眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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ゲームのバグ・騎士視点

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異変にはすぐに気付いた。

アルトは誰にも必要とされず、ゲームでも捨て駒のように扱われていた。
なのに急に周りは態度を変えアルトに優しくした。

これはゲームにはなかった、英雄ラグナロクが捕まった事によりなにかゲームが変な方向に変わってしまったようだ。
俺がアルトを追いかけ持ち場を離れた時になにかあったと考える方が自然だろう。

ゲームを正しい道に繋げる、バグを排除する…それが俺の役目だった。
アルトと共に死ぬ、それが俺の願いだった。

ゲームが変わったというならバグを排除してまた導けばいい…一先ずアルトを泳がせる事にした。
急に態度を変えたんだ、すぐに企みを現すだろう。

俺はこの状況を知ってるであろう人物のところに向かった。

ガリューという男、アイツならアルトについてなにか知っているだろう。
いつも自室か屋敷の研究所にいる。

勘はあまり好きではない、時間を無駄にする。
適当に歩いていた使用人を呼び止めて吐かせた。
少々手荒な真似をしてしまったが仕方ない。

ガリューは今忙しいと言っていた口を無理矢理開かせて研究所にいるという情報を聞き出した。
研究所がある場所に向かう。

「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板を無視してドアを開けた。
薬品の嫌なにおいと肌寒い冷気に眉を寄せる。

数人の研究者は驚いた顔をしてこちらを見る。
追い出そうとする者がいたから暴力で黙らせた。
一度それをやるともう止める者はいなかった。

研究者は戦場に立たない弱い奴らが多いからビビらせるのが楽でいい。
奥でなにか薬品を調合していたガリューは俺を見て眉を寄せた。

「関係者以外立ち入り禁止って見えなかったのか?」

「知らねぇよ、それより…どういう事か説明しろ」

ガリューは俺の言葉を無視して薬を作り始めた。

コイツ、ずっとここにいて異変に気付いていないのか?
アルトの味方だと思っていたが違ったのか?

熱心に何かをノートにメモしていて後ろから盗み見た。
研究バカのノートなんてまともに見れたもんじゃねぇが、魔力放出剤と書かれたそれはとてもいいもののように思えなかった。
魔力を放出なんてしたら魔法使いは死ぬ、何のためにそんな薬が必要なんだ。

「何故突然使用人がアルトへの態度を変えたんだ?」

アルトの名前を出した時、一瞬手を止めたがまたノートに何かを書き出した。
俺はバグを早く取り除かなくてはならない、じゃないと今までしてきた事が水の泡だ。
ノートを閉じて床に投げ捨てる。

ガリューはこちらを睨んでいるがノートを拾う気はないようだ。
まともに会話が出来る。

しかし、この男も使用人同様なにか変だと感じた。

「…邪魔をするな、シグナム様が早く作るように言われているんだ」

「俺の質問に答えろ」

「はぁ…………坊っちゃんはシグナム様に認められてシグナム家の長男となったんだ、それだけだ」

そう言ってガリューはノートを拾い、再び研究を始めた。
認められた?何故だ?失敗したのはアルトで英雄ラグナロクを殺す事は出来なかった。

シグナムはいらない魔法使いは排除してシグナム家にとって利用出来る魔法使いは大切にする。
……アルトが利用出来るという事か?

ガリューはもう何も答える気がなさそうだから、シグナム本人に聞くかと研究者を後にした。
しかし、魔力放出剤とはなんだったのか。

……ゲームに関係ないなら気にする必要もない、か。






※ガリュー視点

「…何やってるんだ、俺は」

ノートを書く手を止めた。

俺は英雄ラグナロク殺害計画に負傷者が出た場合の治癒のためだけに参加していた。
現場には直接向かってはいない、何人か研究者が同行していたようだけど…

医務室で皆の帰りを待っていた。
それで帰ってきた研究者達から作戦失敗を聞かされた。
誰も怪我をしていなくて、俺の出番はなさそうだなと思っていた。
しかし、いつもは冷静な研究者が興奮気味だったのが不気味だった。

そしてゼロの魔法使いの事を聞いた、すぐに坊っちゃんだと気付いた。
まさかこんなに早くバレるとは思わなかった。
いい研究材料が手に入ったと喜ぶ研究者に嫌悪感を感じながら坊っちゃんが心配で急いで医務室から出ようとしたがまだ坊っちゃんは帰っていないと聞かされた。

そして医務室に滅多に入ってこないシグナム様が入り、突然で緊張で顔が強張った。
シグナム様からとある薬を至急作ってくれと言われた。

「魔力放出剤」名前だけで全て分かった自分が嫌になる。
きっと坊っちゃん用の薬だろう。
坊っちゃんのゼロの魔法使いの発動条件は口付けだ。
しかし、いちいち一人ずつ口付けするのは時間が掛かるし効率が悪い…多数に与える場合は特にそうだ。

だから魔力放出剤で坊っちゃんの魔力を常に出して多数に浴びせれば、キスをする必要がない。

……作りたくなかった、そんな事をしたら坊っちゃんは…きっと…

でも俺は逆らう事が出来なかった、弱かったんだ…シグナムを裏切り坊っちゃんを連れ出す事が出来ない。
絶対に失敗すると分かってても大切な子を守る勇気がなかった。

トーマ・ラグナロクが羨ましかった…命懸けで坊っちゃんを守るあの男が…

いや、きっとグランがここに居ても坊っちゃんを守っただろう…俺はシグナム様の言いなりになるしかなかった。
一番怖いのは坊っちゃんなのに、俺は自分の命を守った。

臆病者の俺を許してください、坊っちゃん。

せめて、せめて副作用がない薬を作ろう。
俺は心が黒く染まる感覚に蝕まれながら研究を続けた。
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