眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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全てを知るものの行動

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俺は来た道を戻った。

トーマ、無事でいてくれ…俺の願いはそれだけだ。

森を走る、草を踏み息を荒く吐きながら足を止めなかった。

そしてトーマの姿が見えて安堵のため息を吐いた。
トーマは俺の足音に気付きこちらを向いた。
とても疲れた顔をしていたが、俺に優しく微笑んでくれて両手を広げて迎えた。

戸惑わずトーマの胸に飛び込んだ。
今すぐにトーマの温もりを感じたかった。

「姫、一人か?」

「あ、うん…ガリュー先生に呼んできてもらって…俺はトーマが心配で…ごめんなさい」

「いい、そいつは姫が信頼している奴なんだろ?だったら大丈夫だ」

トーマはギュッと抱き締め返してくれた。
ガリュー先生を知らない筈なのに信じてくれた、それだけで嬉しかった。

騎士さんはいないみたいだ、帰ったのか?
あっさり帰るなんてと不思議に思っていた。

そしてコホンとわざとらしく大きな咳が聞こえてそちらを見た。

「…えーっと、どういう反応すればいいんだ?トーマ」

「そのまま見て見ぬフリをしていろ」

「いやいや無理だって」

そんな軽口を叩いていた。

ノエルは木に寄りかかっていた。
まだ体が痛むのか顔を歪めながら俺達に笑いかけていた。

ノエル、無事だったんだと俺は嬉しくなりトーマから離れてノエルの方に向かって駆け寄った。
トーマが寂しい顔をしていたなんて知らなかった。

ノエルに近付くとノエルは驚いた顔をしつつ頬を赤らめていた。

「良かった、無事だったんですね?」

「…あ、あぁ…トーマのおかげ…でな」

ノエルは俺から目を逸らして明後日の方向を見ていた。

俺、ノエルに嫌われてるのだろうか。
そういえば魔力を回復するためにキスをした時、一度ノエルは起きていたような気がした。
まさかそれで引かれたのか!?と顔を青くする。

どうしよう、ゼロの魔法使いの事言っていいのだろうか。
ノエルは敵ではないがどうしようかと悩んでいたらトーマが俺の腕を引きノエルから離れていく。

「え?え?どうしたの?トーマ」

「ノエルは疲れてるだろうから一人にしてやろう」

「…あ、そうだよね…」

「えっ!?別に話くらい…」

ノエルはそう言うがトーマは俺に見えない角度でノエルを睨んでいてノエルは口を閉じた。
何も知らない俺は首を傾げるだけだった。

俺はノエルから離れたところでトーマと騎士団の人達を待った。
起きてもいいように英雄ラグナロクは縄で縛られている。

低い呻き声が聞こえてビクッと震えた。
トーマは俺を後ろに隠した。

英雄ラグナロクが頭を動かし、こちらを見た。
その薄ら笑いに嫌な予感がひしひしとする。
しかしトーマは全く動じずにジッとまっすぐ英雄ラグナロクを見ていた。

「…こんな事をして、タダで済むと思っているのか?」

「………」

「今にお前は後悔するだろう」

俺は不安げにトーマを見るとトーマは安心させるように微笑んだ。
英雄ラグナロクはまだなにか言っているが、トーマは何も言わなかった。

地面に落ちている英雄ラグナロクの剣を掴んだ。

何をするのかと俺と英雄ラグナロクはトーマを見つめた。
トーマは剣を少々凹凸がある地面に置いて剣を踏んだ。

何をするのか英雄ラグナロクは分かったのか不自由にされた体でもがきトーマを止めようとしている。
トーマは英雄ラグナロクを一度も見ず自分の大剣を両手で掴み英雄ラグナロクの剣に突き刺し叩き割った。

黒い剣にヒビが割れて、真っ二つに折れた。

「…こんなもの、この世に必要ない」

そう吐き捨てて修復不可能なほど粉々にした。

英雄ラグナロクは絶句した顔をしてただ見てる事しか出来なかった。
大剣を振りトーマは俺のところに戻ってきた。

その時足音が聞こえた。

足音のする場所を見るとガリュー先生とグランがやって来た。
グランは俺を見つけて今すぐ抱き締めたい衝動だったがトーマに「英雄ラグナロクを連れていけ」と言ってグランを押し退けたからグランは不満そうな顔をして英雄ラグナロクを立たせた。

ノエルは一人で歩けるがトーマが肩を貸して歩きその後ろを俺とガリュー先生は着いていく。

「それでこの男はどうするんですか?騎士団の誰かに引き渡すんですか?」

「……いや、寄宿舎に連れていく」

「は?何言ってるんですか!?」

グランの言葉はもっともだ。
俺だってトーマが考えてる事が分からない。

寄宿舎なんて囚人が行くところではない、でもトーマにはなにか考えがあるだろうと見守る。

英雄ラグナロクも寄宿舎に向かうなんて思っておらず驚き何故か焦っていた。
トーマは顔色を変えずグランに言った。
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