眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
60 / 116

数十年ぶりの再会・トーマ視点

しおりを挟む
そんな剣いらないし、そもそも騎士団に入る気はなかった当時の俺は親父が怖くてその場から逃げた。

あれから親父にあの剣の話を聞いていない。

結果として騎士団に入団してしまったが魔剣は受け取らない、俺には大切な大剣がある。

しかし親父を疑ってもし、後ろめたい事があるなら親父はきっと魔剣を俺に向けるだろう。
魔力がなくなっただけで死なないから躊躇いもないだろう。
そうなれば3日は眠りにつくだろう。

一秒一秒無駄にしたくない今、そんな事をされたら………考えるだけでも最悪な結末しか起きないだろうな。
だから俺の背中はノエルにあずけよう。

ノエルにも親父の魔剣の話をしたら難しそうに考え込む。

「俺が気を付けるのはラグナロク様ぐらいか」

「親父の元部下数名も警戒した方がいい、とりあえず今日は実家に帰って親父の行動を見ていく…変な動きをしたら真っ先に知らせる」

「……分かった、俺はその間待機してればいいんだな」

ノエルの言葉に頷いた。
母さんにも帰る事を伝えなくてはな、親父の話は勿論しない…母さんは巻き込みたくはない。
今日、この寄宿舎を留守にするがリンディを気に入ってる騎士は何人かいるから大丈夫だろう。

俺は実家に帰るなら荷物をまとめないとなと思い、ノエルには休める時に休んどけと伝えてノエルが部屋を出た。

姫が俺に伝えようとしていた事、決して無駄にはしない。
姫が嘘をつく理由もない…親父になにかあるのだろう。

窓の向こうに広がる空を眺めた。
姫も同じ空を見ているだろうか。

「…姫」

どんな結果になってもなにが待ち受けていても俺はもう目を逸らさないし逃げない。
……だから姫も、俺から逃げないでくれ。

荷物をまとめて机に置きっぱなしだったリンディの弁当を見た。
そういえば夜食作ってくれたんだっけ…食べないと怒られそうだと苦笑いする。

俺は親父みたいに道を踏み外さない、この力には国民の命が一つ一つ乗っかっているんだ。
……英雄にはならなくていい、ただ…騎士団長の名に恥じない行動をしたい。

リンディの弁当を口に押し込み、早めに食べて荷物を抱えて部屋を出た。
正直味わう暇はなかったが空腹で倒れる事はなくなっただろう。
部屋を出ると部屋の前にリンディがいた。

いつからいたんだ?ノエルが去った時はいなかった。
ちょうど良かったとリンディに弁当箱を返す。
リンディは弁当箱を見つめていた。

「トーマ、私にも出来る事はない?」

「リンディは騎士団じゃない、自分の修行をしてればいい」

「でもっ!!」

「帰ってきた奴らにお帰りと言ってくれるだけで何も望まない…その行動力を自分の村の奴らに使ってくれ」

リンディはお弁当箱を抱き締めて、自分の無力さを悔いている顔をしていた。
…正直リンディは寄宿舎から出ない方がいいと思っている。
リンディは契約の魔法使いだ、それをシグナムに知られたらどうなるか…
本人も知らない力だ、言えばリンディは使おうとするだろう…だから言わずに守るしかない。

他の騎士団の奴らにも教えていない、知ればリンディと契約したがる奴らが現れたら大変だ。
ノエルには言おうか迷ったが、いろいろとノエルに背負わせ過ぎてしまっていたからリンディの事は話さなかった…その方がノエルもリンディを特別視せず普通に接する事が出来ると思ったから…

リンディにはその時が来たらきっとリンディの両親から契約の魔法使いの事を聞くだろう…それまではただのリンディとして余計な事は考えず姫修行をしてほしいと思っていた。

親父とシグナムの問題は俺が解決する、それがトーマ・ラグナロクとして生まれた俺のけじめだと考えている。

リンディに見送られ寄宿舎を後にした。

なにか成果があるまで寄宿舎には戻らないが騎士団としての通常業務はしっかりやる。
俺がいない間はコイツが親父を写してくれる筈だ。

ポケットから取り出したのは手のひらサイズのくまのぬいぐるみ。
目には超小型カメラが内蔵されていて、鮮明に目の前の風景を写し出し記録する。
俺は街の見回りをしつつリアルタイムでそれを確認する。
親父が家を出たら追いかける、なるべく通常業務外に起きてほしいが思い通りにはいかないだろうな。

24時間365日絶対に親父の行動を見逃さない。

見回りはノエルとした方が万が一親父が不審な行動をした時一緒に向かいやすいな。

家に帰るのはなん十年ぶりだろうか。
無駄に大きな家の前に足を止める。

仕送りはしているが「たまに帰ってきなさい」と母さんから手紙が届いていた事を思い出し苦笑いする。
……こんな理由で帰ってくるつもりはなかったんだけどな。

家のベルを鳴らすと、家の中からバタバタと慌ただしい音がした。

「トーマ!」

「ただいま、母さん」

ドアが開いたと思ったら母さんが飛び出してきて俺を抱き締めた。
頭一つか二つぶん低い母さん、こんなに小さかったっけと不思議に思った。

少し白髪混じりの黒髪で顔のシワもある。
……長い事会ってなかったんだなと反省する。

親父は嫌いだが母さんには会うべきだったな。

母さんは騎士団就任パレードで俺を見たからか俺の顔はすぐに分かったようだ。

「随分男前になって、母さん嬉しい」

「ずっと会えなくてごめん」

「いいのよ、お仕事忙しいんでしょ?」

頷くしか出来なかった。

母さんに心の中で謝り家の中に入った。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

処理中です...