眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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死亡ルートとバッドエンド

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それは予想もしていなかった突然の出来事で頭が混乱していた。

テストが終わり、学校の中庭のベンチで俺お手製の弁当を食べていた時俺とルカは「テストどうだった?」「全然ダメだった」と話していたが一人リカルドだけが浮かない顔をしていた。
いつもリカルドは武術テストの成績が良いのに今回は難しかったのだろうか。

何処か上の空で弁当を突っついているだけで口にしない。
今日はリカルドが好きって言ってくれた甘い玉子焼きを入れたんだけど、気に入らなかったのだろうか。
ルカがリカルドの肩を掴み揺するがボーッとしている。

「リカルド、嫌いなものでも入ってた?だったらごめん…」

「えっ!?いや、そんな事ねぇよ!」

「……なんでアルトの声には反応するのさ」

高校生になり中性的な美人になったルカは形の良い頬を膨らませた。
リカルドは「そんな事ねぇよ」と言うがルカは全く信用していない。

玉子焼きを箸で掴み美味しい美味しいと食べてくれた。
でもなんかいつもより何処かぎこちない笑顔だった。
ルカも長年の付き合いだからか俺よりも異変に気付いてリカルドを心配した顔で見ていた。

食べ物が原因じゃないとしたら、何処か具合悪いとか?

リカルドは友人二人に気を使わせている事は嫌でも分かっている、笑顔を止めてため息を吐いた。

「実は昨日の試験が終わった後、先生に呼ばれて行ったんだ……そこで今度聖騎士団長就任パレードがあるって言ってただろ?俺も参加する事になって…まだ学生だから卒業まで正式な騎士団員じゃねぇけど…」

「凄いじゃん!学生でパレード参加出来るなんて!」

「…まぁ、そうだな」

リカルドがパレード参加するという事は推薦入団になる。
今まで魔法学園内でもSSかSSSランクの生徒しかいなかった。
だとしたらリカルドは本物の実力者なんだ、友人としてこれほど誇らしい事はないだろう。

リカルドだって初等部のあの時からずっと夢見ていたんだ、まさか一番先に夢を叶えるなんて…

今日の弁当もう少し食材とか奮発すれば良かった…昨日の夕飯の残りの食材で作ったからな。

張本人のリカルドは一番嬉しいと思うのだが何故あまり嬉しそうな顔をしていないのだろうか。

「リカルド?」

「俺、正直不安なんだ…ずっと騎士団に入る事が夢だったけど……いざ入るとなると魔力は使い物にならない、武術だけでどれくらい相手に通用するのか…もし悪い奴がいたら…ソイツが上ランクの魔法使いだったらって思って」

そこで俺は遅すぎるけどとても大変な事に気付いた。
今まで自分の死亡フラグしか考えていなかった、でもよくよく考えたらこれはゲームの世界に似ている…ゲームにはルートがある。
俺が姉の下僕になったからトーマルートなんだろうが、トーマルートでもエンディングは三つある。
ヒロインと結ばれるハッピーエンド、ヒロインとは結ばれない友情エンド、そして敵に殺されるバッドエンド。

普通に過ごしてハッピーエンドになるかなんて分からない、もしかしたらバッドエンドになる可能性もある。
確かトーマルートのバッドエンドはシグナム家が総出で騎士団の住む屋敷に奇襲を掛けて、トーマは父に殺されるエンディングだった。
ほとんどの騎士団員は殺された、リカルドはまだ騎士団員ではないとしても今より騎士団の人達と関わる事が増えるだろう。

他の人達の理不尽な死もそうだけど、もしその時リカルドもいたらきっと…

まだそうと決まったわけではないがゾクッと全身に嫌な悪寒が走り顔を青くさせた。

何時かは分からないがその時は騎士団員にはグランもいるだろう、トーマとも知り合いになった。
俺が知ってる人達が皆いなくなってしまう、恐ろしいエンディングだ。
……でもそれと同時にトーマルートで俺が生存する唯一のルートでもある。

自分だけ生きたってちっとも嬉しくないし、絶対に嫌だ。
皆無事に生きて、いつか自分のお店に招待するんだ。
そのためには死亡フラグとバッドエンドは絶対回避しなくてはならない。

まだゲームは始まってないからバッドエンドのフラグはないだろう。
でも本当に二つの最悪なシナリオを変えられるのだろうか。
欲張りすぎて別の不幸なシナリオになったらどうしよう。
もうすぐゲームが始まるのにこのままじゃ何も出来ない。

「悪い、困らせたかったんじゃないんだ…騎士団の人が俺を選んでくれたんだ…自分を信じてやってみるよ」

リカルドはいつもの笑顔に戻り俺とルカの頭をぐしゃぐしゃに掻き回す。
ルカはリカルドに文句を言ってたが俺はリカルドに感謝していた。

そうだ、自分が生前の記憶を持って生まれた事の意味を考えなくては…
もしかしたら最悪なシナリオを変えるために神様が与えてくれた力だと思えばやれる気がする。
自分で自分を信じなくて誰を信じて救えるというんだ!

欲張りでもいい、トーマもグランもリカルドも皆皆救うんだ!

力がなくたって良い方向に誘導すれば後はそれぞれの人達が物語を作り上げるだろう。

「ありがとう!リカルド!」

「…お、おう?」

リカルドはなんでお礼言われたか分からないが顔を赤くして頷いた。
それをルカが突っついてからかいリカルドが怒ってルカの好物のミニハンバーグを弁当箱から取り上げ口に放り込んだ。
言い合う二人を見ていつもの日常に戻ったと嬉しくなった。






ーーー

そしてあっという間に時間は過ぎて、とうとう聖騎士団長就任パレードが開かれる日になった。

早起きしてリカルドは先に行き、俺とルカはリカルドの晴れ舞台だからいい場所で見ようと探す。
しかしもう既にいい場所取りの戦争は始まっていた。
凄まじくて、参加出来るほどの勇気もなく別の場所に行こうと歩き出す。

しかし何処も同じように埋まっていて、途方に暮れる。

ルカの方が身長低いし、肩車をすればルカは見れるかもしれない。
しかしあまり変わらない身長だし、俺は体力ないから危ないかな。

ルカは何処かないかキョロキョロ見て俺の肩を叩いた。

「いい場所見つけた!」

「どこどこ?」

「ほらこっち!」

ルカは他の人に聞かれて場所を取られたら嫌だから何も言わず俺の腕を引く。

着いていくと少しパレードのコースから離れた場所に到着した。
ここは人がいない、そりゃあそうだ…だってパレードが見れないから…

ルカは何をするのか待っていたら突然大きな木に登り始めた。
もしかして木の上からパレードを見ようと思ってるのだろうか。
万が一落ちたら危ないと言うがルカは平気だと笑う。

「ほら、アルトも早く!」   

「……う、うん」
 
いつの間にかもう上に上がっていたルカは俺に合図する。
木の太い枝に固くなる魔法を掛けたからちょっとの事じゃ折れないと安心させる。

しかし俺は下を見るだけで背筋が冷たくなり顔が青くなってしまう。
でも普通の男の子なら木登りは当たり前だよな!と自分に言い聞かせて足を掛ける。

何度かずり落ちながらルカのいる木の枝まで到着してルカに引っ張られながら座る。
最初は下を見るな見るな思っていたが、すぐにそんな事どうでもよく感じた。
聖騎士団長就任パレードの音楽が周りに鳴り響いた。

あちらこちらからから大きな歓声が聞こえてきて同じ場所に集中して見つめる。
俺もワクワクしながらパレードが目の前を通るのを待っていた。
この場所は最後に通る場所なのでまだまだ来ないがやってくる方向を眺めていた。

そして白い西洋の軍服を着た人達と偉い人が乗ってるであろう馬車が奥から現れた。
リカルドは何処にいるのだろうかとルカと手分けして探す。

「あっ、あれじゃない?新しい騎士団長様の近くにいる…」

「本当だ………っ?」

リカルドを見つけてはしゃいでいたが、俺は視線を何となく新しい騎士団長であるトーマに目線を向けると何故か目が合った。
そしてまた何故か分からないがトーマがこちらにやってくる。

えっ?なんで?もしかして登っちゃいけない木だった!?

とりあえず降りようとルカに言い登った時同様木に足を掛けて降りようとした。
しかし慌てすぎてしまいズルッと足が滑りバランスを崩した。
落ちても地面は草むらだから擦り傷程度だろうなと思っていたらなにかに包まれた。

暖かい、いい匂いがする…何だか安心する匂いに抱かれている。
何やらルカが慌ててる声がした、どうしたのだろうか。

「木に登ると危ない」

聞き覚えがある声がして上を見るとそこには至近距離でこちらを見るトーマがいた。
固まる俺にどうやらトーマはお姫様抱っこをしていた。
助けてくれたのだろう、お礼を言わなきゃとは思うが頭が付いていかない。

ルカが俺とは違い慎重に木から降りてきて俺達に近付く。

…何時になったら下ろしてもらえるのだろうか、ずっと恥ずかしいんですが…

そしてパレードをしていたところが騒がしいんだけど、ここに居ていいのだろうか。

「あのー、ありがとうございました…もう平気です」

「いや、足が折れている」

『は!?』

俺とルカが口を開けて間抜けな声を出してトーマを見た。

ルカは涙目になり「僕が木登りしようって言わなければ…」「大丈夫!?アルト!」と声を掛けてきた。

俺はまだ放心状態で「うん」としか言いようがなかった。

地面に着地する前にトーマに抱きしめられたから足どころか何処の痛みもない。
何故トーマがルカにそんな嘘をつくのか分からなかった。

トーマはルカに背を向けて「彼を治療するために寄宿舎に連れて帰る、君は心配しなくていい」とだけ言って歩き出した。
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