眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
109 / 116

仲間と共に開く道

しおりを挟む
作戦決行日当日、屋敷はいつも以上に騒がしく使用人達が走り回っていた。
俺は片手に薬、もう片方に大砲を持ちその時が来るのを待っていた。

ガリュー先生は直前まで合流出来ないと言っていたから俺と騎士さん二人だけで最初はシグナム家の仲間のふりをしなくてはならない。

深呼吸して落ち着かせるとドアノブが回り部屋のドアが開いた。

この部屋に遠慮なくやって来る人なんて騎士さん以外あり得ないから騎士さんがやってきたのだろう。

騎士さんはゼロの魔法使いが敵に襲われないように護衛をする役割がある。
だから俺の傍に居ても何の違和感もない。

騎士さんが部屋に入ってきて、俺は騎士さんに近付くと後ろに誰かがいる事に気付いた。
作戦決行日だし、同じ駒だから居ても不思議ではなかったが俺の部屋に訪れた事が驚いた。

「…姉さん」

「………」

騎士さんは「お前からアルトに会わせろって言ったんだろ」と姉の背中を押した。
一歩姉が部屋に入り騎士さんは入らずドアを閉めた。

沈黙が俺達を包み込む。
姉は俯いていた。

あのままの姿だとアレだから姉はいつものように綺麗な髪質と黒いドレスを着ていた。
俺の黒い服とお揃いだった。

「えっと、とりあえず…座ろうか」

「…ねぇ、本当にトーマを助けられるのよね」

姉はそうはっきりと俺に言った。

俺が頷くのを確認してため息を吐いた。
そして涙を流した。

俺は姉の小刻みに震える姉の背中を優しく撫でた。
「…一緒に戦おう」とそれだけを言った。
小さく姉は頷いた。

トーマ達はもう動いただろうか、姉も参加するという手紙を送り、連絡は俺が送った伝書鳩がトーマに届いた事を知らせる手紙だけだった。
何度も送るわけにはいかないが、マイナスばかり考えていたら成功するものも難しくなるだろう。

「行こう、終わらせるために」

シグナム家の関係者全員で塔を上る。
周りに注意をしながら一歩一歩近付く。

俺の役目はシグナム家当主を一人にする事、そしてなるべく兵士の数を減らす事だ。
殺さなくていい、怪我を負わすだけでいい。

父を守るために周りを囲う騎士達、どうやったら離れるか難しかった。
頭の中では何度も練習したが、実際にやるのはこれが初めてだ。

俺はガリュー先生にもらった薬を飲み込み塔の頂上までたどり着いた。

上を眺めていると真っ青な空を飛び交う黒い物体で不気味になっていた。
あれは全てシグナム家が飼育している魔獣だ。

火を噴き、人を喰らう凶悪な龍。
真竜ほどの力はないがそれでも一般人にとったら恐ろしいものだ。
今街には誰もいない筈だから龍が街を襲っても被害者は少ないだろう。
それにシグナム家は魔獣を飼育出来た、だから魔獣を眠りにつかせる事が出来る。

この国の王族は代々力が強い一族みたいでかつて真竜を手懐けた力があり、若い王族達がトラップを仕掛けているらしい。
魔獣の被害は最小限に抑える事が出来るだろう。

俺と騎士さん、姉は塔の中心にいた。

端には両親がいて魔獣を暴れさせるだけの力を与えていた。

俺は膝を付いた、ガリュー先生が合流して駆け寄る。
演技しないとバレるからな、セリフは棒読みになるだろうから言うなと騎士さんにクギを刺されてしまった。
呻くだけにした、周りは俺の行動を特に気にした様子はなかった。

「さぁ、始めようか…シグナム家が勝利するその時は目の前だ」

『全てはシグナム家のために!!』

全員が声を高々に上げた。

俺達も、始めようか…

ガリュー先生はナイフを、騎士さんは剣を、姉は手に魔力を込めて、俺は大砲を構えた。
シグナム家の人間達に向かって武器を構え俺達は背中を合わせた。

両親以外のシグナム家の人間は俺達が裏切るとは思っていなかったのか俺達から離れようと塔の周りに避難していた。
両親は冷静に俺達を見ていた、まだ余裕そうだ。

「それで、そんなおもちゃで何をするつもりなんだ?お前らは」

「貴方達だけで、私達をどうにか出来るなんて思っていたのかしら?」

「…さすがに思ってないよ」

両親を捕まえるのは俺の役目ではない。
俺は大砲を下に向けた。
それを合図に全員自分の武器に魔力を込めて一気に下に向かって放出した。

地鳴りが響き、ミシミシと床にヒビが入った。
それがだんだん大きくなり、皆塔から逃げようとした。
しかし塔の入り口から離れたからか入り口に届く事はなかった。

俺達が立っている足場から崩れていき、塔が崩れる。

ガリュー先生が俺の腰を抱き、騎士さんと姉が後を追う。
ここからなら半分以上兵士を減らせるだろう。

両親までは無理だ、後はトーマに頼もう。
ガリュー先生が飛び降りて俺を離した。

トーマのところに帰るんだ!
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...