眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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決行まで…

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「大丈夫、ちゃんと考えてるから」

姉は捨て駒になる、でもすぐではない…必ずチャンスはある。
微かでも時間が出来たなら無駄にはしたくない。

トーマに知らせる伝書鳩にちょっと予定より早める伝言を送ろう。
無茶を言ってるのは分かっているがこれしか姉を助ける機会がない。

そして戦力不足の件はちょっと下準備をすれば何とか少量の力でも大丈夫なような気がする。

俺は騎士さんに考えていた説明をする。

「…まぁ、やらないよりはマシって事か…下準備は誰がやるんだ?」

「俺が出来ればやりたいんだけど…」

「外をウロウロしているところをシグナム家の人間にバレたら台無しだな」

「……う、はい…お願い出来ますか?」

「はぁ…仕方ない、ガリューもいれば少しは楽になるな」

「ありがとうございます!」

顔を明るくして頭を下げたら何故か騎士さんに鼻を摘まれた。
息が苦しかったが騎士さんはそっぽを向いていて俺の方を見ようともしなかった。
ちょっと耳が赤かった。

騎士さんのツンデレ…!貴重だ!

牢屋に長居をしていたら部屋に俺がいない事がバレるかもしれない。
地下を出て行きと同じように移動して部屋に戻ってきた。

騎士さんは時間がないので早速作戦を決行するために部屋を出て行った。
俺は部屋の隅にぽつんと置いてある大砲を手に取った。
この大砲、こんなに重かっただろうか。
…大砲自身の重さというより、緊張からそう思い込んでいるように感じた。

大丈夫だ、人に向けるわけじゃない。
大砲はこの作戦に欠かせないもので丁寧に手入れをした。
曇り一つなくピカピカに磨いていたら夜を迎えた。

やる事がなくて磨くのに集中してて額の汗を拭う。

このくらいにしよう。
伝書鳩の存在をシグナム家に知られるわけにはいかないから夜に飛ばそうと思っていた。
俺の夕飯を運んできた騎士さんにトレイの中に隠して持ってきた紙とペンを渡されて俺はトーマに手紙を出した。

「今のところ順調か?」

「…うん、ちゃんとトーマのところまでこの子が運んでくれたら順調」

「準備が順調でも本番でトラブルはよくあるからな、気を抜くなよ」

「………大丈夫」

窓を開けて出来るだけ高く高く飛ばした。
ちゃんと届きますように…

コンコンと控えめにドアがノックされた。
俺は窓を閉めてカーテンを引いた。
誰が来ても怪しまれないように椅子に座る。

騎士さんが少しドアを開けて訪問者を確認してからドアを開けた。

そこにはガリュー先生がいた。

「何しに来た、お前までここに来ると怪しまれるだろ」

「…いや、大丈夫…シグナム様の命令で来ただけだから」

騎士さんは三人揃ってこそこそしていたらさすがに怪しいと思いガリュー先生に言う。
ガリュー先生は俺を短い期間だが世話をしてくれたし、俺が部屋から出れなかった時は一緒にいてくれた。
…違和感はないだろうが、今の俺達は大事な作戦の途中…どんなボロが出るか分からない大切な時だ。
出来るだけ避けるべきだ。

しかしガリュー先生は父の命令で俺の部屋に来たという。

死ぬ前の記憶を思い出し、やっぱり父は俺の事を道具としか思ってないのだと悲しくなった。

ガリュー先生は部屋に入ってきて俺に白い薬を見せた。

「この薬は魔力を抑える薬を改造して魔力を暴走させる薬だ…これを坊ちゃんが飲めば誰でもゼロの魔法使いの力を浴びる事が出来る」

「………」

「おい、それだとコイツの魔力が空になって死ぬだろ!」

「…話は最後まで聞け、シグナム様にはそう説明した……今すぐに坊ちゃんに飲ませろと言われた、でもこの薬はただの栄養剤だ」

「えい、よう?」

「俺は何があっても坊ちゃんを守るって決めてますから」

ガリュー先生は俺にとびきりの笑顔を見せてくれた。
俺は頷いて、薬を飲んだ。

するとポカポカと身体が暖かくなっていた。
そして両手を見ると俺の手に違和感を感じた。

手が、光ってる?いや、手だけではない…全身光っていた。
俺と騎士さんは驚いてガリュー先生を見た。

「何をしたんだ?お前…」

「さすがに何の変化もないと怪しまれるからな、身体が光るだけで害はないし数分で治る」

それを聞いてホッと一安心した。
数分経過すると光は落ち着いてきてガリュー先生は成果を父に報告しなきゃいけないと部屋を出て行った。

明日はゆっくり身体を休めて明後日に備えよう。

騎士さんは自分の部屋で寝ると言って部屋を出て行った。
騎士さんも一緒に寝れば良いのに、ベッド大きいから男二人で寝ても狭くないと思うが騎士さんが嫌なら仕方ない。

歯を磨き風呂に入った後にベッドに潜り込む。

瞳を閉じるとすぐに眠りについた。

キラキラと光る空間に俺は立っていた。
一瞬ルカがいるあの場所かと思っていた。
まるで星空の中にいるような幻想的な場所だった。

奥に人影が見えた、ルカかと思い近付く。
だんだんはっきりと見えてきてそれはルカではないと分かった。

真っ黒な髪と真っ黒なコートを着た両目に包帯を巻いている青年だった。

「えっと、誰ですか?」

「……」

答えない、俺の声が届いていないのかと思ったがこちらを振り返るから聞こえてはいると思う。、
目に包帯を巻いているから目が見えないのかもしれない。

俺は「アルトです」と自己紹介して見えないと思うけどお辞儀した。

青年は首を傾げていた、危ない感じはしなかったから近付く…青年は逃げない。

もしかして、目が隠れているのって…やっぱり…

手を伸ばし青年の頬に触れると確かめるように青年も俺の頬に触れた。

「…真竜さん」

「……その目、大事にしてね」

そう優しく言われて耳に響いた。

『ずっと君を見守っているよ』という声が耳に響いた。
こんなにはっきりと人間の姿で会うのは初めてだった。
俺の赤い目が馴染んだって事なのかな。
真竜が人間ならあんな姿をしているのだろうか。

真竜はもう現実にはいないから夢の中でしか会う事が出来ないけど、また会いたいな…そう思った。

流れ星が描く夜空を眺めながら瞳を閉じた。
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