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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

三十一話

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 猫は頬髭を上げて微笑む。

「魔皇帝位争奪戦。 これは魔族最大のお祭りのようなものでして、魔界全土の魔王、及びその眷属たちが集結します。 魔界の果てだろうが、遠路はるばる意気揚々と、適地蹂躙しつつやってきますねぇ。 ……血の気の多い種族なのでしょう、魔族とは」

 どこかハニカむような笑み。
キラリと牙が見え、血の気が多そうな猫だ。 

「このお祭りが開かれるのは魔皇帝位に空席が出た場合か、新たに魔皇帝位が設立された場合です。 今回は前者ですね。 黒の魔皇帝が魔神へと至りましたので、一つ空席となりました」

 陽気にコロロと喉を鳴らす猫。
 黒の魔皇帝と言った時は大げさなリアクションしてみせ、昔を懐かしむような表情をみせた。 

「えっと? どうしてここで、そのお祭りが開かれているんですか?」

 人間大の猫と普通に話す木実ちゃん。
 意外と肝が太い。 いや、木実ちゃんは痩せているよ? 痩せているのにボインボイン。 テニスウェアがはち切れそうなくらい歪んでいる。 
 
 そういえば、おっぱい契約って一回だけなのかな?
 また、……揉んでもいいんだろうか?

「うん? どうしたの、鬼頭君??」

「……いや」

「そこの彼は今、君に欲情していたね。 種付けしたいと、思っていたようだよ? まったく、私の話に集中してほしいものだね。 まぁ人族はいつでも発情中だから仕方ないかね?」

――猫ぉおおおおおおおおお!?

 「ふぇ!?」と胸に両手を交差させ後ずさる木実ちゃん。
顔を真っ赤にさせて、ケダモノを見る目で俺を見てくる。
 誤解だ。
 俺は、俺は……。

「さて。話を戻すけれど、黒の魔皇帝は大変面白い方でね。 なんでも『故郷に錦を飾る』とか、『クソったれな世界に祝福を』などと言って、今回の祭りを主催運営してくださっているそうなのです。 これほどの事象を巻き起こすとは、さすがは魔神と言ったところでしょうね」

 おしゃべり好きな猫は話を再開する。
俺と木実ちゃんの間の気まずい空気など、一切無視だ。

 はぁ……。

 しかしその黒の魔皇帝とかいう奴は、クソ迷惑な野郎だな……。

「意味わかんない……」

 ミサは納得できないと言った様子で呟き、葵はまだ張り付いたままだ。

「おや。 もうこんな時間ですか。 そろそろ夕餉の時間ですね。 美味しそうなお嬢さんたちを見ていたら、お腹が空いてきてしまいました」

「「「!?」」」

 獲物を狙う猫の瞳。
 好きなだけいたぶってから内臓を生で食べそうな顔を見せる猫。
 腹が減ったから帰れと、催促しているのか?
 しかし、俺は一つ聞きたかった事を尋ねる。

「……コレ」

「……ふむ。 それは交換できませんね。 あなたの魂魄と紐づけされているようです。 どうしても具現化したい場合は、魂魄を使うことになりますね。 クレジット換算で一万は必要です」

 ガチャからでたタキシード。 
 売るどころか、具現化するにはクレジットが必要らしい。
具現化すれば普通の服のように、脱いだりできるってことかな?

 とりあえず、翡翠色の魔石を二十クレジットで売る。
 頼まれた薬はないみたいなので、ポーションを購入する。

「怪我ならこちらですね。 怪我治療用の初級ポーションが十クレジット。 体力回復や病気・状態異常も十クレジットで買えます。 複合タイプのポーションは少々お高いですね」

 二十クレジットしかないので、怪我用ポーション二本を購入。
薄緑色の液体が入った小さな瓶を二つ。 帽子を被った猫から受け取る。
 反町さんの腕もこれで治るだろうか?

 窓の外を見た猫。

「夜道にはお気をつけて。 今宵は月がよく出ていますから、牙犬どもの力が強まるでしょうね。 まったく、あんなキャンキャンと五月蠅い犬どもの近くに店が出てしまうとは、ついていませんね。 ……クフフ、奴らからのドロップ品は色を付けて、買取いたしますよ?」

 変な笑い声の猫は、ニヤリと笑った。


◇◆◇

 
 囲まれた。

「……こっちだ」

「うん!」

「はぁっ……はあっ……あっ!?」

 転びそうになった葵を抱え上げる。
 小学生のような見た目通り軽い葵を肩に担ぎあげ、民家に隠れる。
 不法侵入だけど、仕方ない。

「ふぅ……」

 塀の高い大きな一軒家。
 車庫に車は無し。
明かりもなく人の気配もない。

 グルルルッ!

 野犬の唸り声が夜の空に響く。

 頑丈な玄関ドアは鍵が二つ掛けられていた。
 視界を上に。 二階の窓、その一つは網戸だ。 不用心だね。 車庫から上れそうだし。 まぁこの辺は田舎で平和だから、結構鍵を掛けない家も多い。 

「鬼頭君っ」

 ヒョイ、ヒョイと二階の窓から侵入。
良い子はマネしちゃダメ絶対。 カラカラカラと網戸を開けた。
 
「……」

 子供部屋。
 六畳間ほどの綺麗に整頓された部屋に土足で踏み入るのは、若干の抵抗はある。 しかし、急を有するのでしょうがない。 
 階段を下り一階のドアを開けて、木実ちゃんたちを中に招き入れる。
 
「はぁ、はぁ……多すぎだよ……」

「まだ声が聞こえるね……」

「水……」

 玄関から上がりすぐ倒れ込む三人。
 
 俺たちは猫の万屋から出るとすぐ、野犬の群れに襲われた。
 まるで待ち構えていたような。 いや、どちらかと言えば猫の万屋には、近づくことを躊躇っていたよう感じだ。
 
 まぁなんにせよ、待ち伏せ気味に待機していた野犬どもと追いかけっこ。 高校からは少し離れてしまった。 しかも、奴らのテリトリーっぽい大通り側に追い込まれた感じだ。

「ごめんなさい……」

 そう言って靴を脱ぐ木実ちゃん。
 うーむ。 何が起こるかわからないから、脱がないほうがいいと思うのだけど。 
 まっ、いざとなったらお姫様抱っこすればいいね!

「あぅ……」

「……」

 木実ちゃんと目が合ったら、そらされてしまった。

 ……。
 さっきの帽子猫の発言のせいか?
 種付けって……。 もっとオブラートに包んで言ってほしい。 って、俺は胸を揉みたいと思っただけなんだけど!?

「漁っちゃっていいのかな?」
 
「非常事態。 あとで謝る」

 葵は勝手に冷蔵庫を開け、喉を潤している。
 良心の呵責はあるが、俺もいただこう。

 
 オオォーーン!!

 キコォオオオオ!!

「……」

 威嚇の雄叫び。
東雲東高校の方角から、けたたましく夜空に響いていた。

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