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幻のようで確かに存在した温もり・トーマ視点
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それはまるで幻のように手のひらからこぼれ落ちていく。
頬に涙が伝う。
触れられない光に君を拐われて、どれくらいの時間が経っただろうか。
光はもう消え暗闇に覆いつくされる。
やっと会えたのに、またいなくなってしまった。
恋愛というものは甘く幸せでキラキラしたものだけではない、辛く苦しいものなんだって分かっていた。
……分かっていたのに…
君の声はちゃんと届いた、でもそれが幻聴だったのかそれとも本当に君が口にしたのか分からない。
君はやっぱりズルいな。
俺ばっかり辛い想いをさせて君は俺の言葉を聞いてくれるまで待ってはくれないんだね。
「…俺にもちゃんと、君を愛してるって答えさせてよ」
幻聴でも構わない、とても嬉しかったのに君は今ここにいない。
残るのは唇の感触と温もりと君の言葉だけ…
本人がいないとどれも意味がないものだ。
ゼロの魔法使いの力で魔力も元通りに戻っている。
立ち上がり服に付いた土を軽く叩き落とす。
泣いてばかりもいられないと一歩一歩踏み出す。
姫を怪我させた騎士はそれなりの処分を下すつもりだ。
どんな理由があれ、無害の一般人を暴行した罪は軽いものではない。
最悪処刑だろう、偏見と独断で動く騎士は俺の騎士団にはいらない。
それともう一つ引っかかる事があった。
全部は薄れる記憶の中聞き取れなかったが、姫は確かに父の話をしていた気がした。
何故姫が父の話をするのだろうか、接点なんてあっただろうか。
何も理由なく姫が口にするとは思えなかった。
調べてみるか、父…ラグナロクの事を…
寄宿舎前まで着いたら入り口にノエルとリンディが立っていた。
「何してるんだ、こんなところで」
「トーマ!」
「何してるじゃねーよ!心配させやがって」
リンディは俺に駆け寄りノエルは怒っていた。
黙っていなくなったから心配掛けてしまった。
あの時は他の奴に知らせる前に一刻も早く姫を助けたくて伝えられなかった。
ノエルの話によると寄宿舎前に倒れていた二人の騎士はいなかったらしい。
いくらバカな騎士でも処罰される事を分かってて逃げたか。
……早く捕まえないと危険だな、もしまた姫に危害を加えたらと思うとゾッとする。
ノエルに二人の騎士の顔も名前もはっきり覚えているから指名手配するように伝えた。
「トーマ、お腹空いたでしょ…もう夕飯の時間過ぎちゃったからお弁当作ったの、食べる?」
「ありがとう、いただく」
リンディは笑い持っていたお弁当箱が入った布の包みを渡した。
それを受け取り寄宿舎に入ると今度は二人組がやってきた。
まだ休めそうにないな。
グランとリカルドが俺の前に立っていた。
そういえば二人は姫の知り合いだったな。
それにしても落ち着きなくソワソワしてるな、特にグランが…
冷静そうなリカルドに話を聞いた方がいいな。
「どうかしたか、リカルド」
「…あ、はい…実は彼が」
「アルト様は!?アルト様は何処ですか!?」
リカルドと話していたのを横から割り込みグランが顔を近付けて食い気味に聞いてくるからとりあえず後退る。
なんでグランが姫がいた事を知っているのか疑問だった。
……まさかあの騒動にグランが関わっているって事はないだろうな。
確かグランは姫派だと思っていたんだけど不審な目を向ける。
姫はいなくなってしまったからここにいるわけもないがグランは必死に探していた。
リカルドはどうやらグランの言葉に引っ張られてきただけみたいで、リカルドもグランの言葉を半分信じていない顔をしていた。
「何故ひ…アルトがいるって分かったんだ?」
「寄宿舎前で物凄い音がして、僕とリカルドが外に出たんです…そしたらアルト様のにおいがして、さっきまでここにいたって分かって…同時に貴方がいないと副団長達が探していたので一緒にいると思いまして」
………におい?何を言ってるんだ。
確かに姫はあそこにいた、姫の残り香がしたと言っているのか?
つまり姫のにおいを嗅いだ事があると、お前はそう言うのか…
グランを睨む俺の異変にリカルドがいち早く気付き何だが分からないが早く謝るようにグランを説得していた。
グランはよく分からずリカルドの行動に首を傾げていた。
においについてまた後でゆっくり話し合うとして深呼吸をして怒りを鎮める。
「残念ながらいない、気付いた時にはいなくなってた」
「…そう、ですか」
グランは肩を落として落ち込んでいた。
「いたのは本当だったんだ」とリカルドは驚いてグランを見ていた。
嘘は付いていない、本当にいなくなっていた。
きっと姫は家に帰った、姫は無事だとそう思う。
あの場に俺以外の騎士はいなかったし姫にキスをされて数秒で目を覚ましたんだ、姫に危害を加える暇もないだろう。
姫がいなくなったあの光はきっとワープ魔法だ。
ワープ魔法はいろいろと条件が厳しくてワープする対象者をよく知る者しかまず扱えない。
だから、きっと無事だと…そう思う。
この二人にはやってもらいたい仕事があり、この話を終わりにした。
「二人はもう今日の仕事は終わりか?」
「え、えぇ…」
「仕事ですか?」
俺は頷く、この仕事を受けたら残業になるだろう…二人が嫌なら受けなくてもいい…俺がやるだけだ…
特にリカルドはまだ学生だし、寮で暮らしている…今は学業に専念した方が良いと思っている。
それに曖昧な話だ、もしかしたら空回りする危険性がある?
それでもいいというならお願いしたい。
頬に涙が伝う。
触れられない光に君を拐われて、どれくらいの時間が経っただろうか。
光はもう消え暗闇に覆いつくされる。
やっと会えたのに、またいなくなってしまった。
恋愛というものは甘く幸せでキラキラしたものだけではない、辛く苦しいものなんだって分かっていた。
……分かっていたのに…
君の声はちゃんと届いた、でもそれが幻聴だったのかそれとも本当に君が口にしたのか分からない。
君はやっぱりズルいな。
俺ばっかり辛い想いをさせて君は俺の言葉を聞いてくれるまで待ってはくれないんだね。
「…俺にもちゃんと、君を愛してるって答えさせてよ」
幻聴でも構わない、とても嬉しかったのに君は今ここにいない。
残るのは唇の感触と温もりと君の言葉だけ…
本人がいないとどれも意味がないものだ。
ゼロの魔法使いの力で魔力も元通りに戻っている。
立ち上がり服に付いた土を軽く叩き落とす。
泣いてばかりもいられないと一歩一歩踏み出す。
姫を怪我させた騎士はそれなりの処分を下すつもりだ。
どんな理由があれ、無害の一般人を暴行した罪は軽いものではない。
最悪処刑だろう、偏見と独断で動く騎士は俺の騎士団にはいらない。
それともう一つ引っかかる事があった。
全部は薄れる記憶の中聞き取れなかったが、姫は確かに父の話をしていた気がした。
何故姫が父の話をするのだろうか、接点なんてあっただろうか。
何も理由なく姫が口にするとは思えなかった。
調べてみるか、父…ラグナロクの事を…
寄宿舎前まで着いたら入り口にノエルとリンディが立っていた。
「何してるんだ、こんなところで」
「トーマ!」
「何してるじゃねーよ!心配させやがって」
リンディは俺に駆け寄りノエルは怒っていた。
黙っていなくなったから心配掛けてしまった。
あの時は他の奴に知らせる前に一刻も早く姫を助けたくて伝えられなかった。
ノエルの話によると寄宿舎前に倒れていた二人の騎士はいなかったらしい。
いくらバカな騎士でも処罰される事を分かってて逃げたか。
……早く捕まえないと危険だな、もしまた姫に危害を加えたらと思うとゾッとする。
ノエルに二人の騎士の顔も名前もはっきり覚えているから指名手配するように伝えた。
「トーマ、お腹空いたでしょ…もう夕飯の時間過ぎちゃったからお弁当作ったの、食べる?」
「ありがとう、いただく」
リンディは笑い持っていたお弁当箱が入った布の包みを渡した。
それを受け取り寄宿舎に入ると今度は二人組がやってきた。
まだ休めそうにないな。
グランとリカルドが俺の前に立っていた。
そういえば二人は姫の知り合いだったな。
それにしても落ち着きなくソワソワしてるな、特にグランが…
冷静そうなリカルドに話を聞いた方がいいな。
「どうかしたか、リカルド」
「…あ、はい…実は彼が」
「アルト様は!?アルト様は何処ですか!?」
リカルドと話していたのを横から割り込みグランが顔を近付けて食い気味に聞いてくるからとりあえず後退る。
なんでグランが姫がいた事を知っているのか疑問だった。
……まさかあの騒動にグランが関わっているって事はないだろうな。
確かグランは姫派だと思っていたんだけど不審な目を向ける。
姫はいなくなってしまったからここにいるわけもないがグランは必死に探していた。
リカルドはどうやらグランの言葉に引っ張られてきただけみたいで、リカルドもグランの言葉を半分信じていない顔をしていた。
「何故ひ…アルトがいるって分かったんだ?」
「寄宿舎前で物凄い音がして、僕とリカルドが外に出たんです…そしたらアルト様のにおいがして、さっきまでここにいたって分かって…同時に貴方がいないと副団長達が探していたので一緒にいると思いまして」
………におい?何を言ってるんだ。
確かに姫はあそこにいた、姫の残り香がしたと言っているのか?
つまり姫のにおいを嗅いだ事があると、お前はそう言うのか…
グランを睨む俺の異変にリカルドがいち早く気付き何だが分からないが早く謝るようにグランを説得していた。
グランはよく分からずリカルドの行動に首を傾げていた。
においについてまた後でゆっくり話し合うとして深呼吸をして怒りを鎮める。
「残念ながらいない、気付いた時にはいなくなってた」
「…そう、ですか」
グランは肩を落として落ち込んでいた。
「いたのは本当だったんだ」とリカルドは驚いてグランを見ていた。
嘘は付いていない、本当にいなくなっていた。
きっと姫は家に帰った、姫は無事だとそう思う。
あの場に俺以外の騎士はいなかったし姫にキスをされて数秒で目を覚ましたんだ、姫に危害を加える暇もないだろう。
姫がいなくなったあの光はきっとワープ魔法だ。
ワープ魔法はいろいろと条件が厳しくてワープする対象者をよく知る者しかまず扱えない。
だから、きっと無事だと…そう思う。
この二人にはやってもらいたい仕事があり、この話を終わりにした。
「二人はもう今日の仕事は終わりか?」
「え、えぇ…」
「仕事ですか?」
俺は頷く、この仕事を受けたら残業になるだろう…二人が嫌なら受けなくてもいい…俺がやるだけだ…
特にリカルドはまだ学生だし、寮で暮らしている…今は学業に専念した方が良いと思っている。
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