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バッドエンド・トーマ視点
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「アルトの秘めた力について知っているか?」
「…あぁ」
「そうか、俺はついさっき知った」
この騎士の話からすると、アルトがゼロの魔法使いだと知ったのは数分前の会議だという。
シグナム家の人間を全て集めて俺を殺す会議をしていたという。
英雄ラグナロクがパニックを起こした事は知らないみたいで、最悪な偶然が重なっただけらしい。
俺と英雄ラグナロクとの戦いで俺の力の秘密を知ったシグナム家の誰かがシグナムに言い俺の弱点を知った。
一度俺に力を使わせたら俺は戦えなくなる、そこを攻撃するという作戦だ。
しかしそのためには俺に魔法を使わせる必要があった。
俺は並の魔法使いなら大剣で蹴散らす事が出来る。
シグナムは魔力ランクSSSだが、噂では英雄ラグナロクと戦った際に戦えなくなったと聞いた事があった。
戦ったのがラグナロクかどうかは今はどうでもいい。
シグナムは恐れる必要はないが、そこにアルトが関わってくると話は別だ。
…俺は大切な人に剣を向ける事は出来ない。
「アルトの力で魔力の残量を気にせず戦える兵が大勢いる、英雄ラグナロクが倒した魔獣も復活した」
「…アルトはそんなに能力を使って大丈夫、なのか?」
「…………大丈夫だと思うか?」
男の空気がピリピリとする。
ゼロの魔法使いの書物には書かれていなかったが、やはりそうなのかとショックを受けた。
アルトは確かに人より魔力が多く、自分で使わない代わりにより沢山の魔力を与える事が出来る。
そして多分魔力の回復も早いのだろう。
…それが、ゼロの魔法使い。
だから書物を書いた人物も錯覚していたんだ。
ゼロの魔法使いも、ただの魔法使いだという事に気付かなかった。
「アルトの今の状況は容器をひっくり返してずっと魔力を外に流し続けている…しかし容器に永遠などない、必ず底がある」
「…じゃあこのままアルトが魔力を出し続けたら」
「死ぬだろうな、普通の魔法使いのように魔力が空っぽになり…」
目を見開き顔が青くなる。
アルトまで…失う?
あの魔法陣の下にアルトはいる、早く助けなくては…
男がそこまで知っているとなるときっとシグナムが関係者全員に話したのだろう、ゼロの魔法使いの説明と共に…
書物を書いた人物ですら気付かなかった話を何故シグナムが知っているのか気になったが今はそんな事よりもアルトを助けなくてはという想いが強かった。
俺は魔法陣を見ながら地面を駆け出した。
その後ろから男が着いてきた。
「俺はお前にお願いがあって、全て話したんだ」
「お願い?」
息を吸い、吐いた。
お互いの乱れた息が重なる。
さっきまで街からの悲鳴や騎士達の誘導する声が聞こえていた。
でも今は何も聞こえず無音の世界だった。
そんな無音の世界をぶち破るように男の声が響いた。
それを聞き、俺はコイツとは一生分かり合えないなと感じた。
「アルトを可哀想だとは思わないか?シグナムに利用されて死ぬよりはお前に殺された方が幸せだろう」
「お前がアルトの幸せを語るな」
それだけ言い、もう会話をする事はなかった。
たどり着いたのは、洞窟の入り口だった。
洞窟の階段を上り屋上に行くときっとアルトがいる。
俺は冷たい風が吹く洞窟を歩き出した。
洞窟になにか仕掛けがあるかと警戒していたが、特に何もなく普通の洞窟だった。
薄暗い洞窟内は男が炎を手から出し明るく照らしていた。
少し歩くと階段が見えた。
階段を上ろうとしたら突然足元がぐらついた。
急いで一気に階段を駆け上がる。
間に合ってくれと何度も何度も願う。
やがて光が見えて地上が近いと分かった。
光に足を踏み出し目の前光景を見た。
俺を出迎えるように数十人の騎士がいた。
シグナム家にしては少ない人数だと思ったが、魔獣を操る魔法使いも必要だから残りは空か…街を襲っている奴らもいるだろう。
大男と寄り添うように立つ女がいた、あれがシグナムか…幼少の頃パーティで一度だけ会った記憶がある。
まさかこんなカタチで再会するとは思わなかった。
娘のヴィクトリアはいないようだ、今回の件は関わっていないのか?
そして俺は真ん中…つまり魔法陣の真下にいる人物を見た。
両手は後ろに回され、口は喋れないように猿轡を咥えさせられていた。
いっぱい泣いたのか目元は赤くなり、虚ろな瞳で俺をまっすぐ見ていた。
その瞳に俺は写っていないと感じて剣を抜き、シグナムに向かって剣を振り下ろした。
シグナムの傍にいた女が涼しい顔をしてシールドを張った。
俺は力でシールドをぶち破ろうとした。
ミシミシと音が響いた。
「アルトはお前らの道具じゃない!よくもアルトにこんな…くそっ!!」
「何故お前がアルトを気にするんだ?」
周りから魔法発動の気配がしてシグナムから離れた。
シグナムは手を高々と上げた。
それを合図にシグナム家の騎士達はいっせいに攻撃を仕掛ける。
それを大剣で薙ぎ払う。
しかし次々と魔力を放っているからキリがない。
魔力を使い過ぎたらアルトに近付き魔力を補給していた。
俺のアルトに近付くなと怒りが込み上げてくる。
俺は魔力を使う事にした。
…大丈夫だ、一回しか使えないがその一回に全てを掛ける。
俺が狙うのはただ一人、シグナムのみだ。
命令する奴が居なくなれば自然と弱体化するだろう、アルトさえ無事なら俺は…
大剣に力を込めると青白い光に包まれた。
シグナムがニヤリと笑うのが見えた。
…俺は、コイツを絶対に許さない。
もう一度大剣を振り上げシグナムに向かった。
女はもう一度シールドを張ったが軽く触れただけでシールドは粉々に粉砕した。
これほどまでの俺の力に驚いていた。
しかし俺はもう止まらない。
ガキッと鈍い音が響いた。
シグナムは真っ黒な剣を持っていた。
その剣には酷く見覚えがあった。
英雄ラグナロクの持っていた魔剣だ。
英雄ラグナロクを捕まえる事に集中していて回収し忘れていた。
それをシグナムに拾われたんだ。
しかし俺の魔力を吸ってはいない、やり方を知らないのだろう…ただ振っただけで魔剣は使いこなせない。
しかし、変だ…俺の魔力を吸ってないのにずっと魔力を吸い続けているようにどくどくと魔剣は光り続けている。
まさか、アルトの放出した魔力を吸っている?
英雄ラグナロクの時みたいに魔力を吸うだけではない、その魔力を自分の力にしている。
俺と互角になるほど吸った魔剣にギリギリと押し返されていく。
負けじと押し、魔力を最大限に放出して斬りつけた。
魔力の量がオーバーして魔剣は耐えきれず粉々になった。
しかし、寸前で女が魔法陣を出しシグナムは何処かに消えた。
ワープ魔法か……こんなところで逃したら、もう…
まだ僅かだが立っていられるとシグナム家の奴らの方を向いた。
俺がまだ立ってるのに顔が真っ青になり、魔力補給をしようとアルトを揺する。
するとアルトは地面に倒れた。
俺は急いでアルトに駆け寄る。
魔法陣がいつの間にか消えている事に気付き、シグナム家の奴らは逃げていった。
…魔法陣が消えている?まさか、そんな…
アルトの体に触れて猿轡を外す。
腕の拘束も外したかったが、睡魔が襲う今…頑丈な鍵付きの拘束を外すのは難しかった。
アルトがいない世界なんて考えたくもない、だって…ずっと俺の世界には君がいたんだ…それはこれからも変わらない、そう思っていた。
君と話したい事がいっぱいあるんだ、君の笑顔をいっぱい見たい。
「まだ、好きだって言ってない」
体温が失われていく体を抱きしめて温めようとした。
君は目を覚まさず、まるでただ寝ているだけのように感じた。
…本当に寝ているだけなら、どんなにいいだろうか。
唇に触れた、寝ているお姫様に口付けをして起こすのはお伽話の中だけだと思っていた。
ゆっくりと口付ける。
涙を流しながら、俺は全てを失った。
仲間を助けに行かなくては、そう思っていたが体が動かない。
生きる気力がなくなってしまった…こんな俺を見たら君は失望してしまうだろうか。
俺はこの日この時、王都が崩壊するのを目の当たりにした。
誰かが俺に言った…「これはバッドエンドだ」と…
「…あぁ」
「そうか、俺はついさっき知った」
この騎士の話からすると、アルトがゼロの魔法使いだと知ったのは数分前の会議だという。
シグナム家の人間を全て集めて俺を殺す会議をしていたという。
英雄ラグナロクがパニックを起こした事は知らないみたいで、最悪な偶然が重なっただけらしい。
俺と英雄ラグナロクとの戦いで俺の力の秘密を知ったシグナム家の誰かがシグナムに言い俺の弱点を知った。
一度俺に力を使わせたら俺は戦えなくなる、そこを攻撃するという作戦だ。
しかしそのためには俺に魔法を使わせる必要があった。
俺は並の魔法使いなら大剣で蹴散らす事が出来る。
シグナムは魔力ランクSSSだが、噂では英雄ラグナロクと戦った際に戦えなくなったと聞いた事があった。
戦ったのがラグナロクかどうかは今はどうでもいい。
シグナムは恐れる必要はないが、そこにアルトが関わってくると話は別だ。
…俺は大切な人に剣を向ける事は出来ない。
「アルトの力で魔力の残量を気にせず戦える兵が大勢いる、英雄ラグナロクが倒した魔獣も復活した」
「…アルトはそんなに能力を使って大丈夫、なのか?」
「…………大丈夫だと思うか?」
男の空気がピリピリとする。
ゼロの魔法使いの書物には書かれていなかったが、やはりそうなのかとショックを受けた。
アルトは確かに人より魔力が多く、自分で使わない代わりにより沢山の魔力を与える事が出来る。
そして多分魔力の回復も早いのだろう。
…それが、ゼロの魔法使い。
だから書物を書いた人物も錯覚していたんだ。
ゼロの魔法使いも、ただの魔法使いだという事に気付かなかった。
「アルトの今の状況は容器をひっくり返してずっと魔力を外に流し続けている…しかし容器に永遠などない、必ず底がある」
「…じゃあこのままアルトが魔力を出し続けたら」
「死ぬだろうな、普通の魔法使いのように魔力が空っぽになり…」
目を見開き顔が青くなる。
アルトまで…失う?
あの魔法陣の下にアルトはいる、早く助けなくては…
男がそこまで知っているとなるときっとシグナムが関係者全員に話したのだろう、ゼロの魔法使いの説明と共に…
書物を書いた人物ですら気付かなかった話を何故シグナムが知っているのか気になったが今はそんな事よりもアルトを助けなくてはという想いが強かった。
俺は魔法陣を見ながら地面を駆け出した。
その後ろから男が着いてきた。
「俺はお前にお願いがあって、全て話したんだ」
「お願い?」
息を吸い、吐いた。
お互いの乱れた息が重なる。
さっきまで街からの悲鳴や騎士達の誘導する声が聞こえていた。
でも今は何も聞こえず無音の世界だった。
そんな無音の世界をぶち破るように男の声が響いた。
それを聞き、俺はコイツとは一生分かり合えないなと感じた。
「アルトを可哀想だとは思わないか?シグナムに利用されて死ぬよりはお前に殺された方が幸せだろう」
「お前がアルトの幸せを語るな」
それだけ言い、もう会話をする事はなかった。
たどり着いたのは、洞窟の入り口だった。
洞窟の階段を上り屋上に行くときっとアルトがいる。
俺は冷たい風が吹く洞窟を歩き出した。
洞窟になにか仕掛けがあるかと警戒していたが、特に何もなく普通の洞窟だった。
薄暗い洞窟内は男が炎を手から出し明るく照らしていた。
少し歩くと階段が見えた。
階段を上ろうとしたら突然足元がぐらついた。
急いで一気に階段を駆け上がる。
間に合ってくれと何度も何度も願う。
やがて光が見えて地上が近いと分かった。
光に足を踏み出し目の前光景を見た。
俺を出迎えるように数十人の騎士がいた。
シグナム家にしては少ない人数だと思ったが、魔獣を操る魔法使いも必要だから残りは空か…街を襲っている奴らもいるだろう。
大男と寄り添うように立つ女がいた、あれがシグナムか…幼少の頃パーティで一度だけ会った記憶がある。
まさかこんなカタチで再会するとは思わなかった。
娘のヴィクトリアはいないようだ、今回の件は関わっていないのか?
そして俺は真ん中…つまり魔法陣の真下にいる人物を見た。
両手は後ろに回され、口は喋れないように猿轡を咥えさせられていた。
いっぱい泣いたのか目元は赤くなり、虚ろな瞳で俺をまっすぐ見ていた。
その瞳に俺は写っていないと感じて剣を抜き、シグナムに向かって剣を振り下ろした。
シグナムの傍にいた女が涼しい顔をしてシールドを張った。
俺は力でシールドをぶち破ろうとした。
ミシミシと音が響いた。
「アルトはお前らの道具じゃない!よくもアルトにこんな…くそっ!!」
「何故お前がアルトを気にするんだ?」
周りから魔法発動の気配がしてシグナムから離れた。
シグナムは手を高々と上げた。
それを合図にシグナム家の騎士達はいっせいに攻撃を仕掛ける。
それを大剣で薙ぎ払う。
しかし次々と魔力を放っているからキリがない。
魔力を使い過ぎたらアルトに近付き魔力を補給していた。
俺のアルトに近付くなと怒りが込み上げてくる。
俺は魔力を使う事にした。
…大丈夫だ、一回しか使えないがその一回に全てを掛ける。
俺が狙うのはただ一人、シグナムのみだ。
命令する奴が居なくなれば自然と弱体化するだろう、アルトさえ無事なら俺は…
大剣に力を込めると青白い光に包まれた。
シグナムがニヤリと笑うのが見えた。
…俺は、コイツを絶対に許さない。
もう一度大剣を振り上げシグナムに向かった。
女はもう一度シールドを張ったが軽く触れただけでシールドは粉々に粉砕した。
これほどまでの俺の力に驚いていた。
しかし俺はもう止まらない。
ガキッと鈍い音が響いた。
シグナムは真っ黒な剣を持っていた。
その剣には酷く見覚えがあった。
英雄ラグナロクの持っていた魔剣だ。
英雄ラグナロクを捕まえる事に集中していて回収し忘れていた。
それをシグナムに拾われたんだ。
しかし俺の魔力を吸ってはいない、やり方を知らないのだろう…ただ振っただけで魔剣は使いこなせない。
しかし、変だ…俺の魔力を吸ってないのにずっと魔力を吸い続けているようにどくどくと魔剣は光り続けている。
まさか、アルトの放出した魔力を吸っている?
英雄ラグナロクの時みたいに魔力を吸うだけではない、その魔力を自分の力にしている。
俺と互角になるほど吸った魔剣にギリギリと押し返されていく。
負けじと押し、魔力を最大限に放出して斬りつけた。
魔力の量がオーバーして魔剣は耐えきれず粉々になった。
しかし、寸前で女が魔法陣を出しシグナムは何処かに消えた。
ワープ魔法か……こんなところで逃したら、もう…
まだ僅かだが立っていられるとシグナム家の奴らの方を向いた。
俺がまだ立ってるのに顔が真っ青になり、魔力補給をしようとアルトを揺する。
するとアルトは地面に倒れた。
俺は急いでアルトに駆け寄る。
魔法陣がいつの間にか消えている事に気付き、シグナム家の奴らは逃げていった。
…魔法陣が消えている?まさか、そんな…
アルトの体に触れて猿轡を外す。
腕の拘束も外したかったが、睡魔が襲う今…頑丈な鍵付きの拘束を外すのは難しかった。
アルトがいない世界なんて考えたくもない、だって…ずっと俺の世界には君がいたんだ…それはこれからも変わらない、そう思っていた。
君と話したい事がいっぱいあるんだ、君の笑顔をいっぱい見たい。
「まだ、好きだって言ってない」
体温が失われていく体を抱きしめて温めようとした。
君は目を覚まさず、まるでただ寝ているだけのように感じた。
…本当に寝ているだけなら、どんなにいいだろうか。
唇に触れた、寝ているお姫様に口付けをして起こすのはお伽話の中だけだと思っていた。
ゆっくりと口付ける。
涙を流しながら、俺は全てを失った。
仲間を助けに行かなくては、そう思っていたが体が動かない。
生きる気力がなくなってしまった…こんな俺を見たら君は失望してしまうだろうか。
俺はこの日この時、王都が崩壊するのを目の当たりにした。
誰かが俺に言った…「これはバッドエンドだ」と…
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