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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

四十一話

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 体育館の中が騒がしい。
 
「鬼頭君!」

 木実ちゃんが叫ぶ。
何かがおきているのかもしれないと、俺は急いでドアをこじ開ける。
 ガガッと、歪んだドアは音を立てた。

 
「……」

 体育館にいた人たちは逃げ惑っていた。
 俺たちから……。

「お、鬼頭さん……?」

 武器を構える可愛い系男子と、カッコイイ系女子のカップル。
服部と九条。 九条の顔色が悪いな、脚を怪我しているようだ。
 それに反町さんも。 
 服部は、目を見開き驚いた様子で声を掛けてきた。

「そ、その……無事、だったんですね?」

「……おう」

 日帰りの予定が一泊してしまったからな。
 死んだと思われていたのかも。
そりゃ幽霊を見たようにビックリしてもしょうがないか!

「鬼頭って、髪、気づいてないのかな……?」

「極道オーガ……」

 もちろん気づいている。
 自慢のサラサラ金髪ヘアーが、チリチリのアフロみたいな髪型に変わったことだろう?
 双頭の野犬にやられたせいだな。 ちなみに眉毛も消失している。
 
 一度坊主にすれば元に戻るだろうか? 
 坊主は嫌なんだが……。


「み、みんな! 大丈夫っ、味方だよーー!」

 逃げ惑う羊たちを、服部が落ち着かせている。
 
「くく……。 驚かせるなよ、鬼頭」

「……声ぐらい、掛けなさいよ」

 反町さんと九条がその場に座り込む。
 やはりまだ救急車は来ていない。 服部の【手当】でも治せていないようだ。
 俺はカバンから二つの瓶を取り出す。
 薄緑色の液体の入った瓶だ。

「なんだ、これは?」

「飲めばいいの……?」

 二人は一瞬戸惑うが、一気に飲み干した。

「「うっ!?」」

 猫の万屋で購入した怪我用のポーション。
 一本じゃ治らないかもと、二本購入しておいてよかったな。

「「マズイッ!!」」

 頭を抱え悶える二人。
 どうやら凄くマズいらしい。
しかし、怪我をしていた部分が淡く発光している。

「腕が、動く……! 凄いぞ鬼頭!」

「脚……治った?」

 二人は包帯と添え木を外し、怪我の確認をして顔を喜ばせた。
 ちなみに九条はスカートをめくっていたが、スパッツを穿いていたので残念である。 顔色はまだあまり良くないので、体力は回復していないようだ。 それでも問題なく歩けている。

「九条さんっ!?」

 歩いている九条を見て、服部が驚きの声を上げる。 

「鬼頭のおかげ」

「鬼頭さんーー!!」

 服部が抱き着いてきた。
背の低い服部は俺の大胸筋に顔を埋めている。

 男に抱きしめられて喜ぶ趣味はないので、やめてほしい。


◇◆◇


 落ち着いた服部から、状況を説明してもらった。

「ではまだ、下の階に人がいるんですね?」

「うん。 動かせなかった人や、葛西先生も。 看病してくれていた人たちも……」

 その言葉を聞いて、木実ちゃんが俺を強く見つめる。
 
 天使の望むままに。 おっぱい契約もあるしね。
 
 俺は槍を手に出口に向かう。
 木実ちゃんたちにはここにいてくれとジェスチャー。
 
「俺も行くぞ」

「ぼ、僕もいきますよ!」

 反町さんは鉄の支柱を手に続き、服部は九条に止められる。
 過保護な彼女ですね。 体育館の隅で固まる人たちを見ると、他に行く人はいなそうである。 体育館の防衛も必要だから、行くのは俺と反町さんだけでいいけど。

 俺たちが体育館から出ると、大きな溜息が聞こえた。


 体育館の下は卓球場と合宿所になっている。
 合宿所は、調理室兼食堂と畳の大部屋、それにシャワールームもある。
 避難しているとすれば、大部屋だろうか?

「来るぞ!」

 狭い。
 巨漢の反町さんと並ぶと、通路が狭い。

「オオオオ!!」

「キャイン!?」

 反町さんが戦うところを初めて見るが、凄い。
 パワフル。
 デブではなく筋肉が凄いのだろう。
鉄の支柱を上手に操り野犬を叩き殺す。

「はあっ!」

「クポッ……」

 後方から来た魚頭を突き殺す。
野犬ほどの速度がない魚頭は、槍のいい餌だ。
 
「避けろ!」

 棘つき。
 投げ放たれた骨矛を、叩き落す。
 かなりの威力と速度だが、落ち着けば難しくはない。
 俺は一気に距離を詰め、二投目は投げさせない。

「キコォッ……」

 棘つきの喉元に槍を突き立てた。

「っ! ……やっぱり、無理矢理にでも野球部に入れるべきだったか?」

 坊主は嫌なので、お断りします。


 襲ってくる野犬と魚頭を倒し、畳の大部屋へとやって来た。
 そこには人の影は無い。
 かわりに、争っている怪物たちがいた。

「グルウウアアア!」 

「キコオオオオオ!」

 荒らされる畳。
 爪で裂かれ、骨矛が突き刺さる。 壁についた血飛沫の跡。
 怪物の死体は消える。 
けれど、消えない死体が端に転がっている。

「……」

「クソっ……」

 俺と反町さんは、苛立ちをぶつけるように、怪物たちの間に割って入った。
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