眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
73 / 116

姉の想い

しおりを挟む
「アンタも後で聞かされる事だから今言うけど、次のターゲットはトーマなんですって…トーマを殺す事が…」

「…………」

英雄ラグナロクの次はトーマ…分かっていたが、やっぱり改めて聞くと辛い。
英雄ラグナロクが罪を償っているんだ、父にもちゃんとその罪を償ってほしい。

…父はいろんな罪がない人を手にかけその血で濡らしてきた。
一生掛かっても償えないだろうけど、そうなったら俺も父の罪を償っていきたい。

誰にも認められなくても俺にシグナムの血が流れているなら…

だからトーマに父を捕まえてほしいんだ、ゲームでは最後父は二人の子供を亡くし行方をくらました。
父を野放しにしたらまた同じ事を何処かでやるだろう。
俺も協力する、だから…父を止めて…

姉はどうするのだろうか、作戦に参加しないのだろうか……でもそれを父は許すだろうか。

「分かってた、トーマが私を好きにならない事ぐらい……でも私はトーマが好きだから想いを伝えるのは自由でしょ?」

「…でも、他人に迷惑掛けちゃダメだよ」

「何それ、私が悪いの!?トーマが私のものにならないなら一生独り身でもいいじゃない!それをトーマに群がる女共が」

姉は泣き腫らした目をしてても迫力があり俺に詰め寄る。
一生独り身はトーマが可哀想なんじゃ…と苦笑いする。

姉は少々自由過ぎる、トーマを想うならおしとやかにしといた方が効果があると思う。
姉の怒りがふつふつと沸き上がり今度はリンディについて怒りを露にしていた。

ちょっといつもの姉に戻り良かったような、残念なような複雑な気持ちになった。
でもそれは一瞬で、すぐにまた下を向いた。

「分からないのよ、好きになった事がないからどうすればいいか」

「……姉さん」

「でも、トーマを大好きって気持ちはぶれないの…だからトーマがいない世界なんて私にとって怖いものでしかない」

姉は震えていた、トーマを失う気持ちは俺も同じだから分かる。

不器用なだけで、姉はトーマを本気で好きなんだ。
自分がしてきた罪を理解している、だからこんなに震えている。
トーマに恨まれてもいいが、トーマは失いたくない。
姉の今までの行動からして普通の人には理解できないだろう、姉は悪い人でしかない。
それと同じくらい俺にとっては姉は姉でしかないんだ。

姉はこちらを見つめた。
その瞳はとても弱っていた。

「私が悪い事をしてきたのは分かってる皆私を睨むから……アルト、アンタにも散々こきつかったり酷い事を言ったわね」

グランの事はまだ許したわけじゃない、リンディを攻撃した事も……
でも俺は俺にした事ならもう何とも思っていない。

……俺には沢山の人からいろんなものをもらったから…
だからその優しさを姉にも分けたい。

ちゃんと罪を償い、真っ白な心になった時…きっと人の優しさに気付くから…
それまで何年掛かっても俺が姉を日陰から陽向に向かって連れ出すから…
それが出来るのは家族だけだから…

「姉さん、これが終わったらちゃんと自分のした罪を償ってくれる?」

「…え?」

「約束してくれるなら俺は姉さんに協力するよ」

分かってた、姉さんが何を言いたいのか。
俺はその事について協力するつもりでいた。
正直一人だと限界があったから、ちょうどいいと思った。

姉はまたポロポロと涙を流した。
やっぱり姉弟だって言うのが嘘みたいに姉は美しい人だ。

俺の服を掴んで姉は心の底から叫んだ。

「お父様からトーマを助けたい!」

「…うん、俺も助けたい」

姉の手に手を重ねた。
初めて姉弟が繋がった、そう思った。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...