眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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姉との再会

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「俺は姉さんを仲間に入れたいと思ってる?」

「…ヴィクトリアをか?俺よりシグナム家に染まっているぞ、勝算はあるのか?」

俺は頷いた。

姉があの時のままの気持ちを持っているなら、俺は姉ともう一度和解したい。
姉はこの屋敷の何処かにいる。

俺が帰ってくる前は姉のところにいたとメイドが話していた筈だ。
騎士さんなら場所を知ってる筈だ。

騎士さんは少しためらっていたが部屋のドアを開いた。
ドアにはあの時のような魔法が掛かっていなかった。
この部屋に入った時から騎士さんは俺が逃げないと思っていたって事だよね。

部屋を出ると騎士さんが俺の腕を掴み自分の腰に回す。
後ろから抱きつく体勢でなんか恥ずかしかった。

「…騎士さん?」

「黙っていろ、お前は部屋から出すなという命令だからな」

後ろにいる俺を隠すような感じで慎重に移動する。

騎士さんの着ている黒いコートが大きくてちょうど俺を覆うように隠れる。

一階への階段はつまずかないように慎重に一歩一歩進む。
部屋があるところからどんどん遠ざかっている。

姉はいったい何処にいるのか不安だった。

そして屋敷には似つかわしくない鉄の扉があった。
所々錆びていて赤くなっていた。
こんな場所あったんだ、知らなかった。

騎士さんは慣れた手つきで鉄の扉を開ける、鍵は掛かっていなかった。
ギギギ…と重く大きな音を立てて扉が開いたと同時に押し込むように騎士さんに背中を押されて中に入れられる。
バランスを崩し地面に顔をぶつけた。

「いたた…」

扉が閉まる音が後ろから聞こえた。
かろうじて扉の向こうにあった光がなくなり、何も見えない真っ暗闇になった。

すると数秒後には壁に並べられた蝋燭が灯り部屋が明るくなった。
後ろを振り返ると騎士さんが手をかざしていたから騎士さんが魔法を使ったのだろう。

Zランクでもこんな事が出来るんだって驚いて褒めると「お前には努力しても一生無理だろうな」と皮肉を言われてしまった。
立ち上がり前を見たら地下に続く階段が見えていた。
結構下だな、先まで見えない。

「この先にいるの?」

「シグナム家当主に言わせれば特別室だそうだ」

そう言った騎士さんは下に向かって歩いていった。
俺も後から続きコツコツと二人分の足音が聞こえた。

静かな空間、本当にこの先に人がいるのか信じられなかった。

やがて底に着き、歩く。

周りには牢屋が並んでいた。
手足を拘束する手枷足枷が床に転がっていて、寝る布団はぼろぼろの布切れでとても人が住める場所ではなかった。

「ここはシグナム家を裏切った罪人が送られる場所だ」

「…で、でも姉さんはシグナム家を裏切ってないんだよね?」

「作戦会議の時、トーマ・ラグナロクが英雄ラグナロクの後を継ぎシグナム家の脅威になると説明された時、ヴィクトリアはトーマを殺す事に猛反対した」

前の時もそうだった、でもこんな牢屋に入れられるなんてなかった。
…俺が両親に拘束されてから姉がどうなったのかは分からないけど…

前の時と違い姉は両親を前にして引き下がらなかったそうだ。
トーマを助けたい、ただそれだけだったんだ。
それだけで裏切り者として…こんなところに…

あれ?でも姉も駒と言っていたよな、どういう事なんだ?

「騎士さん、姉さんはこれからどうなるの?」

「二度と逆らわないようにここで反省させ、作戦の捨て駒に使うのだろう」

「……捨て駒ってやっぱり」

「生きようが死のうが、シグナム家に貢献する以外に価値はないって事だろ」

「…………さっきからうるさいわね、誰よ」

聞き慣れた声がして騎士さんは足を止めた。
騎士さんが見る目線の先には薄暗い牢屋の中、もぞもぞと蠢く影があった。

一瞬誰だが分からなかった。

いつも綺麗に整えられた髪はボサボサになり、手足には重そうな枷が見える。
警戒しながらこちらを睨むのはあの気高き悪役令嬢だった少女だ。

俺は姉の牢屋に近付く。

「姉さん…」

「何よ、私を笑いに来たわけ?」

「違う、違うよ…話がしたくて来たんだ」

姉は俺を睨んだまま手で払う仕草をした。
帰れというジェスチャーだった。
俺は帰りたくない、このままだと姉は死んでしまう。
そしてシグナム家を捕まえる事が出来なくなる。

姉の助けが必要なんだ。

騎士さんに牢屋を開けてほしいと頼むが首を横に振られた。

「騎士さん!このままじゃ姉と話が出来ない!」

「お前近付こうとしているんだろう、やめておけ…今のヴィクトリアは猫のように警戒心が強い、傷一つじゃ済まないぞ」

「……そうね、アンタの呑気な顔を見てたらつい殺したくなるかもね」

姉はそう吐き捨てると背を丸めて俯いてしまった。

俺は騎士さんが開けてくれないから仕方なく鉄格子越しに姉と話す事にした。
今のままじゃ作戦を伝えても協力してくれない。

なら騎士さんの時のように気になる話題を話せば姉も口を開いてくれるかもしれない。
姉も騎士さんも同じテーマだけど、内容は違う。

俺は見られるのが嫌かと思い鉄格子に寄りかかり座った。

「…姉さん、トーマの事…好き?」

「………」

「あのね、俺もトーマの事、好きだよ」

「………」

「だから姉さんがトーマを助けたいって気持ちは分かるし、俺は…知ってるから」

あの時姉さんは俺に「お父様からトーマを助けたい!」と言った、それが姉さんの本音。
姉はまだ口を開かないけど俺は続けた。

トーマと同じくらい俺は家族も大切なんだ。
だから更生させて日陰ではなく日向を歩ける人達であってほしいんだ。
それが俺の親孝行だと思っている。

俺はトーマ達と共に戦う、皆が幸せになれる物語を作るために。

自分の想いを姉に話し、立ち上がった。

「姉さん、俺は姉さんも助ける…日向から見る空を見せてあげるからね」

俺はそのまま歩き姉がいる牢屋から離れた。

騎士さんは少し早足で俺に追いついた。
俺が大人しく引き下がったのを騎士さんは驚いたようだ。
多分俺が騎士さんの時みたいにしつこく説得すると思ったのだろう。

でも今の姉は誰も信じられないんだ、そんな事をしたら逆効果だろう。
騎士さんが俺の肩を掴むから足を止めた。

「おい、いいのか?仲間にしなくて」

「…会って分かったよ、姉さんはプライドが高いから俺みたいな弱い奴に命令されて絶対に動かないって」

「……このままだと、死ぬぞ」
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