眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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資料庫

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俺はトーマの部屋を出た。

誰かと一緒に行った方がいいか、誰を連れていこうかと思ったらすぐ傍にグランとガリュー先生がいた。
ずっと立ちっぱなしで居てくれた事に感謝するが座らなくて大丈夫かと心配する。

二人は笑って心配ないと言うがやはり心配だ。
座るところがないか見渡すと奥の方から走る人が見えた。
懐かしい顔で再会を喜ぶ暇もなく抱きつかれた。

グランとガリュー先生は口を開けて唖然としていた。
ギュッと抱き締められて苦しかったがそれほど心配してくれたと分かり背中を撫でる。

「…リカルド」

「全然アルトの話聞かないし、アルトに敵意向ける奴も居て…俺…すげぇ心配で…」

耳元でリカルドのすすり泣く声が聞こえた。
ぎゅっぎゅっと抱き締められて小さく呻くと慌ててリカルドは距離を取った。
俺から離れたリカルドは俺を見下ろす。
ちょっと背が高くなったリカルドを見上げる。

いろいろ話したい事はあるが、まずは資料庫に向かいたい。
あ、そうだ…リカルドと一緒に行けば話も出来るかもしれない。

「リカルド、今から資料庫に行く予定なんだけど一緒に来ない?」

『えぇ!?』

驚いたのはリカルドではなくずっと会話を聞いていたグランとガリュー先生だった。
二人は休んだ方がいいと思ってリカルドを誘ったんだけど二人は「なんでコイツだけなんですか!?」とか「俺じゃダメですか!?」とか言い俺に詰め寄ってきた。

いやだって二人はずっと立ちっぱなしだったし、これ以上俺に付き合ってられないかと思っていた。
リカルドは嬉しそうな顔をして二人をなだめようとしていた。
それが癇に障ったのか今にも二人は殴りかかりそうな雰囲気だった。

そこまで行きたいなら皆で行った方が俺も助かる。

「グランとガリュー先生も行きましょう、でも無理はしないで下さいね」

二人は頷いた。
仲が悪そうに見えて本当は仲がいいのかなと俺も微笑む。

四人で資料庫に続く階段に向かう。
地下への階段は隠すように床に不自然な扉があった。

グランとガリュー先生が扉を開ける。
すると何年も開けられていないのか埃が積もっていて噎せる。

「げほっ、本当に…行くんですか?」

「無理にとは言わないよ」

「っ…い、行きます!」

グランは嫌そうな顔をしつつも最初に階段を降りる俺の後を着いていく。
少し潔癖症だから本当は行きたくないんだろうな。

俺のために、ありがとう…グラン。

階段を降りたら五つの扉があった。
確か奥の部屋だったよね。

奥の扉を開けようと手を伸ばし、ドアノブを捻るとちょっと扉が開きそこからまた埃が舞った。
目元に涙を浮かべながら我慢して中に入る。
壁にあるスイッチを押すとチカチカと電気が付いた。
まだ電気が生きていて良かった。

「アルト、なにか見たいの決まってたりするのか?」

「うん、真竜に関する本なんだ」

「……真竜」

トーマと真竜の関係性とか、力とかいろいろと調べたい事があった。
ゲームにもなかったもっと深い話を聞きたい。
ゲームではトーマが資料庫で調べた内容だった。

するとガリュー先生は小さく呟いた。
ガリュー先生、なにか知ってるのか?

俺がガリュー先生のところに向かうとガリュー先生は考えるのを止めてこちらを見た。

「シグナム家の資料庫に真竜に関しての資料があったんです」

「ガリュー先生、見た事あるんですか!?」

「資料庫には医療や研究に関する資料もあるからよくいろんな資料を見るんだよ、その時に」

まさか、シグナム家にそんな資料があるとは思わなかった。
俺は真竜の資料を探す前にガリュー先生の話が聞きたかった。

ガリュー先生の話は真竜と少女が離れた後の話だった。

これは初代シグナム家の当主の話だ。






シグナムの当主はとても強く最初からSSSランクだった。
自分が強いと信じて疑わず、この国の頂点になるのが当然だと思っていた。
しかし強いのにこの王都の国王には勝てず、王都を支配する事は出来なかった。
国王もSSSランクだったがシグナム家の当主のように強さに溺れてはおらず、鍛練の差だった。

シグナムの当主は今までほしいものは全て手に入れてきたので諦めきれずもっと強くなる方法を探した。
そんなある日、森に住む竜の話を聞いた。

とても強く危険な竜…そんな竜を使役すれば誰もが自分の強さを認めると思った。

そして竜を見つけた。
大人しく寝ているところをゆっくり近付き魔力を注いだ。
魔物や使い魔を従わせる時にする方法だ。

自分の力を体で分からせて強い主に従わせる。
竜は体の異変に気付き目を見開き暴れた。
しかし途中で魔力を止めるわけにもいかず注ぎ続けた。
さすが強い竜、すぐには従わず抵抗を続けた。

しかし力はシグナムの当主の方が勝った。

だんだんと動きが鈍くなりやがて犬のように伏せてしまった。
これがシグナム家の初めての魔獣だった。






「それで、その真竜は」

「かなり互角の戦いみたいだったけど、初めての魔獣でコントロールが難しく王と契約の魔法使いのによって倒されたみたいだね、シグナム家の当主は間一髪逃げたが竜は…」

そうか、ゲームで少女が真竜を倒した本当の話はこれだったんだ。
真竜はシグナム家の当主により自我を失い、凶悪な竜になってしまった。
きっと少女は真竜だって分かっていたんだろう。
そして何度も真竜の目を覚まそうとしたが、無理で国民を守るために…

父の魔獣達も従いたくて従っている魔獣もいるのかもしれない。
でも使役した魔物を父から解放するには自分が使役しなければいけない。
それだと何の解決にもならない。

…一番の解放は殺してあげる事なのかもしれない、きっと少女もそう思った気がした。

暗くなる俺達にリカルドは俺の肩をポンと叩いた。

「真竜についての資料、探すんだろ?」

「……うん」

魔獣の事は一度置いておこう、今はシグナム家に勝つために俺に出来る事をしたい。

拾い資料庫に目を向けて探す事になった。
三人も探してくれるそうで早く見つかりそうだなと思った。

5分前までは…

資料は全て適当に入れていて探すのは一苦労だった。
まぁ数年放置していたからあまり見返す事はないのかもしれない。

一つ一つ棚から取り、埃を払い捲る。

棚に戻し同じ事を繰り返す。

すると他の資料とは何だか違う、本が置いてあった。
手に取り埃を払う。

「… 真眼しんがん?」

もしかしてこれ、トーマの…? 

俺は期待を込めて本を捲った。
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