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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない
二十五話
しおりを挟む犬耳を着けたまま屋上に出た。
夜の匂い。 犬耳を撫でる風を感じる。 感覚もしっかりあるようで、少しだけなら自分の意志でも動かせる。
側を流れる川の音も、周囲で喋っている声も聞こえる。
「見回りか……」
淫夢の中の木実ちゃんに頼まれたような気もするけど。
教師と生徒が正門と裏門を見張っていた。
裏門側を見張る生徒の声が聞こえる。
「来ないな……」
「そのほうがいい」
「まぁな……」
そんな会話。
決して大きな声で喋っているわけではない。
けれどこの犬耳――【ガードドッグイヤー】はしっかりとその会話を捉えている。 俺は目を閉じ、さらに耳を澄ました。 車の音もない夜の町は静かで、魚頭も眠っているのかあの気色悪い叫び声も聞こえない。
「ん?」
逆側。
正門から校庭に沿う道路。 少し坂道になっており、校庭から見れば高さ十メートルほどの壁だ。 しかし、降りようと思えば、侵入しようと思えばそこから入り込める。 そんな場所から今まさに呼吸を荒くする何かが侵入しようとしている。
深夜の襲撃者。
新たな敵だ。
「ふぅ……」
俺は一つ溜息吐き、白い骨矛を握りしめた。
◇◆◇
校庭の隅に放置されたブルーシート。
最初の襲撃で死んでしまった者たちに被せてある。
襲撃者たちはその中に入りゴソゴソと動いている。
死肉を喰らっているのか……?
ザッ、ザッ、ザッ。
砂の校庭は歩くごとに音がする。
食事に夢中だった奴らも接近する俺に気づいたのか、ブルーシートの中から這い出てきた。
ガルルゥ……!
犬。
汚ねぇツラした野犬だ。 黒茶色の中型犬。
魚頭と違って一目でバケモノと判断しづらいのが困るな。
月明りを反射して野犬どもの赤い瞳が爛々と光る。
血に濡れた口もとは大きく口角を上げ、歯茎を剥き出しに鋭い牙を見せつけてくる。 噛まれたくないね。 狂犬病怖い。
「ガルァ!」
「――シッ!」
一頭が襲い掛かってくる。
骨矛を突き出す。
「っ!?」
躱された。
速い。
低位置から疾駆する野犬が、一気に距離を縮め、飛びかかってきた。
「ググゥ!!」
「くっ……!」
脚に噛みつかれた!
狂犬病がっ!
「ガウッ!」
「グルアッ!」
さらに迫りくる野犬ども。
「おるぁあああ!!」
横薙ぎ《フルスイング》。
腰と背筋、それに腕力で強引に振り抜く。
風切りが闇夜に響く。 僅かに骨矛が発光していた気がした。
「「ギウッ!?」」
「――グルアッ!!」
二頭を吹き飛ばした。
直後。
さらに一頭が隙をついて飛びかかってくる。
地を蹴り、一気に首元へ食らいつこうと牙を剥き出しに。
回避不能。
俺は咄嗟にショルダーロールで受け流す。
着地した野犬を、脚に食らいつく野犬ごと蹴りとばす。
蹴り飛ばされた野犬は砂埃を上げ吹き飛ぶ。
「はっ、はああ!」
それでも脚から噛んで離れない野犬の頭に、骨矛を突き立てた。
「はは……はははっ!」
壁を降り追加の野犬がやって来る。
それを見て。
俺は野犬の如く、口角を吊り上げた。
ピコピコと犬耳が動いているのには気づかない。
「駄犬がぁあああ!!」
叩きのめす。
深夜の校庭に野犬の悲鳴が響く。
月明りの下。
蠢く赤い光。
乱舞のように白い矛は振り回され。
聞こえる。
野犬の咆哮と悲鳴。
天に木霊する悪魔の笑い声。
「「「……」」」
駆け付けた見回りの者たちは、その光景に立ち竦むだけだった。
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