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巡査部長の見解(閑話)

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「坂本、鑑識からの報告をもう一度見せてくれ」

 坂本巡査はさっき上がってきたばかりの鑑識からの報告書を取り出した。

「これです、何か気にかかる事でもありましたか?」

 坂本巡査から受け取った報告書を読み返した吉田巡査部長は顔を上げて答えた。

「土手の斜面を転がって橋の土台に頭を強打したらしいというのはこれで分かる、衣類にも土手に生育している草が多数付着しているし、土手にも痕跡がはっきり残っている」

「ええ、家を出た時刻からすると夕刻にあの場所に居たと考えられますから、暗くて足を踏み外したのかもしれませんね」

「あの土手は結構急斜面だから足を踏み外して転べば下まで勢いよく落ちるのは分かるんだが・・」
「だが?」

「この橋の土台まで転がって脳震盪を起こすほど強打するかな?」現場写真を並べてそれを指で指しながら吉田は言う。

「吉田さんはこれはただの事故じゃないと思ってるんですか?」
「目撃者がいないからな・・肝心の被害者も事故当時の記憶がないし」

「医者の話では忘れている過去の記憶を取り戻すことがあっても、事故当時の記憶は戻らない可能性が高いと言ってましたね。これが事件なら犯人には都合がいいですね」

「俺が気になる事がもうひとつ。被害者の横に落ちていたこのバッグ。横に落ちていたという事は転がり落ちる間ずっと手から離さなかったという事だよな?」

「ショルダーやバッグパックじゃないですから、そう・・なりますかね」

「このバッグは被害者が着用していたコートと同じ生地で出来ているとある。薄いベージュのバッグ。コートは草まみれで草に擦れて緑の汚れも付いているのにバッグは無傷。あの斜面を転がる間もみくちゃになったはずなのに・・」

「バッグの中の財布や貴重品はそのままでしたから物取りの類ではないですね」
「この件は慎重に調査するように上から圧がかかってるんだ。ただの事故として処理することも出来るが、後になって間違ってましたじゃ済まされんぞ」

「五瀬グループの社長の内縁の妻・・ですか」
「そうだ。もう一度被害者を発見した少年に話を聞いた方がいいかも知れんな」
「周囲の聞き込みも再度やってみましょう」

 吉田もデスクから立ち上がった。
 高校生ならちょうど学校が終わった頃だろう・・。

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