上 下
42 / 179
第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

四十二話

しおりを挟む

 畳の大部屋、卓球場、それに食堂と見て回ったが。
 人の姿は無かった。

「うるぁっ!!」

 食堂のテーブルの影から飛び出した野犬を、反町さんは叩き潰す。
 怒りの形相で怪物たちを屠り、イラついた様子で辺りを見渡す。

「くそっ! ここも手遅れか……」

「……」

 荒らされた食堂。
怪物も消えて残ったのは俺たちだけだ。
   
 シャワールームのドアは閉まっている。
ドアは壊されてはいない。 奴らの侵入経路は窓からが多い。
ここは窓ガラスがないのでひょっとしたら、生存者がいるかもしれない。

「おい! 誰かいるか!?」

 ドンドンと反町さんはドアを叩いた。
 中で人の動いた気配がする。
 俺と反町さんは顔を見合わせた。
 恐る恐るといった感じで、ドアが開かれる。

「反町、くん?」

「ああ」

「無事、だったのね? よかったわ……」

 姿を見せたのは葛西先生。 かなり疲れ切った様子だ。
 白衣には血がついて顔色も悪い。
 しかし反町さんを確認すると、よかったと、笑顔を作ってみせた。
俺も顔を見せると、肩をビクっと一つ跳ねていたが。

「……他の生存者は?」

「……こっちよ」

 男女兼用のシャワールーム。
 左右に四つのシャワー。 タイル張りの小さな部屋だ。
普段は使われていない。 合宿をする部活があればといった程度の使用頻度だ。

「どうすることも、出来なかったわ」

「俺も同じだ」

 部屋には十人ほどが生き延びていた。
 たったそれだけと考えるより、生き延びていた人たちがいたことを喜んだ方がいい。 それぐらいしか俺たちにはできないから。
 反町さんは、今にも崩れ落ちそうな葛西先生を支えた。

「……優しいのね」

 反町さんの巨漢に体を預け呟いた。


◇◆◇


 体育館へと生存者を送った。
 ほとんど自力で動ける人たちだったので、移動の護衛をしただけ。
送り届けた時の反応は様々だったが、俺たちが無事に戻ったことに驚いている人も多かったような気がする。

「本当に、倒せるの?」

「……ああ」

 たぶん。

「……分かった。 あの子たちの守りは任せて」

 俺は九条に作戦を伝える。
 ジェスチャーを理解できる美人は、任せてと一つ頷いてみせた。

「一人じゃ危ないですよ!? 僕も戦います!!」

 服部が上目遣いで抗議の視線を送ってくる。

「鬼頭君……」

 木実ちゃんもだ。
 でも、彼女は一緒に戦うとは言わなかった。

「頑張って!」

 彼女の鼓舞《エール》に筋肉が震えた。


 俺は一人、体育館を後にする。
反町さんも今回は遠慮してもらおう。
先程までの戦いで分かったが、反町さんは確かに強いけど防御面で不安だ。 攻撃後の隙を野犬に飛びかかられヒヤッとした場面もあった。

「ハッ!!」

「キコォッ……」

 魚頭も野犬も編成は似ている。
 バラバラに動く大量の雑魚、数体で固まって移動する変異型。 それに双頭の野犬のような強力な個体、しかも雑魚を大量に統率するリーダー型。 

 リーダー型を倒した後はしばらく近づいてこない。
 雑魚たちはどこかに離れていく。 
 そうつまり、リーダー型を倒せばいいということだ。

「おらっ!」
 
「キャイン……」

 雑魚を蹴散らしつつ、校舎側に移動中。

 二階の吹き抜けの場所。
 反町さんと戦っていた怪物に、飛び降りて攻撃した場所だ。

「……」

 魚頭のリーダー型。
 青緑色をした怪物。 スラっと長い手足、棘があちこちから生えてアスリートのような研ぎ澄まされた体躯。 
 戦闘に特化した感じだった。
 はたして、正面から奴と戦って俺は勝てるだろうか?

「ふむ……」

 ステータスを確認。

+++++++++++++++++++++++++++++++
 メニュー

 鬼頭 神駆

★魂魄
 魂魄ランク:ノーマル
 保有魂魄:115ポイント
★スキル
 スキル購入
 スキル:【自然治癒力強化Lv.1】【槍術Lv.1】【身体強化Lv.1】【忍術Lv.1】
 固有スキル:【ガチャLv.1】
★魔法
 魔法購入
 魔法:【】
★マップ
『闘争地域』
★称号 
【*****の発見者】【ママーミーの天敵】【ワイルドドッグの天敵】

++++++++++++++++++++++++++++++



 魂魄が100を超えてる。
けれど、魔法は買えない。 魔法購入一覧にはいくつか表示されているのだが。

・黒魔法
・闇魔法
・死霊魔術
・筋肉魔術
・奴隷魔術
・暗黒魔闘術
・禁忌魔法
 
 偏りすぎぃ。
 そういえば、スキルや魔法はいくらでも購入できるのか?
 ゲームだったら所持制限とかがあることが多い。
適当に購入して、欲しい物が制限に掛かったら最悪だな。
 今度万屋に行ったら聞いてみるか。

「ガチャだな」

 購入は後回し。
戦力アップにガチャを回そう。 そうだよガチャ。 きっとスーパーレアが出る。 戦力アップ間違いなし!!

「くっ……」

 白。
 さっそくガチャをしたら、白のカプセルがコロコロと転がる。
ポンとウィンドウでカプセルが開くと、アイテムが目の前に出現した。

「おっ」
  
 スペルカードだ。
狼のイラストが描かれ、『ウルフハート』とカード名が書いてある。
 詳細は不明。 三枚あるので試しておいた方がいいだろうか?

「白……」

 とりあえず、もうもう一回ガチャを回す。
帽子を被った猫がレバーを引くが、またもや白のカプセルが転がる。
 現れたアイテムはゆらゆらと落ちてくる。
 二枚目のパンティー。 ちなみに柄は無地の白である。 嫌いではない。

「まじか……」

 一回10魂魄。 
 ちゃんと貯めて、スキルなり魔法を購入したほうがいいんじゃないか? そんな気持ちが沸き上がる。

「あと一回」

 そう言って俺はガチャの画面をタップする。

「……」

 画面を転がる白のカプセル。
まさかの三連続で白。 確率の表記をちゃんとしてほしいね!

「眼鏡?」

 ごく普通の眼鏡。
フレームがメタリックでカッコイイ。
掛けてみるが特に変わった様子は無い。
 ハズレアイテムか……。

「あと一回、あと一回だけ……」

 あぁ、きっとこのガチャ欲は魂魄が無くなるまで消えないな。
そう思いながらタップした画面は、眩い銀の光に包まれた。

「――ふぉおおおおおお!?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...