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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない
三十四話
しおりを挟む日は落ちた。
民家に孤立状態で待避した俺たちは、静かに野犬たちが離れるのを待っていた。
「犬……まだいる?」
「……ああ」
俺の犬耳は辺りで徘徊する野犬たちの音を拾う。
恐らく気づかれている。
しかし、襲ってはこない。 なぜだ?
俺は窓際で注意深く、聞き耳を立てる。
「こ、木実? また大きくなったの??」
「ふぁっ……。 ちょっとリサちゃん、揉まないでっ」
「いいじゃない。 もっと大きくしてあげるっ!」
「んんっ!」
木実ちゃんのおっぱいが揉まれるところが、鮮明にイメージできる。
犬耳の効果か。 見えていない部分までなんとなく。 煩悩パワーかもしれないが。
二人はふすまの向こうで体を拭いている。
だいぶ走って汗を掻いた。 敵に囲まれている状態で不用心だが、休めるときに休んでおいたほうがいい。
葵は一人で、自分で拭いていた。
恐らく、猫の万屋でおもらししたから恥ずかしいのだろう。
「オーガ。 体、拭いてあげようか……?」
「……ノー」
ソファーに腰かけた葵は、悪戯に言ってくる。
だいぶ俺になれてきているな。 いい傾向だ。 初めての女友達ができるかも?
体はバトラータキシードのおかげで不快感は無い。
着たまま粗相をしても綺麗にしてくれそうだ。
特殊効果なのかな? 【清潔】とか。
中世の騎士など、重い鎧を着て長時間戦う人たちはそのまま垂れ流したらしいし。
そのときに、このタキシードがあったら最高だったろうね!
「鬼頭。 あんた助ける代わりに、木実の胸を強要したの? ――最低ねっ!」
ダン! とふすまを開けたミサが、怒った様子でそう言ってきた。
おっぱい契約のことですね? えぇ、そうです。 俺は最低です。
野犬に囲まれているんだから、もう少し静かにしてほしいのだが。
「ち、違うよ! 私がお願いしたの。 鬼頭君は悪くないから!」
「くっ……。 木実にこんなこと言わせて、ほんと最低よっ!!」
「「……」」
なんてめんどくさい奴なんだ。
俺だって別に揉むつもりは無かったし。 偶然、たまたま、揉んでしまったけれど。
「私のも、……揉む?」
「……ノー」
揉むほどの胸、無いよね?
そんな視線を葵に向けると、向う脛を蹴ってきた。
「あ、葵まで……? この変態、ロリコン野郎!」
「……ミサ?」
今度はミサの向う脛を蹴る葵。
仲がいいね。
しかし、腹減ったな。
朝に食べたおにぎり三つじゃ、もう限界だ。
俺は悪いと思いつつも、台所を漁る。 野犬がいつ襲い掛かってくるか分からないし。 腹ごしらえしておかないと。
見つけたのは炊飯器の中で冷めたご飯とカップ麺。
冷蔵庫の中の食材もまだいけるかな。 でも、明日にはもうダメになってしまうかも。 電気が止まって冷凍できていないからね。
(お湯が……)
ガスも電気も止まっている。
カップ麺にそそぐお湯がない。
ダメになってしまいそうな食材を調理する火がない。
「……」
流石に家の中で焚火をするわけにもいかないしな。
傷んでしまいそうな野菜にマヨネーズをかけ、栄養補給。
俺はウサギじゃないんだぞ。 そう思いつつも食べられることに感謝して、束の間の休息をとる。
「ちくわマヨ」
「勝手に食べちゃ、ダメだよ……?」
「うーん、だけどさ?」
倫理的な問題だ。
哲学的か?
木実ちゃんは反対か。
小さな事でもストレスになる。 早急に解決せねば。 木実ちゃんの玉の肌にニキビができたら大変。 肌の難しいお年頃だからね!
『現在取り扱っているのはポーションや食料、それに武具。 目玉は魔導具でしょうか』
猫の万屋で帽子を被った猫が言っていた。
食料も取り扱っていると。
果たしてどんな食料か?
人間でも食べられる物なんだろうか……。
外が騒がしい。
犬どもがさらに集まってきている。
「ふぅ……」
休憩は終わり。
野犬狩りを始めようか。
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