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18ルーカスその2、公爵家騎士団を訪問する

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 僕のお父様はこの国でも指折りの名家、ゴールドスタイン公爵家騎士団の副団長をしている。
 どうだ? 凄いだろう! そして僕は今日初めてお父様に連れられて騎士団の見学に行くんだ。

 おっと、自己紹介がまだだった。僕の名前はルーカス・ロスラミン、7歳。

 僕のお父様が戦争の英雄だったソードマスター、ルーカス・ギリゴール卿にちなんで付けた名前なんだ。
 生まれて初めて開いた僕の目を見て、彼の淡い緑色の目を思い出したんだって。もちろん僕がソードマスターの様に強い人間に育って欲しいとの願いも込めて、だってさ。

 

「君がルーカスだね、初めまして。私は団長のアーバスノットだ」

 うわあ、凄く大きい人だ。それにとっても強そうだ! 目が細いから笑うと目が無くなっちゃう。お父様よりずっと年上かな。僕のおじい様位だろうか。

 僕は団長さんに挨拶した。それからお父様の補佐官をしているというカーティスさんに会った。

 カーティスさんは凄く優秀なんだってお父様が言っていた。まだ22歳なのに次の副団長候補なんだって。こうやって実際に見てみると金髪で青い目の優しそうなイケメンだけどね。

 そういう僕は青みがかった黒っぽい髪に淡い緑色の目、美人なお母様によく似てると言われるから、きっと僕もイケメンだ!

「こんにちはルーカス君。お父様は少し団長とお話があるので、ここからは私が案内するよ。どこか見てみたい所はあるかい?」

 カーティスさんは話し声も優しい感じだ。

「僕はお父様の執務室が見たいです!」

「よし、分かった。騎士団の建物は公爵家の敷地の東側にあるんだ。多くの騎士団員がここで生活してるんだよ」
「はい。お父様も独身の頃にお世話になっていたと言ってました!」

「うん。屋敷が離れている者は騎士団の宿舎を利用してる人が多いね。とても立派な建物だし環境も整ってるから居心地がいいしね」

 お父様の執務室がある騎士団の建物へ向かう間、カーティスさんと色んな話をした。僕も騎士団に入るのかと聞かれたりもした。

 僕はお父様と同じように公爵家の騎士団に入りたいと思う。でも魔物討伐軍に志願して国の為に戦いたいという気持ちもあるんだ。ただ魔物の討伐はとても危険な仕事だからと、お母様が反対している。まあ、僕はまだ子供だからずっと先の話かな。

 途中、花でいっぱいの綺麗なお庭を抜けると灌木が立ち並ぶ場所に小さなガゼボがあった。
 ガゼボでは一人の女の子が本を読んでいた。初めは等身大の人形が置いてあるのかと思ったが、僕達が近くを通る時カーティスさんが会釈をしたんだ、人形だと思った人はこちらを見てコクンと頷いた。

「わー僕、あれ人形かと思いました」
「近くでお会いしても人形の様に可愛らしい方だよ」
「あれは誰ですか?」可愛らしいと聞いては興味を持たずにいられない。

「あの方は公爵家のお嬢様のエミリア様だ。まだ15歳だけどとても聡明な方なんだ。今はアカデミーの休暇で屋敷に帰っていらしてる」

「へぇ~僕より8つも年上なんだ。ここからだともっと年下に見えました」
「公爵家の騎士団に入ればお嬢様をお守りする役目も担う事になる。それよりアカデミーで出会うかもしれないね」

 そうだ、昔公爵家にコカトリスが襲ってきて、お父様が怪我をしたと聞いたことがある。きっと公爵家の人を守って怪我をしたんだな。凄いな、お父様はかっこいいな。

 ガゼボを通り過ぎると騎士団の建物はすぐだった。

 そこでお父様の執務室を見せて貰ったり、団員の人が宿舎として使っている部屋や食堂を見せて貰った。
 食堂でお茶とクッキーをご馳走になった僕は、用事が終わったお父様と合流して外へ出た。

 さっきまでのいいお天気が打って変わって強風が吹き荒れ、急に空が厚い雲で覆われてきた。

「これは雷雨になりそうだ。ルーカス急いで馬車に向かうぞ」

 お父様は僕の手を引いて走り出したが雷鳴が轟き、すぐにひょうが降り始めた。

 初めは小さな豆粒くらいだった雹が次第に大きくなり、まるで弾丸の様に地面に落ちて来た。バタバタと建物や木の枝にぶつかる音が凄まじい。

 腕や頭に当たると石が当たったように痛い。とうとうお父様は引き返してあのガゼボに戻って来た。
 
 ガゼボの下に入ったけれど、僕の拳と変わらない位の大きな雹が入り込んでくる。

「お父様、僕怖い・・」
「私もこんな大きな雹を見たのは始めてだ。何か覆うものがあれば、それを被って頑丈な建物まで走るのだが・・」
「クッションじゃダメかな?」僕はベンチに沢山置いてあるクッションを指さした。
「無いよりはましだろう。よし、それを頭に当ててお屋敷まで走るぞ!」

 お父様はクッションをひとつ手に取り、僕に手渡した。僕がそれを頭に当てようとした時、頭上でバキバキッっと物凄い音がして屋根に穴が開いた。その開いた穴から降り注いだ雹のひとつが僕の頭に直撃した。

「うっ」

 僕は気を失った。




___________



 なんという変わった夢を見た事だろう。

 自分と同じ名前の少年になった夢とは、自分がこうも想像力の逞しい人間だとは思いもしなかった。しかも夢の中で成長したお嬢様の様子を垣間見るとは・・。

 あまりにも生々しい夢で本当に自分が少年になったかのような気分だ。しかも雹が当たった頭までがえらく痛む。アイスゴーレムに殴られたせいで雹が直撃する夢など見たのだろうか。

 あのアイスゴーレムとの戦いで自分は死んだと思ったのだが、私はしぶとく生き残ったようだ。

 だがここはどこだろう? 基地のテントでない事は確かだ。戦地近くの病院だろうか。それにしては立派な部屋だ。

 ふとドアが開き、一人のメイドが入って来た。私が目覚めているのを見てすぐ出て行き、男を一人連れて戻って来た。

「ああ、良かった。目が覚めたんだなルーカス。頭はどうだ、痛むか?」

 彼は‥ロスラミン副団長ではないか。ベッドの端に腰かけて私の顔をそっと撫でている。しかし私の記憶の中の彼より少し老けている様な気がするが、気のせいだろうか。それに公爵家騎士団の彼が何故ここに居るのだ?

 私は頭に手をやりながら体を起こそうとした。ズキンと鋭い痛みが頭に走る。これは堪らない。

「ううっ、流石にまだ痛みますな」なっ、なんだ。誰の声だ?! こんな幼い子供の様な声は!? 確かに自分が喋ったつもりなのだが。

 ロスラミン副団長も目を見開いて私を見ている。

 頭に当てた手を下ろしたが、視界に入って来たそれを見て私も目を見開いた。小さい! これは間違っても私の手ではない。起き上がろうとしたが頭痛が酷くて動くとめまいがした。

「ルーカス、まだ起きちゃいけない。お医者様もしばらくは安静にしていなさいとおっしゃっていたぞ」
「か、鏡を取って頂けまいか?」

 私の問いに、副団長より先にメイドが動いて手鏡を渡してくれた。

 果たして鏡に映っていたのは見知らぬ黒髪の少年だった・・・・。


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