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信用してはいけない、信じたい・トーマ視点
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ノエルの放った空中への発砲は騎士団員に助けを呼ぶ時に使われる方法だった。
近くにいる騎士団員だけでも現場に駆けつけるが幸いなのか、寄宿舎とはそう遠くない森の中だったからかなりの大人数が駆けつける事が出来た。
その光景は俺にとって信じたくないものだった。
先に向かったベリルは仕留め損なったのか穴が開いた地面に立っていた。
敵を睨み付け警戒しながらノエルとリンディがこちらにやってくる。
あの女は嫌でも見覚えがあった、シグナム家の令嬢だ。
そして、あの時一緒にいた男の横には姫がいた。
姫が連れてかれたあの時から姫に聞きたい事が沢山あった。
姫の本心は何処にある?
パレードのあの日は姫が計画して俺に会う事は不可能に近かった、俺の気まぐれだったからだ。
あの時から殺そうと思ってた?それとももっと前から?
姫は本当に自分の意思なのか、もしかしてシグナム家の誰かに…たとえばそこの女とかに弱味を握られて無理矢理手伝わされたのではないのか?
…だとしたら、どうにかして助けなくてはならない。
でも、もし…あの男の言う通り自分の意思だったら…どうすればいいか分からない。
殺したいほど、存在が嫌なら…姫に殺されるのも一つの答えなのかもしれない。
…しかし、もう俺の命は俺だけのものじゃない。
騎士団に捧げた命を自分勝手に落とすわけにはいかない。
ベリルは姫がリンディに魔法を使おうとしたという。
……まさか、そんなあり得ない。
姫はゼロの魔法使い…魔力はない筈だ、使える筈はない。
周りはそんな事を知らないからか好き勝手言っている。
…姫の事、一ミリも知らないくせに…と怒りが湧いたが殴り付けるわけにもいかず、無視する。
姫が連れてかれた時、一瞬目が合った気がしてつい逸らしてしまう。
会わせる顔がない………ごめん。
「まだ今なら間に合う、追おう!」
「…いや、深追いは良くない…今は泥だらけのリンディをどうにかしないと風邪を引く」
「しかし団長!もしまた襲ってきたら…」
「その時は俺が相手をする、リンディには指一本触れさせない」
俺の真剣な眼差しを見て騎士団員は黙った。
あれはワープ魔法だ、もう追えないから無駄な時間を過ごすよりリンディ周辺の護衛を強化した方が有意義だろう。
姫はこうなる事を知っていた、俺にリンディのピンチを先に教えたからだ。
あれはどういう意味なのか、宣戦布告のつもりなのか。
雨はいつの間にか止んでいて、傘を畳む。
リンディは俺の横を歩いた。
「トーマ、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「…大丈夫だ」
「悩みがあるなら聞くよ、幼馴染みでしょ!」
リンディは笑う、俺は空を眺めて足を止めた。
彼も今、同じ空の下にいる。
…手を伸ばしたら触れられるのに、触れる事が出来ない。
名前を何故隠すのか最初は分からなかった、シグナム家の息子だと知られたくなかったんだな。
言ってくれれば良かったのに、軽蔑なんかしない…だって姫は姫だから…
計画のために隠す必要があったのなら言えるわけないかと苦笑いする。
「信じたいのに、信じちゃいけないんだ」
「……え?」
「俺一人の問題なら簡単に信用出来る、でも…騎士団を巻き込む事になってしまう…他の奴らを危険な目に遭わせられない」
姫は絶対に裏切らないと言い切れない、もし裏切られても俺だけならなにがあっても平気だが、今はこの国の人々の命を守る立場だ…賭けは出来ない。
そんな自分が、酷く気持ち悪くて嫌悪する。
好きな人を信用出来ない自分が、もしかしたら本当にリンディを殺そうとした?と思う自分が嫌だった。
こんな自分に、姫を愛する資格なんてない。
リンディに言っても何の事か分からないだろうなと「忘れてくれ」と言う。
リンディは少し考えて少し先を歩く俺の背中に語りかけた。
「よく分からないけど、あのね…さっきの黒髪の男の子…私の事を助けてくれたんだよ」
「………え?」
「いきなり一緒に地面に転がるからびっくりしちゃったけど、彼は優しい子なんだなって分かるよ」
リンディの言葉に目を見開いた。
優しい、そうだな…彼は優しい子なんだ……忘れていた。
初めて会った時、心配して寝た俺を起こしてくれた……彼を好きになったきっかけを忘れるところだった。
全て姫の隣にいた男が言った事、ベリルの発言に関しては姫は魔法を使いたくても使えないから信用していない。
本人の口から何も聞いていないじゃないか。
他人の言葉を信用して、姫の言葉を信用しないなんて…未来の旦那失格だな。
もう一度許されるなら、君に会いたい。
どんな結果になっても、俺は姫ではなく姫を信じようと思った自分の見る目を信じようと決意した。
「トーマ様、ちょっとよろしいですか?」
「……リカルドか」
てっきり先に行ったと思ったリカルドがトーマとリンディが来るのを待っていた。
側にはグランがいた、グランは素手での攻撃を得意とするが…何故か手から血が垂れていて驚いた。
どうしたのかと聞くと「自分のじゃないので心配しないで下さい、ちょっとうるさいハエを仕留めただけです」と言い何の話か分からないが深くは聞くのは止めよう。
この二人が俺に話したい事なんて珍しいと思いながら聞く事にした。
きっと寄宿舎では話しづらい内容なのだろう。
そして後から聞いた話だが、姫の悪口を言った騎士団員が何人か病院に運ばれたそうだ。
近くにいる騎士団員だけでも現場に駆けつけるが幸いなのか、寄宿舎とはそう遠くない森の中だったからかなりの大人数が駆けつける事が出来た。
その光景は俺にとって信じたくないものだった。
先に向かったベリルは仕留め損なったのか穴が開いた地面に立っていた。
敵を睨み付け警戒しながらノエルとリンディがこちらにやってくる。
あの女は嫌でも見覚えがあった、シグナム家の令嬢だ。
そして、あの時一緒にいた男の横には姫がいた。
姫が連れてかれたあの時から姫に聞きたい事が沢山あった。
姫の本心は何処にある?
パレードのあの日は姫が計画して俺に会う事は不可能に近かった、俺の気まぐれだったからだ。
あの時から殺そうと思ってた?それとももっと前から?
姫は本当に自分の意思なのか、もしかしてシグナム家の誰かに…たとえばそこの女とかに弱味を握られて無理矢理手伝わされたのではないのか?
…だとしたら、どうにかして助けなくてはならない。
でも、もし…あの男の言う通り自分の意思だったら…どうすればいいか分からない。
殺したいほど、存在が嫌なら…姫に殺されるのも一つの答えなのかもしれない。
…しかし、もう俺の命は俺だけのものじゃない。
騎士団に捧げた命を自分勝手に落とすわけにはいかない。
ベリルは姫がリンディに魔法を使おうとしたという。
……まさか、そんなあり得ない。
姫はゼロの魔法使い…魔力はない筈だ、使える筈はない。
周りはそんな事を知らないからか好き勝手言っている。
…姫の事、一ミリも知らないくせに…と怒りが湧いたが殴り付けるわけにもいかず、無視する。
姫が連れてかれた時、一瞬目が合った気がしてつい逸らしてしまう。
会わせる顔がない………ごめん。
「まだ今なら間に合う、追おう!」
「…いや、深追いは良くない…今は泥だらけのリンディをどうにかしないと風邪を引く」
「しかし団長!もしまた襲ってきたら…」
「その時は俺が相手をする、リンディには指一本触れさせない」
俺の真剣な眼差しを見て騎士団員は黙った。
あれはワープ魔法だ、もう追えないから無駄な時間を過ごすよりリンディ周辺の護衛を強化した方が有意義だろう。
姫はこうなる事を知っていた、俺にリンディのピンチを先に教えたからだ。
あれはどういう意味なのか、宣戦布告のつもりなのか。
雨はいつの間にか止んでいて、傘を畳む。
リンディは俺の横を歩いた。
「トーマ、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「…大丈夫だ」
「悩みがあるなら聞くよ、幼馴染みでしょ!」
リンディは笑う、俺は空を眺めて足を止めた。
彼も今、同じ空の下にいる。
…手を伸ばしたら触れられるのに、触れる事が出来ない。
名前を何故隠すのか最初は分からなかった、シグナム家の息子だと知られたくなかったんだな。
言ってくれれば良かったのに、軽蔑なんかしない…だって姫は姫だから…
計画のために隠す必要があったのなら言えるわけないかと苦笑いする。
「信じたいのに、信じちゃいけないんだ」
「……え?」
「俺一人の問題なら簡単に信用出来る、でも…騎士団を巻き込む事になってしまう…他の奴らを危険な目に遭わせられない」
姫は絶対に裏切らないと言い切れない、もし裏切られても俺だけならなにがあっても平気だが、今はこの国の人々の命を守る立場だ…賭けは出来ない。
そんな自分が、酷く気持ち悪くて嫌悪する。
好きな人を信用出来ない自分が、もしかしたら本当にリンディを殺そうとした?と思う自分が嫌だった。
こんな自分に、姫を愛する資格なんてない。
リンディに言っても何の事か分からないだろうなと「忘れてくれ」と言う。
リンディは少し考えて少し先を歩く俺の背中に語りかけた。
「よく分からないけど、あのね…さっきの黒髪の男の子…私の事を助けてくれたんだよ」
「………え?」
「いきなり一緒に地面に転がるからびっくりしちゃったけど、彼は優しい子なんだなって分かるよ」
リンディの言葉に目を見開いた。
優しい、そうだな…彼は優しい子なんだ……忘れていた。
初めて会った時、心配して寝た俺を起こしてくれた……彼を好きになったきっかけを忘れるところだった。
全て姫の隣にいた男が言った事、ベリルの発言に関しては姫は魔法を使いたくても使えないから信用していない。
本人の口から何も聞いていないじゃないか。
他人の言葉を信用して、姫の言葉を信用しないなんて…未来の旦那失格だな。
もう一度許されるなら、君に会いたい。
どんな結果になっても、俺は姫ではなく姫を信じようと思った自分の見る目を信じようと決意した。
「トーマ様、ちょっとよろしいですか?」
「……リカルドか」
てっきり先に行ったと思ったリカルドがトーマとリンディが来るのを待っていた。
側にはグランがいた、グランは素手での攻撃を得意とするが…何故か手から血が垂れていて驚いた。
どうしたのかと聞くと「自分のじゃないので心配しないで下さい、ちょっとうるさいハエを仕留めただけです」と言い何の話か分からないが深くは聞くのは止めよう。
この二人が俺に話したい事なんて珍しいと思いながら聞く事にした。
きっと寄宿舎では話しづらい内容なのだろう。
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