30 / 179
第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない
三十話
しおりを挟む「万屋と呼んでいたただいて構いませんよ。 各地で店を構える同胞のこともそうお呼びください。 我々も適当にお呼びしますがね? どうにも見分けがつかないものでして」
あなたは少し異なりますが……。 と帽子から鋭い瞳を向ける猫。
テクテク。
帽子を被りなおした猫は音もなく歩いて、カウンターの向こうに移動した。 キィ……と、音を立てスイング式のドアが揺れる。
「万屋【猫の手】にようこそ。 本日は何をお求めですかな?」
「「「「……」」」」
ドヤ顔猫は肉球をカウンターに、もう片方の肉球で帽子のつばをクイっと上げた。
お品書きすらないのだが。
頼まれた薬を要求したら、お代に魂とか取られそうなほど怪しい。
「えっと、何を売っているんですか……?」
木実ちゃんがおずおずと質問する。
葵は震えて俺の影に隠れている。 殺気を向けられたのがよっぽど怖かったのかピッタリとくっついて邪魔だ。 ミサに至っては現状が呑み込めていないのか、完全に空気と化している。
「なんでも、と、言いたいところですがね。 現在取り扱っているのはポーションや食料、それに武具。 目玉は魔導具でしょうか」
店内に飾れている物は魔導具なのか?
紫色の煙を吐く像や、呪われていそうな人形など。 ガラクタにしか見えない物も多い。
「魔導具ですか?」
「そうですよ。 例えばこれは『精霊の羽衣』。 中級精霊の精霊羽を千匹分むしり取り、特殊な製法で編みこまれた【猫の手】オリジナルの逸品です」
「そ、そうなんですか……」
色鮮やかな半透明な羽衣。 精霊の怨念が宿っているのか、キラキラと輝いている。
「クフフ。 驚いてますね? 装備者は【飛行】【魔法耐性】【状態異常耐性】【精霊の呪い】を得ることができます。 【状態異常耐性】のおかげで呪いにも抵抗できるのですよ」
やっぱり、呪われてるんかい!
「価格も三千クレジットと、大変お買い得ですよ。 中級精霊の羽の原価を考えたらもう、大赤字ですねぇ~。 まぁお祭り価格というやつですかね」
特価です、と腕組みをする猫は溜息を一つ。
クレジットは単位なんだろうけど、三千円じゃないよな……。
俺は試しに千円札を猫に見せてみる。
「ダメダメ。 この世界のお金は使えません。 無価値、ゴミ、紙クズ。 ただの紙切れのほうが価値がありますよ。 クレジットに交換できるのは魂魄、または魔力を含む素材ですね」
猫はゴソゴソとカウンターの下を漁る。
店内は暖色系の明かりに優しく包まれている。 猫型の家の目部分の窓から外を見ると、外は夕暮れ時だ。 民家に隠れて野犬の群れをやり過ごしたり、慎重に進んでいたら時間が随分と掛かってしまった。
おしゃべり好きの猫。
この調子だと、帰りは夜になってしまう。 真っ暗闇の中での戦闘は嫌だな。
「これは魔石と魔晶石です。 こっちは魔力草。 そして、そちらの人族がもっている矛も魔力を含む武具ですね。 魂魄の交換はあまりお勧めできませんから。 これらを持ってきていただくことをお勧めしますね」
カウンターの上にコロコロ転がされた石と宝石。
魔石は赤紫色の石。 僅かに不思議な感じを受けるが、注意しないと普通の石と区別がつかないレベルなんだが……。
魔晶石と言っていた方は、魚頭のバケモノが落とした翡翠のような石に似ている。 より澄んでいて禍々しいオーラを発しているけど。
一応拾っておいた石をカウンターに載せる。
「ほお! すでにお持ちでしたか。 これは魔石ですね。 なかなかの保有魔力です。 これなら二十クレジットで交換しましょう」
残念ながら魔晶石ではないらしい。
俺が疑問に思っていると、おしゃべり好きな猫が説明してくれる。
「保有魔力や性質により、形や色が変わります。 より強大な力をもつ魔物ほど、良い物を落とすでしょうね」
手に翡翠色の石を持つ猫が語る。
ほぉ、と頷く俺と木実ちゃん。
そんな中、ずっと黙っていたミサが口を開く。
「あ、あの……。 この今の状況ってなんなの? 祭りとか言ってたけど、一体どういうことなのっ!?」
ミサは疑問をぶつけると、猫の鋭い瞳から隠れるように、俺の背後に逃げた。
その質問に、『クフフ』と変な笑い声を上げた帽子を被った猫は答えた。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる