麗に刈られた芝生の上に、どこからか持ち出したソファーや机を並べ宴会をしている。 
 器用にプルタブを開け缶ビールで喉を潤し、強奪したつまみを貪る。  
 『ギャギャギャ、ギャギャギャ』と、不気味な笑い声を上げ醜悪な顔を愉悦に歪ませる。

「……ゴブリン」

「気持ち悪いわね」

「不気味です……」

 木実たちは初めて見るゴブリンに嫌悪感を抱く。
 嫌そうな顔だ。
 それは雌としての本能か。 
 
「あっ!」

 壊された自動ドアからゴブリンたちが出てきた。
 多数の戦利品を持ち自慢げに宴会に加わる。
 そこにはぐったりと死んだように動かない人型も含まれていた。

「――おいッ!?」

 漆黒の粒子を瞬かせ、神駆は突撃する。 
 山木の制止の声など無視だ。
 大剣を担ぎ宙を蹴りゴブリンの群れに迫る。



◇◆◇

 
 昼間から飲んでんじゃねぇ!

「ギャギャギャ!?」

 両断したゴブリンから真っ赤な血飛沫が舞う。
 ゴブリンの血はどうやら赤いらしい。
 
「ああ……?」
 
 一体を斬り捨て、その近くにいた奴が驚き向かってきただけで、他は全部逃げ出した。 
 蜘蛛の子を散らすように、『うるさい!』と怒鳴られた悪ガキどもが逃げ出すかのように。

「ギャギャッ……」

 アルテミス隊の放つ矢が何体か仕留めるが、数体に逃げられた。
 逃げた先はビルの中。

「ベルゼさん……。 奴らは臆病で狡猾で残忍です。 取り逃がせばこちらが痛い目をみますから。 きっちりと、仕留めてくださいね?」
 
「……」 

 正直スマン。
 あまりの逃げっぷりに、戸惑ってしまった。

「救助者は?」

「いや、マネキンだな」

 しかも人だと思って突っ込んだら、マネキンだったでござる。
 最悪だ。
 中の敵を警戒させただけ。
 これは最悪だ。

「まぁ、気にするな」

「!」

「だが一人で無理はするなよ。 全員で助けるぞ!」

 近づいてきた山木さん。 文句を言うどころか励まされた。
 クソ! JK好きのダメなおっさんかと思ったら『漢』じゃねぇか!

 
◇◆◇


 さすが山木さんっす。
 死神みたいな人の肩に手を置いて励ますとか、さすがっす。

「いい人ね~~」

 長耳の人が微笑ましそうに見ているっす。
 てかエルフっすよね!?
 なんでみんなスルーなのか謎っすよ!

(リアルエルフ……! スクショしたいっす!!)

 うぅ、スマホの馬鹿、根性無しのヘタレ……。
 自分みたいっすねぇ。 
 スマホが使えてもきっと撮れないっすからね。

(ふふふ……)

 でもまだチャンスはあるっす。
 【念写】スキルを覚えるっす!
まさに夢のスキルっすよぉ。

「おい、寺田ぁ! 何ボサっとしてやがる。 早く来い!」

 厳つい顔で怒鳴るのはやめて欲しいっす。
 山木さん、身内には厳しいっす。
 絶対JKといかがわしい場面を念写して、弱みを握ってやるっす。

「はいっす~……」

「返事はしゃきっとしろ!!」

「はいっす!」

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