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トーマの話
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トーマの部屋にやって来て、シャワーがあった。
トーマが言うには仕事に没頭しすぎて大浴場まで行く手間を省くために部屋に取り付けたようだ。
トーマは自分の服を貸してあげるから安心しろと言った。
俺はトーマに甘える事にして脱衣所で服を脱いだ。
シャワー室に入りお湯を出すと頭からさっぱりとして気持ちが良かった。
脱衣所にトーマの気配がした。
「着替え、置いとくな」
「あ、うん!」
トーマが帰ってきたって事は英雄ラグナロクの件はどうなったんだろう。
気になるが聞いていいのか分からない。
トーマが話してくれるまで俺は待っていよう。
シャンプーを手のひらに垂らして髪を洗う。
いつもトーマが使ってるシャンプーなんだよな……トーマと一緒…
………って何考えてるんだよ俺は!別の事を考えよう。
そう思っても体を洗う時も同じ事を考えてしまう。
本当にどうしようもないな、俺は…
何だか疲れたような気がして、風呂から上がった。
そこにはトーマの服が置いてあった。
手に持つと少しだけトーマのにおいがしたような気がした。
洗ってるからにおいは気のせいだと思う。
しかし好奇心には勝てずちょっと鼻に近付けてみる。
「アルト、上がったか?」
「わあぁぁ!!」
「…わ、悪い」
突然トーマが脱衣場を開けるから驚いた。
トーマは俺の裸しか目に入ってなかったようで、良かったようななんというか。
トーマは脱衣所から物音を聞き俺が服の着方を知らないと思い心配して来たそうだ。
確かにトーマの服は騎士の服だから着方が少し複雑みたいだ。
しかし何となく着れる気がした。
何とか着れたがやはりサイズが合わない。
袖から指が少しだけ覗くほどぶかぶかだ。
まぁこのまま外に出歩かなければ平気だろう。
脱衣所を出たらトーマがソファーに座っていてテーブルには美味しそうな料理が並んでいた。
「…さっきはその、悪かったな」
「あ、いえ…大丈夫…です」
お互い頬を赤くする。
トーマは俺の袖を見て、こちらに近付く。
ドキッと心臓が跳ねる。
やっぱり本物のトーマの方がいいにおい…
腕を掴まれ袖を折る。
手首まで見えるようになったら跪きズボンの裾を折る。
「俺がやるからいいよ!」
「…俺がやりたいんだ、姫に合う服がなくてごめんな」
手を離したトーマはこちらを見上げた。
そしてそのまま手を差し出した。
まるでそれはおとぎ話の王子様がお姫様にやるそれに似ていた。
恥ずかしかったけど、トーマの手に触れると手のひらに口付けをした。
そのままトーマは俺の手を握り立ち上がりソファーまで移動した。
俺を座らせて隣にトーマが座る。
「姫が食堂に行くのをためらっているとリカルドから聞いて部屋に運ばせた」
「手間取らせて、ごめんね」
「…元は騎士団が勘違いした事が原因だから俺の責任だ、だから姫は気にしなくていい」
トーマは優しいな、勘違いさせた俺も悪いのにトーマは心を痛めている。
俺はトーマに安心してもらおうとそっと寄り添った。
俺にはこれしか出来ないから…
フッと笑ってくれて良かった。
トーマと一緒に食事をした、ずっと一人で…騎士さんも食べていた時もあったが会話はなく一人で食事をしていたのと同然だった。
こんなに楽しい食事はいつぶりだろうか。
食事が終わり、トーマは食後の紅茶を飲みながらこちらを見た。
「姫、君には話しとくべきだよな…ラグナロクについて」
「…いいの?俺が聞いても」
「あぁ、アルトにも迷惑かけたしな」
トーマは話してくれた、英雄ラグナロクの悪事を暴くためにトーマの家で回収した資料の中身を…
英雄ラグナロクが悪事の証拠をずっと処分せず持っていたのはこの証拠を脅す材料にするためだという。
敵国のフェランド王国に…
ラグナロクはフェランド王国が森から攻めてきた時にラグナロクとその部下が出向いたそうだ。
そこから全てが変わった。
フェランド王国の騎士はとても強くラグナロク達は手も足も出なかった。
このままでは国に攻め込んでしまう。
その時ラグナロクの頭には国民の安全ではなく、自分の騎士団長としての立場の方が大切だった。
そして国民達に尊敬され続ける騎士団長になるためなら敵国に無様に土下座するのも厭わないという。
命乞いをする王都の騎士団長にフェランド王国の騎士団長は条件を出した。
それがこの王都の情報を売るという事だった。
もしそれでフェランド王国が王都を手に入れたらラグナロクをフェランド王国の騎士団長にしてやるという内容だった。
ラグナロクは尊敬で崇められれば王都にこだわる理由はないと思い即答した。
そして王都の王族や側近達の弱点を知らせ、攻め込むには手薄になる王都の弱点になる場所を知らせた。
騎士団長にさせるという口約束では信用出来ないフェランド王国はラグナロクに現金を渡し、口止めをした。
フェランド王国に渡した資料を証拠に長時間英雄ラグナロクを尋問した結果、口を開いたという。
精神的に弱っていたから嘘ではなさそうだと判断した。
「じゃあ英雄ラグナロクは今何処に?」
「まずは英雄ラグナロクが吐いた話を国王に知らせてから牢屋にぶちこむ」
「そうなんだ…」
「それまでの間に、もう一つやることがある」
そこでトーマは俺を見た。
……次は俺の番、そう言われたような気がした。
そうだ、真眼の本についてトーマに聞きたかったんだ。
俺はトーマの方に身を乗り出すとトーマは頬を赤らめていた。
ちょっと近すぎたかと引っ込めた。
まだトーマは真竜の事知らないんだよね、まずはそこから話した方がいいな。
「トーマ、真竜について話すね」
「…真竜ってラグナロクが言っていた?」
俺は頷いた、そして真竜について話した。
ガリュー先生に教えてもらった話も一緒に話すとより分かりやすいだろう。
話し終わりトーマの顔色を伺うとトーマはなにか考え込んでいた。
英雄ラグナロクは真竜の話を資料庫で見たから知っていたのだろう。
しかしシグナム家にあったその後の話はラグナロクは知らないだろう。
そしてそれはシグナム家も同様だ。
意図していないかもしれないが、この物語は王都の騎士団とシグナム家が協力したらやっと物語が完成する…そんな気がした。
「俺の目と真竜はどんな関係なんだろうな」
トーマが言うには仕事に没頭しすぎて大浴場まで行く手間を省くために部屋に取り付けたようだ。
トーマは自分の服を貸してあげるから安心しろと言った。
俺はトーマに甘える事にして脱衣所で服を脱いだ。
シャワー室に入りお湯を出すと頭からさっぱりとして気持ちが良かった。
脱衣所にトーマの気配がした。
「着替え、置いとくな」
「あ、うん!」
トーマが帰ってきたって事は英雄ラグナロクの件はどうなったんだろう。
気になるが聞いていいのか分からない。
トーマが話してくれるまで俺は待っていよう。
シャンプーを手のひらに垂らして髪を洗う。
いつもトーマが使ってるシャンプーなんだよな……トーマと一緒…
………って何考えてるんだよ俺は!別の事を考えよう。
そう思っても体を洗う時も同じ事を考えてしまう。
本当にどうしようもないな、俺は…
何だか疲れたような気がして、風呂から上がった。
そこにはトーマの服が置いてあった。
手に持つと少しだけトーマのにおいがしたような気がした。
洗ってるからにおいは気のせいだと思う。
しかし好奇心には勝てずちょっと鼻に近付けてみる。
「アルト、上がったか?」
「わあぁぁ!!」
「…わ、悪い」
突然トーマが脱衣場を開けるから驚いた。
トーマは俺の裸しか目に入ってなかったようで、良かったようななんというか。
トーマは脱衣所から物音を聞き俺が服の着方を知らないと思い心配して来たそうだ。
確かにトーマの服は騎士の服だから着方が少し複雑みたいだ。
しかし何となく着れる気がした。
何とか着れたがやはりサイズが合わない。
袖から指が少しだけ覗くほどぶかぶかだ。
まぁこのまま外に出歩かなければ平気だろう。
脱衣所を出たらトーマがソファーに座っていてテーブルには美味しそうな料理が並んでいた。
「…さっきはその、悪かったな」
「あ、いえ…大丈夫…です」
お互い頬を赤くする。
トーマは俺の袖を見て、こちらに近付く。
ドキッと心臓が跳ねる。
やっぱり本物のトーマの方がいいにおい…
腕を掴まれ袖を折る。
手首まで見えるようになったら跪きズボンの裾を折る。
「俺がやるからいいよ!」
「…俺がやりたいんだ、姫に合う服がなくてごめんな」
手を離したトーマはこちらを見上げた。
そしてそのまま手を差し出した。
まるでそれはおとぎ話の王子様がお姫様にやるそれに似ていた。
恥ずかしかったけど、トーマの手に触れると手のひらに口付けをした。
そのままトーマは俺の手を握り立ち上がりソファーまで移動した。
俺を座らせて隣にトーマが座る。
「姫が食堂に行くのをためらっているとリカルドから聞いて部屋に運ばせた」
「手間取らせて、ごめんね」
「…元は騎士団が勘違いした事が原因だから俺の責任だ、だから姫は気にしなくていい」
トーマは優しいな、勘違いさせた俺も悪いのにトーマは心を痛めている。
俺はトーマに安心してもらおうとそっと寄り添った。
俺にはこれしか出来ないから…
フッと笑ってくれて良かった。
トーマと一緒に食事をした、ずっと一人で…騎士さんも食べていた時もあったが会話はなく一人で食事をしていたのと同然だった。
こんなに楽しい食事はいつぶりだろうか。
食事が終わり、トーマは食後の紅茶を飲みながらこちらを見た。
「姫、君には話しとくべきだよな…ラグナロクについて」
「…いいの?俺が聞いても」
「あぁ、アルトにも迷惑かけたしな」
トーマは話してくれた、英雄ラグナロクの悪事を暴くためにトーマの家で回収した資料の中身を…
英雄ラグナロクが悪事の証拠をずっと処分せず持っていたのはこの証拠を脅す材料にするためだという。
敵国のフェランド王国に…
ラグナロクはフェランド王国が森から攻めてきた時にラグナロクとその部下が出向いたそうだ。
そこから全てが変わった。
フェランド王国の騎士はとても強くラグナロク達は手も足も出なかった。
このままでは国に攻め込んでしまう。
その時ラグナロクの頭には国民の安全ではなく、自分の騎士団長としての立場の方が大切だった。
そして国民達に尊敬され続ける騎士団長になるためなら敵国に無様に土下座するのも厭わないという。
命乞いをする王都の騎士団長にフェランド王国の騎士団長は条件を出した。
それがこの王都の情報を売るという事だった。
もしそれでフェランド王国が王都を手に入れたらラグナロクをフェランド王国の騎士団長にしてやるという内容だった。
ラグナロクは尊敬で崇められれば王都にこだわる理由はないと思い即答した。
そして王都の王族や側近達の弱点を知らせ、攻め込むには手薄になる王都の弱点になる場所を知らせた。
騎士団長にさせるという口約束では信用出来ないフェランド王国はラグナロクに現金を渡し、口止めをした。
フェランド王国に渡した資料を証拠に長時間英雄ラグナロクを尋問した結果、口を開いたという。
精神的に弱っていたから嘘ではなさそうだと判断した。
「じゃあ英雄ラグナロクは今何処に?」
「まずは英雄ラグナロクが吐いた話を国王に知らせてから牢屋にぶちこむ」
「そうなんだ…」
「それまでの間に、もう一つやることがある」
そこでトーマは俺を見た。
……次は俺の番、そう言われたような気がした。
そうだ、真眼の本についてトーマに聞きたかったんだ。
俺はトーマの方に身を乗り出すとトーマは頬を赤らめていた。
ちょっと近すぎたかと引っ込めた。
まだトーマは真竜の事知らないんだよね、まずはそこから話した方がいいな。
「トーマ、真竜について話すね」
「…真竜ってラグナロクが言っていた?」
俺は頷いた、そして真竜について話した。
ガリュー先生に教えてもらった話も一緒に話すとより分かりやすいだろう。
話し終わりトーマの顔色を伺うとトーマはなにか考え込んでいた。
英雄ラグナロクは真竜の話を資料庫で見たから知っていたのだろう。
しかしシグナム家にあったその後の話はラグナロクは知らないだろう。
そしてそれはシグナム家も同様だ。
意図していないかもしれないが、この物語は王都の騎士団とシグナム家が協力したらやっと物語が完成する…そんな気がした。
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