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シグナムの最後・トーマ視点
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「……父さん、死んだ…の?」
「いや、的を外したから死んではいないだろう…ただ驚きすぎて気絶してるだけ……だと思う」
実際どうだか分からない、的を外したからといって死んでないとは言いきれなかった。
シグナムにはいろいろと聞きたい事があったから死んでもらっては困る。
シグナムが起き上がるかもしれなかったから慎重に近付く。
外傷の傷は衝撃波の切り傷のみで致命傷ではない。
ピクリと指先が動き、俺とアルトは後退る。
剣はもうないし、すぐに動けるほど浅い傷ではない。
しかしシグナムは起き上がろうと動きが鈍い手足をばたつかせる。
……勝利を願いシグナム家に取り憑かれ執念で動いているのか。
「殺す、殺す…お前らまとめてぇぇぇ…ぐっぅ…」
「口を開くでない、ウィリー・シグナムよ」
突然俺達の前に別の人影が現れた。
その人物はシグナムが起き上がらないように肩を踏みつけ大鎌をシグナムの喉元に突き付けていた。
アルトは驚きシグナムが殺されると慌てて止めようとしていたが、大丈夫だとアルトに言った。
この人はよく知っている、だから…大丈夫だ。
同じ歳くらいの年齢に金色に輝く短髪に真っ青な瞳がこちらと目が合った。
俺は足を折りひざまづいた。
「クロスハーツ様、何故こちらに?」
「うちの爺達がうるさくて来てやっただけだ、この国の危機…お前達に任せっきりではいかんだろ」
アルトはよく分からず俺の真似をしてひざまづいていたがなにが起きたのか理解出来ていなかった。
あのゲームにはクロスハーツ様はいなかったのだろうか、そういえば俺も見ていなかったな。
俺はアルトにクロスハーツ様を紹介した。
クロスハーツ様はこの国の国王であるリンドハーツ様の唯一の息子だが、国民のほとんどはクロスハーツ様の事を知らないだろう。
クロスハーツ様はとても才能に溢れ、力が強い…しかし俺とは別の意味で厄介な力だった。
俺の能力は魔力を最大限に消費する魔力、そしてクロスハーツ様の能力は魔力自体が危険なもので魔力を封印されていた。
そんな危険な能力のクロスハーツ様を国王にしてはいけないと王族達の間で満場一致で決められ、国民達にクロスハーツ様の能力を知られてはいけないと国王に息子はいないと知られてクロスハーツ様はずっと城の自室に閉じ籠っていた。
騎士達は城の秘密を守る手伝いをされていたからクロスハーツ様とは何度か会い、話もした事はあった。
親しいというわけではないが、俺は国王が病に伏せている今…継ぐのは血の繋がらない何処の誰かではなくどんな力でもクロスハーツ様が継ぐべきだと考えている。
それは俺の個人的な意見だから言わないが…秘密を知る騎士の中では少なくない意見だ。
…もし、クロスハーツ様が継ぐとお決めになられていればシグナムが国を支配しようとはしなかったかもしれない。
アルトに説明が終わると「知らなかった…」と呟いた。
クロスハーツ様は愉快そうに笑っていた。
「お笑いものだと思わないかい?私を閉じ込めたのは爺達なのに、内乱が起こったら私の力を貸してくれなんて……都合が良すぎるとは思わないかい?」
「……でもクロスハーツ様はちゃんと来てくれたじゃないですか」
「腐った王族の国だが、私の生まれた場所でもある…そう簡単にシグナムに奪われてたまるか」
そうニッと笑ったクロスハーツ様はシグナムを魔道具である手錠で拘束した。
この手錠をすると魔力は使えないだけではなく体の力が抜け無気力になる。
クロスハーツ様の二倍の体格であるシグナムを持ち上げるのは難しいからか引きずる事にしたみたいだ。
それでも体力がかなり必要だろう、引きこもりだったのによくそんな体力があるなと変に感心した。
そして少し歩き、クロスハーツ様はこちらを見た。
人差し指を唇を押し当てて内緒話のように口を開いた。
「そこのお前、騎士ではないみたいだが」
「あ、俺はアルト・シグナムで…」
「シグナム?…なるほど、コイツの身内か」
クロスハーツ様は引きずっているシグナムに視線を落とした。
アルトは言ったらダメだったかと俺を見て不安そうな顔をしていた。
シグナム家はほとんどの奴が悪事に手を染めている。
…アルトは何もしていない事をクロスハーツ様に説明しようとした。
しかし俺の言葉を遮るようにクロスハーツ様は手を振った。
そしてアルトを見て柔らかい笑みを向けていた。
「安心しろ、お前はトーマと共に勇敢に戦った…そんな男を捕らえるなど無粋な事はしない」
「クロスハーツ様…」
「私はまだのんびりと過ごしたいからこの話は誰にも言うでないぞ」
クロスハーツ様はこれをきっかけに国王になってくれると思っていたがどうやらそう簡単にはいかないのだろうな。
王族に隠され、都合のいい物扱いされている…今日はたまたま来ていたが恨みの溝はとても深いのだろう。
でもいつか、あの人なら国王になってくれるだろうと俺は信じている。
クロスハーツ様がいなくなりやっと終わりを迎えてため息を吐いた。
アルトは俺の背中を触っていた。
あー、そういえば斬られていたな…新しい服を新調しなくてはならないなと緊張感のない事を考える。
「トーマ、大丈夫?痛くない?」
「あぁ…アルトを守るためなら死んでもいいって思ってたんだけど、真竜が俺の傷を癒してくれたのかもな」
「嫌だ!トーマが死んだら俺も死ぬ!」
アルトは俺の言葉がショックだったのか俺に抱きついて叫んだ。
可愛い事を言うなよと頬が緩む。
アルトが死んだら俺が困るから、俺もこんなところで死ねないな。
でもアルトが危険になったら自分でも何をするのか分からないから怖いところだ。
俺はアルトの手をしっかりと握った。
そこで俺は真竜の力が切れて、魔力放出の後遺症で深い眠りの底に落ちていった。
「いや、的を外したから死んではいないだろう…ただ驚きすぎて気絶してるだけ……だと思う」
実際どうだか分からない、的を外したからといって死んでないとは言いきれなかった。
シグナムにはいろいろと聞きたい事があったから死んでもらっては困る。
シグナムが起き上がるかもしれなかったから慎重に近付く。
外傷の傷は衝撃波の切り傷のみで致命傷ではない。
ピクリと指先が動き、俺とアルトは後退る。
剣はもうないし、すぐに動けるほど浅い傷ではない。
しかしシグナムは起き上がろうと動きが鈍い手足をばたつかせる。
……勝利を願いシグナム家に取り憑かれ執念で動いているのか。
「殺す、殺す…お前らまとめてぇぇぇ…ぐっぅ…」
「口を開くでない、ウィリー・シグナムよ」
突然俺達の前に別の人影が現れた。
その人物はシグナムが起き上がらないように肩を踏みつけ大鎌をシグナムの喉元に突き付けていた。
アルトは驚きシグナムが殺されると慌てて止めようとしていたが、大丈夫だとアルトに言った。
この人はよく知っている、だから…大丈夫だ。
同じ歳くらいの年齢に金色に輝く短髪に真っ青な瞳がこちらと目が合った。
俺は足を折りひざまづいた。
「クロスハーツ様、何故こちらに?」
「うちの爺達がうるさくて来てやっただけだ、この国の危機…お前達に任せっきりではいかんだろ」
アルトはよく分からず俺の真似をしてひざまづいていたがなにが起きたのか理解出来ていなかった。
あのゲームにはクロスハーツ様はいなかったのだろうか、そういえば俺も見ていなかったな。
俺はアルトにクロスハーツ様を紹介した。
クロスハーツ様はこの国の国王であるリンドハーツ様の唯一の息子だが、国民のほとんどはクロスハーツ様の事を知らないだろう。
クロスハーツ様はとても才能に溢れ、力が強い…しかし俺とは別の意味で厄介な力だった。
俺の能力は魔力を最大限に消費する魔力、そしてクロスハーツ様の能力は魔力自体が危険なもので魔力を封印されていた。
そんな危険な能力のクロスハーツ様を国王にしてはいけないと王族達の間で満場一致で決められ、国民達にクロスハーツ様の能力を知られてはいけないと国王に息子はいないと知られてクロスハーツ様はずっと城の自室に閉じ籠っていた。
騎士達は城の秘密を守る手伝いをされていたからクロスハーツ様とは何度か会い、話もした事はあった。
親しいというわけではないが、俺は国王が病に伏せている今…継ぐのは血の繋がらない何処の誰かではなくどんな力でもクロスハーツ様が継ぐべきだと考えている。
それは俺の個人的な意見だから言わないが…秘密を知る騎士の中では少なくない意見だ。
…もし、クロスハーツ様が継ぐとお決めになられていればシグナムが国を支配しようとはしなかったかもしれない。
アルトに説明が終わると「知らなかった…」と呟いた。
クロスハーツ様は愉快そうに笑っていた。
「お笑いものだと思わないかい?私を閉じ込めたのは爺達なのに、内乱が起こったら私の力を貸してくれなんて……都合が良すぎるとは思わないかい?」
「……でもクロスハーツ様はちゃんと来てくれたじゃないですか」
「腐った王族の国だが、私の生まれた場所でもある…そう簡単にシグナムに奪われてたまるか」
そうニッと笑ったクロスハーツ様はシグナムを魔道具である手錠で拘束した。
この手錠をすると魔力は使えないだけではなく体の力が抜け無気力になる。
クロスハーツ様の二倍の体格であるシグナムを持ち上げるのは難しいからか引きずる事にしたみたいだ。
それでも体力がかなり必要だろう、引きこもりだったのによくそんな体力があるなと変に感心した。
そして少し歩き、クロスハーツ様はこちらを見た。
人差し指を唇を押し当てて内緒話のように口を開いた。
「そこのお前、騎士ではないみたいだが」
「あ、俺はアルト・シグナムで…」
「シグナム?…なるほど、コイツの身内か」
クロスハーツ様は引きずっているシグナムに視線を落とした。
アルトは言ったらダメだったかと俺を見て不安そうな顔をしていた。
シグナム家はほとんどの奴が悪事に手を染めている。
…アルトは何もしていない事をクロスハーツ様に説明しようとした。
しかし俺の言葉を遮るようにクロスハーツ様は手を振った。
そしてアルトを見て柔らかい笑みを向けていた。
「安心しろ、お前はトーマと共に勇敢に戦った…そんな男を捕らえるなど無粋な事はしない」
「クロスハーツ様…」
「私はまだのんびりと過ごしたいからこの話は誰にも言うでないぞ」
クロスハーツ様はこれをきっかけに国王になってくれると思っていたがどうやらそう簡単にはいかないのだろうな。
王族に隠され、都合のいい物扱いされている…今日はたまたま来ていたが恨みの溝はとても深いのだろう。
でもいつか、あの人なら国王になってくれるだろうと俺は信じている。
クロスハーツ様がいなくなりやっと終わりを迎えてため息を吐いた。
アルトは俺の背中を触っていた。
あー、そういえば斬られていたな…新しい服を新調しなくてはならないなと緊張感のない事を考える。
「トーマ、大丈夫?痛くない?」
「あぁ…アルトを守るためなら死んでもいいって思ってたんだけど、真竜が俺の傷を癒してくれたのかもな」
「嫌だ!トーマが死んだら俺も死ぬ!」
アルトは俺の言葉がショックだったのか俺に抱きついて叫んだ。
可愛い事を言うなよと頬が緩む。
アルトが死んだら俺が困るから、俺もこんなところで死ねないな。
でもアルトが危険になったら自分でも何をするのか分からないから怖いところだ。
俺はアルトの手をしっかりと握った。
そこで俺は真竜の力が切れて、魔力放出の後遺症で深い眠りの底に落ちていった。
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