眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
51 / 116

作戦会議・トーマ視点

しおりを挟む
寄宿舎に戻りこっそりため息を吐く。
アルトのところに行きたいが、まずこの空気をどうにかする必要があるな。

シグナム家から帰ってきたら何やら派閥が出来ていた。
アルトを信じる者の派閥とアルトは敵、殺すべきだという派閥だ。
俺は勿論前者だが、騎士団長だから中立の立場の方がいいのかもしれない。

明らかに敵派の派閥の方が珍しいが信じる者の派閥の中に珍しい顔があった。

リンディは信じてるだろうから当然としてノエルがアルトを信じる派閥にいて驚いた。

「ノエル、お前も信じるのか?」

「…まぁ、あの時はリンディ様を守る事に必死で敵の言葉を鵜呑みにしたけど…リンディ様が言った通り、確かにアイツはリンディ様を守ろうとしたなぁーって思って」

「……そうか」

きっと俺の時のようにリンディに聞いたのだろう。
俺はノエルにリンディの護衛を頼まないと言ったが、結局騎士団の中で一番信用出来るのはノエルだ。
不安がないと言えば嘘になるが、ノエルを信じる事にした。
結果的にアルトの優しさを見ていい結果になった。

親友がアルトを信じてくれて自分のように嬉しく思う。
しかし、敵派はどう説得しようか…アルトを昔から知る者以外だとリンディが襲われたアレが全てだ…今の段階だと説得はほぼ不可能だろうな。

今は放置するしかないがずっとほっとくわけにもいかない。
アルトを信じる派はグランを除き冷静な奴が多いだろう。

リカルドに敵派が妙な行動をしないように見といてくれと頼んだ。
リカルドは先輩騎士に可愛がられているからリカルドの言葉なら少し耳を傾けるかもしれないと思った。
本当はノエルが良いだろうが、ノエルは副団長で仕事が多いからいちいち気にしてられないだろう。

それにノエルには話したい事があった、大事な話だ。
ノエルの肩を叩き仕事部屋に向かう。

まだ言い合いを続けていた部屋から離れた仕事部屋のドアを閉めると音は聞こえなくなった。

静かな空間になりノエルは口を開いた。

「お前は彼をどう思ってる?」

「愛してる」

「…………………は?」

ノエルがどう思うか聞いてきたから素直に答えただけなのに呆然とした顔はなんだ、失礼な奴だな。
ノエルは「いや、敵か味方か聞いただけなんだけど…」と言った。
…そうならそうと言ってくれればいいのに、紛らわしい。

俺はノエルに話した、アルトが昔から言っている俺の姫だという事を…
ノエルは姫が女の子だとずっと思い込んでいて驚いていた。
当然だ、俺もずっと思い込んでいたんだから…

「…マジか、お前のお姫様が男でシグナム家の息子か………悲恋じゃないか」

「何故悲恋にする?…俺は絶対に悲劇にはしない、アルトを幸せにする」

「……………そうか、まぁ…お前の見る目は信じてるからきっと彼も大丈夫なんだろう」

ノエルは苦笑いして最後に「まぁ、男より女の子の方が良い匂いするし…可愛いけどな」と言った。
お前が連れている女は香水キツいし化粧も濃いけどな。
アルトは化粧してなくて可愛いし体臭は良い匂いだ、お前には嗅がせないけどなと勝ち誇った顔をする。

…っと、そんな話をしに呼んだんじゃなかった。

ノエルは「トーマの好きな子はリンディ様だと思ってたよ」と机にある書類を眺めて言った。
リンディはただの幼馴染みだ、何故そうなるのか本気で分からない。

「俺はアルトに話をしに行く…それでアルトを俺の傍に置きたい」

「……それって騎士団に入れるって事か?」

「アルトが頷いてくれれば…」

「そっか、でも今はちょっと厳しいな」

分かってる、アルトに敵意がある奴がそれを許すとは思えない。
アルトが騎士団入団試験に合格して騎士団に入ってもアルトに危害を加える奴が一人でもいたら危ない。
今は、難しいだろう……でもいつか…共に居てくれる日が来たら嬉しい。

ノエルは「まずは説得だな」と俺を見た。
道のりは長いけど、少しずつアルトを理解すればきっと信じてくれる…俺の騎士団はそういう奴らがいる場所だと信じている。

ライバルが増えたら困るけど、誰にも負けない自信があるからやはり大丈夫だ。

「悪かったな、時間取らせて」

「麗しの騎士団長様のご命令とあれば喜んで!」

「…言ってろ」

最近はアルトの事であまり笑う事がなかったが、俺とノエルは笑った。
ノエルには俺の気持ちを伝えたかった。
他の奴らにはアルトと仲直りしてからでも遅くないだろう。

ノエルはまだ喧嘩してるであろう派閥の奴らを黙らせると部屋を出ていこうとしていた。
殴るなよと一応言っておく、ノエルは考えるより手が出るタイプではないのは分かってるけど本当に一応。
「分かってる」とノエルは笑った。

部屋を出る前にノエルは口を開いた。
それはいつもの明るいノエルの声ではなく少し低い声だった。

「シグナム家の家の周辺が最近妙らしい、気を付けた方がいいかもな」

「……妙?」

「魔獣の目撃者が沢山いる、それに強盗事件も増えている……捕まえると全員敵国の奴らだ…どう思う?」

「シグナム家が魔獣を使ってなにかしようとしているのは間違いないだろう、それと敵国の奴が暴れている…か、スパイが他にいてカモフラージュするために事件を起こしている…とかか?」

「あるかもな、その話はまだ確定じゃないから慎重に調べよう…シグナムの名前を出しただけで敏感になる奴が多いからな」

ノエルに頷くと今度こそ部屋を出ていった。

椅子に座りノエルの言葉を考える。

シグナムとスパイ…なにか繋がっているのか?
しかしあのプライドが高いシグナムが敵国なんかに従うとは考えづらい。
それならスパイは別…?

………もしかして、いや…まだ証拠がない…早まるのはまだ早い。
とりあえず今はアルトに会いに行こう。

アルトを拐ったらアルトから家族を奪う事になるだろう、でもアルトが家族から離れたくないなら仕方ない。
手放す気はない、ただアルトの家族を改心させれば騎士団と争わなくて済むし、アルトもどちらかを取るなんて酷な選択をさせなくてよくなる。

こちらも簡単な事ではない、でもアルトのために…シグナム家に怯える国民のために必要な事だと思っている。

俺はなるべくシグナム家の人の命は取りたくない、俺の目的はシグナム家の壊滅ではなく…シグナムを逮捕する事だ。

そのためにはシグナム家の動きを知る必要がある。

アルトは話してくれるだろうか、家族を売る真似はしないかもしれない。
……俺がアルトを信じたようにアルトにも俺を信じてほしかった。
必ず、シグナムを止めてみせる…アルトはきっとシグナムの悪事をよく思っていないだろうから…

だから、信じてほしい……これは強制ではなくお願いなんだ。

「……アルト、もう絶対に泣かせたりしないから」

ギュッと手を握る。

俺は大切な人を守るために、この戦いを終わらす決意をした。






ゲームを知らないトーマには結末なんて分からないし、ルートやフラグなんて勿論分からない。

だからこそ、自由に動けて自分の思った通りの行動が出来る。

本物のアルトはトーマの動きを計算していなかった。
もう既にトーマがゲームのトーマではない事に気付いていなかった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...