83 / 116
違う結末・トーマ視点
しおりを挟む
「………ま、とーま………トーマ!」
「…ん、あれ?」
真っ暗だった視界が開けて目の前が明るくなった。
鳥の囀りが耳に届く、そして俺を呼ぶ声。
目の前にいるのはずっと抱きしめたかったが、もう手が届かない場所に行ってしまった愛しい人がいる。
「生きてる?」と聞くと何を言ってるんだと不思議そうな顔をされた。
あれは全て夢?俺は夢を見ていたのか?
これが現実だと確かめるようにアルトを抱いてる手に力を込める。
「と、トーマ…あのね…俺の力は魔力を補給するだけのものだから魔力を使ってないトーマは何度もキスする必要はないんだよ?」
頬を赤らめてアルトはそう言った。
あれ?…この話前にも聞いた事があった。
周りをチラッと見ると倒れているノエルと英雄ラグナロクがいた。
そうだ、この場面は俺が英雄ラグナロクを捕まえた時だ。
確かこの後アルトはアイツに連れてかれた。
そしてアルトは……
もう一度俺が間違った行動をした場所からやり直すという事か。
……ここで俺はアルトの手を離した、それが間違いだったんだ。
「えっと、トーマ…さっきからなんか変だよ?怒ってる?」
「…怒ってる………そうだな、自分に腹立たしい…この手を離してしまうなんて」
アルトの手を取り、手の平に口付けた。
驚いたアルトは固まった。
今度は絶対に離さない、誓いの口付けだ。
俺はアイツが来る前にとアルトの手を引いた。
しかし、その前に茂みから黄金に輝く砲口を見つけてアルトを引き寄せて避けた。
その砲口から地面を揺らすほどの大きな音を立てて近くの木に当たった。
木は抉れて倒れた。
アルトは茂みから出てきた人物を見て目を見開いた。
黄金の大砲を持つ男は無言でこちらにやって来る。
俺はアルトを背にして立った。
大剣を構えて今度こそ守ると男と向き合った。
二度はないチャンス、無駄にはしない!
「トーマ、ダメだよ!さっきの戦いで疲れてるんだから!」
「大丈夫だ」
「…なんで」
「俺を信じろ」
俺はアルトの方に目線を向けて笑った。
アルトは何も言わず俺の目をまっすぐと見ていた。
何も考えなしで言っているわけではない。
夢の出来事を全て信じるのはなんか嫌だが、試してみる価値はありそうだった。
実際俺は今こうしてもう一度やり直しているんだから…
俺は目線を男に戻してアルトに声を掛けた。
「…アルト、お願いがあるんだ…騎士団の寄宿舎に行って誰でもいいから呼んできてほしい」
「え…?」
「寄宿舎にアルトをよく思わない奴がいるのは分かってる、でもアルトに好意的な奴もいる…アルトの知り合いとかな、俺はさすがにノエルとラグナロクを担いで行けないから頼んだ」
「だ、だったら俺がいなくなればきっと」
「それじゃあ意味がないんだ!」
俺が声を荒げるとアルトは目を丸くした。
ごめん、だけどもう俺は後悔したくないんだ。
君を守る、そう誓ったんだ。
もう一度アルトに「頼む」と言うと「分かった」と後ろから声が聞こえた。
目の前の男はアルトに向かおうと動き出すから俺が立ちはだかり止めた。
草を踏み走り去る音が聞こえてホッとする。
「退け、じゃないと殺すぞ」
「…やってみろよ」
「随分な自信だな、体力消耗してるんじゃないのか?」
男は表情を変えずそう言った。
…確かにまともに戦えるほどの力はないだろう。
寝ずに起きている今の状況は奇跡に誓いだろう。
でもここを通すわけない、夢の通りならきっとコイツは…
砲口をこちらに向ける男を眺める。
俺は大剣を下ろした……でも、通す気がない強い瞳で男を見た。
「やる気あるのか?やってみろと言ったわりにはもう終わりか?」
「…お前に俺は殺せない、そうだろ?」
「…………何だと?」
「俺とリンディを幸せにするのがお前の役目なんだろ?ゲームの通りに…」
そこで初めて男の顔が変わった。
驚いた、そんな顔だ。
それが全てを物語っていた。
……やはりあれは夢であって夢じゃなかった。
この世界は決められた展開を辿るだけのつまらない世界なんだ。
俺は今、その決められた世界をぶち破り自分の世界作るんだ。
「なんでお前がゲームの事を知ってるんだ?アルトから聞いたのか?」
「………アルトも知ってるのか?」
そういえば夢でもそんな事言っていたような…
この場を切り抜けられたら本人に聞いてみよう。
「…ん、あれ?」
真っ暗だった視界が開けて目の前が明るくなった。
鳥の囀りが耳に届く、そして俺を呼ぶ声。
目の前にいるのはずっと抱きしめたかったが、もう手が届かない場所に行ってしまった愛しい人がいる。
「生きてる?」と聞くと何を言ってるんだと不思議そうな顔をされた。
あれは全て夢?俺は夢を見ていたのか?
これが現実だと確かめるようにアルトを抱いてる手に力を込める。
「と、トーマ…あのね…俺の力は魔力を補給するだけのものだから魔力を使ってないトーマは何度もキスする必要はないんだよ?」
頬を赤らめてアルトはそう言った。
あれ?…この話前にも聞いた事があった。
周りをチラッと見ると倒れているノエルと英雄ラグナロクがいた。
そうだ、この場面は俺が英雄ラグナロクを捕まえた時だ。
確かこの後アルトはアイツに連れてかれた。
そしてアルトは……
もう一度俺が間違った行動をした場所からやり直すという事か。
……ここで俺はアルトの手を離した、それが間違いだったんだ。
「えっと、トーマ…さっきからなんか変だよ?怒ってる?」
「…怒ってる………そうだな、自分に腹立たしい…この手を離してしまうなんて」
アルトの手を取り、手の平に口付けた。
驚いたアルトは固まった。
今度は絶対に離さない、誓いの口付けだ。
俺はアイツが来る前にとアルトの手を引いた。
しかし、その前に茂みから黄金に輝く砲口を見つけてアルトを引き寄せて避けた。
その砲口から地面を揺らすほどの大きな音を立てて近くの木に当たった。
木は抉れて倒れた。
アルトは茂みから出てきた人物を見て目を見開いた。
黄金の大砲を持つ男は無言でこちらにやって来る。
俺はアルトを背にして立った。
大剣を構えて今度こそ守ると男と向き合った。
二度はないチャンス、無駄にはしない!
「トーマ、ダメだよ!さっきの戦いで疲れてるんだから!」
「大丈夫だ」
「…なんで」
「俺を信じろ」
俺はアルトの方に目線を向けて笑った。
アルトは何も言わず俺の目をまっすぐと見ていた。
何も考えなしで言っているわけではない。
夢の出来事を全て信じるのはなんか嫌だが、試してみる価値はありそうだった。
実際俺は今こうしてもう一度やり直しているんだから…
俺は目線を男に戻してアルトに声を掛けた。
「…アルト、お願いがあるんだ…騎士団の寄宿舎に行って誰でもいいから呼んできてほしい」
「え…?」
「寄宿舎にアルトをよく思わない奴がいるのは分かってる、でもアルトに好意的な奴もいる…アルトの知り合いとかな、俺はさすがにノエルとラグナロクを担いで行けないから頼んだ」
「だ、だったら俺がいなくなればきっと」
「それじゃあ意味がないんだ!」
俺が声を荒げるとアルトは目を丸くした。
ごめん、だけどもう俺は後悔したくないんだ。
君を守る、そう誓ったんだ。
もう一度アルトに「頼む」と言うと「分かった」と後ろから声が聞こえた。
目の前の男はアルトに向かおうと動き出すから俺が立ちはだかり止めた。
草を踏み走り去る音が聞こえてホッとする。
「退け、じゃないと殺すぞ」
「…やってみろよ」
「随分な自信だな、体力消耗してるんじゃないのか?」
男は表情を変えずそう言った。
…確かにまともに戦えるほどの力はないだろう。
寝ずに起きている今の状況は奇跡に誓いだろう。
でもここを通すわけない、夢の通りならきっとコイツは…
砲口をこちらに向ける男を眺める。
俺は大剣を下ろした……でも、通す気がない強い瞳で男を見た。
「やる気あるのか?やってみろと言ったわりにはもう終わりか?」
「…お前に俺は殺せない、そうだろ?」
「…………何だと?」
「俺とリンディを幸せにするのがお前の役目なんだろ?ゲームの通りに…」
そこで初めて男の顔が変わった。
驚いた、そんな顔だ。
それが全てを物語っていた。
……やはりあれは夢であって夢じゃなかった。
この世界は決められた展開を辿るだけのつまらない世界なんだ。
俺は今、その決められた世界をぶち破り自分の世界作るんだ。
「なんでお前がゲームの事を知ってるんだ?アルトから聞いたのか?」
「………アルトも知ってるのか?」
そういえば夢でもそんな事言っていたような…
この場を切り抜けられたら本人に聞いてみよう。
29
お気に入りに追加
3,060
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。
cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。
家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる