眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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俺の全てをあなたに…

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「姫!大丈夫か!?」

「っは、はぁ…はぁ…」

無意識に息を止めていたみたいで息を整える。
目の前には心配そうに頬に触れるトーマがいた。

トーマの手の温もりに安心して涙が溢れてきた。

引き寄せられて俺はトーマの服を握りしめた。

まだ頭が整理出来てないが、これだけは分かった。

俺は一度、死んだんだ。

「…トーマ、俺…ちゃんと生きてる?」

「っ…覚えているのか?」

「なにか知ってるの?」

トーマは俺を抱き締めたまま話し出した。

トーマが経験した不思議な出来事を…

この世界はシグナム家により滅んだ。
トーマは渋っていたが、俺はトーマに言わせたくなくて覚えている事を伝える。
答え合わせのようにトーマは頷いた。
バカな俺は両親に利用されて…この街を壊してしまった。

そして一番驚いたのは、トーマもゲームをしたなんて…
トーマが出会った子供はよく分からないが、その子のおかげで今こうしてまたトーマに会えたんだ。

「…じゃあ英雄ラグナロクの事も…」

「あぁ、俺はアイツを城の尋問室に連れていき…アイツの元部下により俺の部下を大勢失った」

今度はトーマの声が小さくなった。

俺はトーマの頭を撫でる。
お互い、後悔しないようにしたい。

あの場で俺が騎士さんに着いていったらまた同じ事を繰り返していた。
トーマが助けてくれた、ありがとう。

今度は俺が、トーマの役に立ちたい。

「トーマ、これからどうするの?シグナム家を捕まえる?」

「…そうだな、しかし…今突撃してもシグナム家に勝つだけの力があるとは思えない」

俺は考えた、ゲームではシグナム家とは戦わずトーマの敵はアルトとヴィクトリアだけだった。
ゲームは当てにならない、これからは俺達が物語を作るんだ。

俺の力がもっとトーマに届けばいいのに…

トーマは俺から離れて俺の目を見つめた。
トーマの瞳を見つめる。

そういえば、トーマの目が真紅になったんだっけ。

真竜の力…ゲームの話しか聞いた事がなかったが、まだ秘めた力があるように感じた。

「トーマ、俺の力を使って」

「…使うなんて…姫は物じゃ…」

トーマが最後まで言う前にトーマの頬に触れて軽く唇を重ねた。
突然の事でトーマは驚いた顔をしていた。

トーマは父のように俺を道具として扱わない事は分かっている。
俺はトーマを信じている。

トーマによって目覚めた力だ。
この力はトーマに、トーマにだけに使ってほしい…そう思った。

「俺、トーマが好きだよ」

「…姫」

「俺を受け取ってほしいんだけど………だ、ダメかな?」

まだ記憶があやふやだから前に告白したのか分からない。
トーマの気持ちもよく分からないし、これで断れたらどうしようかと怯えながらトーマの顔色を伺う。
ゲームとは違う結末だとはいえ、やっぱりトーマはリンディが好きなのかな。
だったら応援するけど…でも、俺は…

そう思っていたらトーマがお返しのように唇を重ねた。
でも俺の幼稚なキスと違い少し開いた隙間から舌が侵入してきて、俺の舌と絡める。

激しいキスで短く喘ぎ息が出来なくて金魚のようにはふはふと酸素を求める。

何分だったのが何秒だったのかもしれない、長く感じたキスはトーマが離れていき終わった。

ボーッとした顔でトーマを見るとトーマは優しく微笑んでくれた。

「姫がほしい、俺も姫にあげるから…ちょうだい」

「…ん、ふっ」

トーマに抱き締められたと思ったら首筋を舐められて甘い声を出す。
耳元で「好きだ」と囁かれてぞくぞくとする。

あ、ヤバい…なんか変な気分になってしまった。
トーマに手を握られる。

俺も、トーマが…ほし…

トーマにそう言おうとしたが、大きな音により遮られた。

「トーマ、終わったぞ!」

「!?」

「……ノエル」
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