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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない
四十二話
しおりを挟む畳の大部屋、卓球場、それに食堂と見て回ったが。
人の姿は無かった。
「うるぁっ!!」
食堂のテーブルの影から飛び出した野犬を、反町さんは叩き潰す。
怒りの形相で怪物たちを屠り、イラついた様子で辺りを見渡す。
「くそっ! ここも手遅れか……」
「……」
荒らされた食堂。
怪物も消えて残ったのは俺たちだけだ。
シャワールームのドアは閉まっている。
ドアは壊されてはいない。 奴らの侵入経路は窓からが多い。
ここは窓ガラスがないのでひょっとしたら、生存者がいるかもしれない。
「おい! 誰かいるか!?」
ドンドンと反町さんはドアを叩いた。
中で人の動いた気配がする。
俺と反町さんは顔を見合わせた。
恐る恐るといった感じで、ドアが開かれる。
「反町、くん?」
「ああ」
「無事、だったのね? よかったわ……」
姿を見せたのは葛西先生。 かなり疲れ切った様子だ。
白衣には血がついて顔色も悪い。
しかし反町さんを確認すると、よかったと、笑顔を作ってみせた。
俺も顔を見せると、肩をビクっと一つ跳ねていたが。
「……他の生存者は?」
「……こっちよ」
男女兼用のシャワールーム。
左右に四つのシャワー。 タイル張りの小さな部屋だ。
普段は使われていない。 合宿をする部活があればといった程度の使用頻度だ。
「どうすることも、出来なかったわ」
「俺も同じだ」
部屋には十人ほどが生き延びていた。
たったそれだけと考えるより、生き延びていた人たちがいたことを喜んだ方がいい。 それぐらいしか俺たちにはできないから。
反町さんは、今にも崩れ落ちそうな葛西先生を支えた。
「……優しいのね」
反町さんの巨漢に体を預け呟いた。
◇◆◇
体育館へと生存者を送った。
ほとんど自力で動ける人たちだったので、移動の護衛をしただけ。
送り届けた時の反応は様々だったが、俺たちが無事に戻ったことに驚いている人も多かったような気がする。
「本当に、倒せるの?」
「……ああ」
たぶん。
「……分かった。 あの子たちの守りは任せて」
俺は九条に作戦を伝える。
ジェスチャーを理解できる美人は、任せてと一つ頷いてみせた。
「一人じゃ危ないですよ!? 僕も戦います!!」
服部が上目遣いで抗議の視線を送ってくる。
「鬼頭君……」
木実ちゃんもだ。
でも、彼女は一緒に戦うとは言わなかった。
「頑張って!」
彼女の鼓舞《エール》に筋肉が震えた。
俺は一人、体育館を後にする。
反町さんも今回は遠慮してもらおう。
先程までの戦いで分かったが、反町さんは確かに強いけど防御面で不安だ。 攻撃後の隙を野犬に飛びかかられヒヤッとした場面もあった。
「ハッ!!」
「キコォッ……」
魚頭も野犬も編成は似ている。
バラバラに動く大量の雑魚、数体で固まって移動する変異型。 それに双頭の野犬のような強力な個体、しかも雑魚を大量に統率するリーダー型。
リーダー型を倒した後はしばらく近づいてこない。
雑魚たちはどこかに離れていく。
そうつまり、リーダー型を倒せばいいということだ。
「おらっ!」
「キャイン……」
雑魚を蹴散らしつつ、校舎側に移動中。
二階の吹き抜けの場所。
反町さんと戦っていた怪物に、飛び降りて攻撃した場所だ。
「……」
魚頭のリーダー型。
青緑色をした怪物。 スラっと長い手足、棘があちこちから生えてアスリートのような研ぎ澄まされた体躯。
戦闘に特化した感じだった。
はたして、正面から奴と戦って俺は勝てるだろうか?
「ふむ……」
ステータスを確認。
+++++++++++++++++++++++++++++++
メニュー
鬼頭 神駆
★魂魄
魂魄ランク:ノーマル
保有魂魄:115ポイント
★スキル
スキル購入
スキル:【自然治癒力強化Lv.1】【槍術Lv.1】【身体強化Lv.1】【忍術Lv.1】
固有スキル:【ガチャLv.1】
★魔法
魔法購入
魔法:【】
★マップ
『闘争地域』
★称号
【*****の発見者】【ママーミーの天敵】【ワイルドドッグの天敵】
++++++++++++++++++++++++++++++
魂魄が100を超えてる。
けれど、魔法は買えない。 魔法購入一覧にはいくつか表示されているのだが。
・黒魔法
・闇魔法
・死霊魔術
・筋肉魔術
・奴隷魔術
・暗黒魔闘術
・禁忌魔法
偏りすぎぃ。
そういえば、スキルや魔法はいくらでも購入できるのか?
ゲームだったら所持制限とかがあることが多い。
適当に購入して、欲しい物が制限に掛かったら最悪だな。
今度万屋に行ったら聞いてみるか。
「ガチャだな」
購入は後回し。
戦力アップにガチャを回そう。 そうだよガチャ。 きっとスーパーレアが出る。 戦力アップ間違いなし!!
「くっ……」
白。
さっそくガチャをしたら、白のカプセルがコロコロと転がる。
ポンとウィンドウでカプセルが開くと、アイテムが目の前に出現した。
「おっ」
スペルカードだ。
狼のイラストが描かれ、『ウルフハート』とカード名が書いてある。
詳細は不明。 三枚あるので試しておいた方がいいだろうか?
「白……」
とりあえず、もうもう一回ガチャを回す。
帽子を被った猫がレバーを引くが、またもや白のカプセルが転がる。
現れたアイテムはゆらゆらと落ちてくる。
二枚目のパンティー。 ちなみに柄は無地の白である。 嫌いではない。
「まじか……」
一回10魂魄。
ちゃんと貯めて、スキルなり魔法を購入したほうがいいんじゃないか? そんな気持ちが沸き上がる。
「あと一回」
そう言って俺はガチャの画面をタップする。
「……」
画面を転がる白のカプセル。
まさかの三連続で白。 確率の表記をちゃんとしてほしいね!
「眼鏡?」
ごく普通の眼鏡。
フレームがメタリックでカッコイイ。
掛けてみるが特に変わった様子は無い。
ハズレアイテムか……。
「あと一回、あと一回だけ……」
あぁ、きっとこのガチャ欲は魂魄が無くなるまで消えないな。
そう思いながらタップした画面は、眩い銀の光に包まれた。
「――ふぉおおおおおお!?」
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