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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

三十話

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「万屋と呼んでいたただいて構いませんよ。 各地で店を構える同胞のこともそうお呼びください。 我々も適当にお呼びしますがね? どうにも見分けがつかないものでして」

 あなたは少し異なりますが……。 と帽子から鋭い瞳を向ける猫。

 テクテク。
 帽子を被りなおした猫は音もなく歩いて、カウンターの向こうに移動した。 キィ……と、音を立てスイング式のドアが揺れる。

「万屋【猫の手】にようこそ。 本日は何をお求めですかな?」

「「「「……」」」」

 ドヤ顔猫は肉球をカウンターに、もう片方の肉球で帽子のつばをクイっと上げた。
 お品書きすらないのだが。
頼まれた薬を要求したら、お代に魂とか取られそうなほど怪しい。

「えっと、何を売っているんですか……?」

 木実ちゃんがおずおずと質問する。
 葵は震えて俺の影に隠れている。 殺気を向けられたのがよっぽど怖かったのかピッタリとくっついて邪魔だ。 ミサに至っては現状が呑み込めていないのか、完全に空気と化している。

「なんでも、と、言いたいところですがね。 現在取り扱っているのはポーションや食料、それに武具。 目玉は魔導具でしょうか」

 店内に飾れている物は魔導具なのか?
紫色の煙を吐く像や、呪われていそうな人形など。 ガラクタにしか見えない物も多い。 

「魔導具ですか?」

「そうですよ。 例えばこれは『精霊の羽衣』。 中級精霊の精霊羽を千匹分むしり取り、特殊な製法で編みこまれた【猫の手】オリジナルの逸品です」

「そ、そうなんですか……」

 色鮮やかな半透明な羽衣。 精霊の怨念が宿っているのか、キラキラと輝いている。

「クフフ。 驚いてますね? 装備者は【飛行】【魔法耐性】【状態異常耐性】【精霊の呪い】を得ることができます。 【状態異常耐性】のおかげで呪いにも抵抗できるのですよ」

 やっぱり、呪われてるんかい!

「価格も三千クレジットと、大変お買い得ですよ。 中級精霊の羽の原価を考えたらもう、大赤字ですねぇ~。 まぁお祭り価格というやつですかね」

 特価です、と腕組みをする猫は溜息を一つ。
 クレジットは単位なんだろうけど、三千円じゃないよな……。
 俺は試しに千円札を猫に見せてみる。

「ダメダメ。 この世界のお金は使えません。 無価値、ゴミ、紙クズ。 ただの紙切れのほうが価値がありますよ。 クレジットに交換できるのは魂魄、または魔力を含む素材ですね」

 猫はゴソゴソとカウンターの下を漁る。
 店内は暖色系の明かりに優しく包まれている。 猫型の家の目部分の窓から外を見ると、外は夕暮れ時だ。 民家に隠れて野犬の群れをやり過ごしたり、慎重に進んでいたら時間が随分と掛かってしまった。
 
 おしゃべり好きの猫。
 この調子だと、帰りは夜になってしまう。 真っ暗闇の中での戦闘は嫌だな。

「これは魔石と魔晶石です。 こっちは魔力草。 そして、そちらの人族がもっている矛も魔力を含む武具ですね。 魂魄の交換はあまりお勧めできませんから。 これらを持ってきていただくことをお勧めしますね」

 カウンターの上にコロコロ転がされた石と宝石。
 魔石は赤紫色の石。 僅かに不思議な感じを受けるが、注意しないと普通の石と区別がつかないレベルなんだが……。
 
 魔晶石と言っていた方は、魚頭のバケモノが落とした翡翠のような石に似ている。 より澄んでいて禍々しいオーラを発しているけど。
 一応拾っておいた石をカウンターに載せる。 

「ほお! すでにお持ちでしたか。 これは魔石ですね。 なかなかの保有魔力です。 これなら二十クレジットで交換しましょう」

 残念ながら魔晶石ではないらしい。
俺が疑問に思っていると、おしゃべり好きな猫が説明してくれる。
 
「保有魔力や性質により、形や色が変わります。 より強大な力をもつ魔物ほど、良い物を落とすでしょうね」

 手に翡翠色の石を持つ猫が語る。
 ほぉ、と頷く俺と木実ちゃん。
そんな中、ずっと黙っていたミサが口を開く。

「あ、あの……。 この今の状況ってなんなの? 祭りとか言ってたけど、一体どういうことなのっ!?」

 ミサは疑問をぶつけると、猫の鋭い瞳から隠れるように、俺の背後に逃げた。

 その質問に、『クフフ』と変な笑い声を上げた帽子を被った猫は答えた。
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