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24・宏樹の名を呼ぶ女
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「宏樹さん?」
その女性客は確かに宏樹の名を呼んだ。ここのスタッフが付けている名札には苗字しか書いてない。なんでこの人は宏樹の名前を知ってるんだ?
宏樹の顔には当惑の表情が浮かんでいた。
「‥確かに俺は宏樹ですけど」
「ああ! やっぱり宏樹さんだわ。私が見間違えるわけない。どうしてこんな所に?! どうして急にいなくなったの?」
「えっと‥すみません先に会計してもいいですか?」宏樹はかなり戸惑っているようだ。
「あっ、そうですね。ごめんなさい幾らですか?」
なんか訳ありっぽいから、俺は宏樹とレジを交代した。宏樹はカウンターから出て来て女性と隅で話している。はっきりとは聞き取れないが「今までどこにいたの?」とか「どうして?」という言葉が断片的に聞こえてくる。最後に自分の連絡先を宏樹に手渡してその人は帰って行った。
難しい顔をして宏樹が戻って来た。どういう話だったか聞きたかったがそろそろ上がる時間だった。帰り道にゆっくり聞いた方がいいだろう。
「でさ、さっきの女の人、何だったの?」
早速帰り道に俺は宏樹に尋ねた。俺は宏樹がワンナイトしちゃった内の一人だろうと予想したが、返って来たのは予想外の答えだった。
「それが誰だかさっぱりだ」
「そうなの? ワンナイトの相手じゃなかったのか」
「違う。彼女は何年もずっと俺を探していたと言っていた。だが我がこの世界にやってきてまだ1年も経っていないのだぞ」
「う―む‥。じゃああれか、ゲームの中のキングに入れ込み過ぎてそっくりなお前を見て現実と虚構の区別がつかなくなったとか?」
「なら我の名前を知っていたのはなぜだ?」
「それもそうだよな。お前、連絡先貰ってなかったか? 何て名前なんだ?」
宏樹はポケットから名刺を取り出した。『〇〇化粧品・企画室長 大迫由利香』と書いてある。化粧品会社に勤めてるのか。そうだな、結構綺麗な人だったな。すごい美人とかじゃないけど整った顔立ちというのかな。
「ふうん、企画室長か。ちゃんとしてそうだよな。ゲームにのめり込みそうなタイプにも見えないし」
俺は色々考えながら歩いた。あんまり物事を深く考えるのは苦手なんだが、最近は宏樹のせいで考え事が多くなって参るよ。
隣をチラッと見ると宏樹もずっと考えているようで、その後はずっと黙ったままで俺たちは家に着いた。
「ただいまあ~」
「ただいま」
「おかえりなさいですにゃぁ」玄関に入るとディアンがすっ飛んで来た。
「いやあもう今日はホンっとに疲れたわ」
「全くだ。客も多かったが煩わしい事案が多すぎた」
俺も宏樹もリビングに入るなりソファにどっさりと倒れ込んだ。
「そんなご主人様達にディアンがご馳走を作ってあげましたにゃん!」
「お、マジか」
「ディアンは優しい子だ」
「やったあ! ご主人様に褒められましたのぉ。さ、早く食べて下さいにゃ」
確かにキッチンからいい匂いが‥なんだか随分酸っぱい匂いが漂ってくる‥。
俺と宏樹がテーブルに着くとディアンが意気揚々とスープの入ったボウルを運んできた。中を覗くと黒っぽい液体にミートボールがぷかぷかと浮かんでいる。
「早く飲んで下さいにゃ!」
「お、おう」
黒い色の正体はどうやらソースらしい。ソース味のスープにミートボールが入っているのだ。
「ディアンちゃん、これは‥?」
「ご主人様の好物のミートボールをたっぷり入れたスープですにゃ」
「うん、これは美味いぞ」水で薄めたソースのスープを宏樹はうまそうに飲んでいる。
宏樹に褒められてニコニコしながらディアンは冷蔵庫からもう一つの料理を取り出した。
大皿に並べられたそれは‥寿司?
ぐちゃぐちゃなご飯の塊の上にチーズやレタス、ポテトチップスや柿の種などが乗っている。ここでもミートボールが登場した。
「これって‥寿司?」
「そうですにゃ! お寿司はご馳走なんでしょ? だからディアンが頑張って作ったのです! 直巳も遠慮せずに食え!」
なんで俺の時は命令口調なんだよ、まったく。しかしこれ食えるのか? まずは無難なところから・・俺は最初にレタスが1枚ペロンと乗っかってる寿司を手でつまんだ。酢飯はねちょねちょで寿司の形になってない。レタスの下にはワサビの代わりにケチャップが付いていた。それを口に運ぶとその酸っぱさに顔が歪んだ。
「おっ‥」梅干しの上にレタス乗っけて食ってるみたいだ。
「直巳、これも食ってみろ」
ディアンが指さしたのは‥これ生の鶏肉じゃね?「ディアンちゃん、これ鶏肉? 生じゃない?」
「寿司は生ものだろうが。直巳はそんな事も知らないのかにゃ?」ディアンはバカにしたように俺を見下ろす。
「いや、だって‥」
「ディアンちゃんが頑張って作ったのにぃ。なんで食べないのぉ。直巳のバカバカバカ」
「こいつはそういう奴だ。ほっとけ、我はちゃんと食べるぞ」
この酸っぱい寿司モドキを宏樹は平気でパクパクと食べている。ヴァンパイアって味覚障害なのか??
俺もなんとか頑張って食べたがサラミが乗った寿司はこの世の物とは思えないまずさだった。サラミの下にはイチゴジャムが塗ってあったんだぜ。
「ふぅ~満腹した。ディアンちゃんありがとうね」一応、礼を言ってみる。
「ディアンは優しい子だ。今度は我と一緒に作ってみような」
「はあい、今度はご主人様に料理を教えてあげますのにゃん! じゃ後片付けは頼んだぞ、直巳」
そう言うとディアンは宏樹とリビングに行ってテレビを見始めた。
「まじか‥俺疲れてんのに」
翌朝昼近くに起きて行くとキッチンにはディアンと宏樹が仲良く並んで料理をしていた。
「おはよう。ちょうど昼飯が出来るところだ」
「今日はディアンちゃんがご主人様にオムライスの作り方を教わったにゃ!」
「オムライスか。いいな」宏樹が教えたなら問題ないだろう。おかしな匂いもしてないし‥。
美味いオムライスを平らげてひと息ついている所で俺は昨日の事を思い出した。
「宏樹さ、その人に連絡してもう一度会ってみたらどうだ? 詳しく話を聞いてみようぜ」
「ああ、我も気になっていたところだ」
「俺も一緒に付いて行くよ。宏樹は記憶喪失で何も覚えていない。で、縁があってしばらく前から内に居ることにしてさ」
「どこへ行くのですにゃ?」
「うん、ちょっとな」
「ちょっとならディアンちゃんも一緒に行きますにゃ」
「それはまずいよ。ディアンちゃんを連れて行く理由がないし」
「嫌ですにゃっ! 直巳がご主人様に付いて行くならディアンちゃんも‥」
「ディアン、今回は直巳の言う通りにしてくれ。お前とは今度また別の楽しい場所へ行こう」
「うっ、ぅぅぅ。ご主人様の言いつけなら仕方ありませんにゃ‥」
怒るわけではないが、確固たる宏樹の口調にディアンは大人しく聞き分けた。
後日宏樹は大迫由利香と会う約束を取り付けた。
俺達が会う事にした場所は二駅離れた所にある大きなカフェだ。店内が広いからテーブルの間隔も広く開いていて話が聞かれにくい。宏樹がゲームから出てきたキャラだと話すつもりはないが万が一の為だ。
俺たちがカフェに到着すると既に大迫由利香は奥の席に座っていた。
「こんにちは。すみません、お待たせしたみたいで」
「いえ私も今来たところです」
あらかじめ俺が一緒だと伝えてあったが大迫さんは少し困惑しているように見えた。
コーヒーを3つ頼んだ後、彼女はすぐ本題を切り出してきた。
「それで‥ひろ、落合さんは今は五十嵐さんと一緒に暮らしてらっしゃるんですね?」
落合‥宏樹に似てるそいつは落合宏樹っていうのか。
「はい。宏樹は事故にあって記憶を無くしてしまって。家族が見つからなかったので、その‥ちょっとした縁からうちで一緒に暮らすことになりまして」
「宏樹さんが事故にあったのはどこなんですか? 私達あんなに宏樹さんの行方を探したのに‥」
「ええっと確か‥」う―ん、そんな細かいところまでは考えてなかったな。
「俺が病院で聞いたのは、この間働いていたコンビニの前にある駅の裏でだったと」
俺が迷っていると宏樹が先に話を作ってくれた。
「あんな遠い場所で‥」
「宏樹の事、教えてくれませんか? その、あなたが探していた落合宏樹って人がこの宏樹かどうか確実じゃないですけど」
「間違いありません! いえ、その、こうやってお会いすると5年前にいなくなった時と全然変わっていなくて不思議な位ですけど。でも彼に瓜二つなんです。名前だって同じ宏樹ですし」
大迫さんはテーブルに乗り出すようにして意気込んだが、なんの表情も浮かんでいない宏樹の顔を見て戸惑いも覚えたようだ。一度椅子に座り直し、落ち着きを取り戻すように大きく深呼吸してから話し出した。
「宏樹さんは私の婚約者なんです。それが5年前に突然行方不明になって。警察に失踪届も出していたんですけど‥病院では身元が分からない患者が運ばれてきた場合、警察に問い合わせたりしないんでしょうか?」
「ふ、普通はすると思います。宏樹の場合は何か手違いがあったのかもしれません」そう俺は取り繕い、
「病院に運ばれた時は所持品が何もなかったと聞いてました」宏樹も俺の話をフォローする。
「そうですか。宏樹さん、もう体は大丈夫なんですか?」
「ええ、すっかり回復してます」
「宏樹はどんな仕事をしてたんですか?」
「宏樹さんはジョンソンソフトウエアという会社で働いてました」
その女性客は確かに宏樹の名を呼んだ。ここのスタッフが付けている名札には苗字しか書いてない。なんでこの人は宏樹の名前を知ってるんだ?
宏樹の顔には当惑の表情が浮かんでいた。
「‥確かに俺は宏樹ですけど」
「ああ! やっぱり宏樹さんだわ。私が見間違えるわけない。どうしてこんな所に?! どうして急にいなくなったの?」
「えっと‥すみません先に会計してもいいですか?」宏樹はかなり戸惑っているようだ。
「あっ、そうですね。ごめんなさい幾らですか?」
なんか訳ありっぽいから、俺は宏樹とレジを交代した。宏樹はカウンターから出て来て女性と隅で話している。はっきりとは聞き取れないが「今までどこにいたの?」とか「どうして?」という言葉が断片的に聞こえてくる。最後に自分の連絡先を宏樹に手渡してその人は帰って行った。
難しい顔をして宏樹が戻って来た。どういう話だったか聞きたかったがそろそろ上がる時間だった。帰り道にゆっくり聞いた方がいいだろう。
「でさ、さっきの女の人、何だったの?」
早速帰り道に俺は宏樹に尋ねた。俺は宏樹がワンナイトしちゃった内の一人だろうと予想したが、返って来たのは予想外の答えだった。
「それが誰だかさっぱりだ」
「そうなの? ワンナイトの相手じゃなかったのか」
「違う。彼女は何年もずっと俺を探していたと言っていた。だが我がこの世界にやってきてまだ1年も経っていないのだぞ」
「う―む‥。じゃああれか、ゲームの中のキングに入れ込み過ぎてそっくりなお前を見て現実と虚構の区別がつかなくなったとか?」
「なら我の名前を知っていたのはなぜだ?」
「それもそうだよな。お前、連絡先貰ってなかったか? 何て名前なんだ?」
宏樹はポケットから名刺を取り出した。『〇〇化粧品・企画室長 大迫由利香』と書いてある。化粧品会社に勤めてるのか。そうだな、結構綺麗な人だったな。すごい美人とかじゃないけど整った顔立ちというのかな。
「ふうん、企画室長か。ちゃんとしてそうだよな。ゲームにのめり込みそうなタイプにも見えないし」
俺は色々考えながら歩いた。あんまり物事を深く考えるのは苦手なんだが、最近は宏樹のせいで考え事が多くなって参るよ。
隣をチラッと見ると宏樹もずっと考えているようで、その後はずっと黙ったままで俺たちは家に着いた。
「ただいまあ~」
「ただいま」
「おかえりなさいですにゃぁ」玄関に入るとディアンがすっ飛んで来た。
「いやあもう今日はホンっとに疲れたわ」
「全くだ。客も多かったが煩わしい事案が多すぎた」
俺も宏樹もリビングに入るなりソファにどっさりと倒れ込んだ。
「そんなご主人様達にディアンがご馳走を作ってあげましたにゃん!」
「お、マジか」
「ディアンは優しい子だ」
「やったあ! ご主人様に褒められましたのぉ。さ、早く食べて下さいにゃ」
確かにキッチンからいい匂いが‥なんだか随分酸っぱい匂いが漂ってくる‥。
俺と宏樹がテーブルに着くとディアンが意気揚々とスープの入ったボウルを運んできた。中を覗くと黒っぽい液体にミートボールがぷかぷかと浮かんでいる。
「早く飲んで下さいにゃ!」
「お、おう」
黒い色の正体はどうやらソースらしい。ソース味のスープにミートボールが入っているのだ。
「ディアンちゃん、これは‥?」
「ご主人様の好物のミートボールをたっぷり入れたスープですにゃ」
「うん、これは美味いぞ」水で薄めたソースのスープを宏樹はうまそうに飲んでいる。
宏樹に褒められてニコニコしながらディアンは冷蔵庫からもう一つの料理を取り出した。
大皿に並べられたそれは‥寿司?
ぐちゃぐちゃなご飯の塊の上にチーズやレタス、ポテトチップスや柿の種などが乗っている。ここでもミートボールが登場した。
「これって‥寿司?」
「そうですにゃ! お寿司はご馳走なんでしょ? だからディアンが頑張って作ったのです! 直巳も遠慮せずに食え!」
なんで俺の時は命令口調なんだよ、まったく。しかしこれ食えるのか? まずは無難なところから・・俺は最初にレタスが1枚ペロンと乗っかってる寿司を手でつまんだ。酢飯はねちょねちょで寿司の形になってない。レタスの下にはワサビの代わりにケチャップが付いていた。それを口に運ぶとその酸っぱさに顔が歪んだ。
「おっ‥」梅干しの上にレタス乗っけて食ってるみたいだ。
「直巳、これも食ってみろ」
ディアンが指さしたのは‥これ生の鶏肉じゃね?「ディアンちゃん、これ鶏肉? 生じゃない?」
「寿司は生ものだろうが。直巳はそんな事も知らないのかにゃ?」ディアンはバカにしたように俺を見下ろす。
「いや、だって‥」
「ディアンちゃんが頑張って作ったのにぃ。なんで食べないのぉ。直巳のバカバカバカ」
「こいつはそういう奴だ。ほっとけ、我はちゃんと食べるぞ」
この酸っぱい寿司モドキを宏樹は平気でパクパクと食べている。ヴァンパイアって味覚障害なのか??
俺もなんとか頑張って食べたがサラミが乗った寿司はこの世の物とは思えないまずさだった。サラミの下にはイチゴジャムが塗ってあったんだぜ。
「ふぅ~満腹した。ディアンちゃんありがとうね」一応、礼を言ってみる。
「ディアンは優しい子だ。今度は我と一緒に作ってみような」
「はあい、今度はご主人様に料理を教えてあげますのにゃん! じゃ後片付けは頼んだぞ、直巳」
そう言うとディアンは宏樹とリビングに行ってテレビを見始めた。
「まじか‥俺疲れてんのに」
翌朝昼近くに起きて行くとキッチンにはディアンと宏樹が仲良く並んで料理をしていた。
「おはよう。ちょうど昼飯が出来るところだ」
「今日はディアンちゃんがご主人様にオムライスの作り方を教わったにゃ!」
「オムライスか。いいな」宏樹が教えたなら問題ないだろう。おかしな匂いもしてないし‥。
美味いオムライスを平らげてひと息ついている所で俺は昨日の事を思い出した。
「宏樹さ、その人に連絡してもう一度会ってみたらどうだ? 詳しく話を聞いてみようぜ」
「ああ、我も気になっていたところだ」
「俺も一緒に付いて行くよ。宏樹は記憶喪失で何も覚えていない。で、縁があってしばらく前から内に居ることにしてさ」
「どこへ行くのですにゃ?」
「うん、ちょっとな」
「ちょっとならディアンちゃんも一緒に行きますにゃ」
「それはまずいよ。ディアンちゃんを連れて行く理由がないし」
「嫌ですにゃっ! 直巳がご主人様に付いて行くならディアンちゃんも‥」
「ディアン、今回は直巳の言う通りにしてくれ。お前とは今度また別の楽しい場所へ行こう」
「うっ、ぅぅぅ。ご主人様の言いつけなら仕方ありませんにゃ‥」
怒るわけではないが、確固たる宏樹の口調にディアンは大人しく聞き分けた。
後日宏樹は大迫由利香と会う約束を取り付けた。
俺達が会う事にした場所は二駅離れた所にある大きなカフェだ。店内が広いからテーブルの間隔も広く開いていて話が聞かれにくい。宏樹がゲームから出てきたキャラだと話すつもりはないが万が一の為だ。
俺たちがカフェに到着すると既に大迫由利香は奥の席に座っていた。
「こんにちは。すみません、お待たせしたみたいで」
「いえ私も今来たところです」
あらかじめ俺が一緒だと伝えてあったが大迫さんは少し困惑しているように見えた。
コーヒーを3つ頼んだ後、彼女はすぐ本題を切り出してきた。
「それで‥ひろ、落合さんは今は五十嵐さんと一緒に暮らしてらっしゃるんですね?」
落合‥宏樹に似てるそいつは落合宏樹っていうのか。
「はい。宏樹は事故にあって記憶を無くしてしまって。家族が見つからなかったので、その‥ちょっとした縁からうちで一緒に暮らすことになりまして」
「宏樹さんが事故にあったのはどこなんですか? 私達あんなに宏樹さんの行方を探したのに‥」
「ええっと確か‥」う―ん、そんな細かいところまでは考えてなかったな。
「俺が病院で聞いたのは、この間働いていたコンビニの前にある駅の裏でだったと」
俺が迷っていると宏樹が先に話を作ってくれた。
「あんな遠い場所で‥」
「宏樹の事、教えてくれませんか? その、あなたが探していた落合宏樹って人がこの宏樹かどうか確実じゃないですけど」
「間違いありません! いえ、その、こうやってお会いすると5年前にいなくなった時と全然変わっていなくて不思議な位ですけど。でも彼に瓜二つなんです。名前だって同じ宏樹ですし」
大迫さんはテーブルに乗り出すようにして意気込んだが、なんの表情も浮かんでいない宏樹の顔を見て戸惑いも覚えたようだ。一度椅子に座り直し、落ち着きを取り戻すように大きく深呼吸してから話し出した。
「宏樹さんは私の婚約者なんです。それが5年前に突然行方不明になって。警察に失踪届も出していたんですけど‥病院では身元が分からない患者が運ばれてきた場合、警察に問い合わせたりしないんでしょうか?」
「ふ、普通はすると思います。宏樹の場合は何か手違いがあったのかもしれません」そう俺は取り繕い、
「病院に運ばれた時は所持品が何もなかったと聞いてました」宏樹も俺の話をフォローする。
「そうですか。宏樹さん、もう体は大丈夫なんですか?」
「ええ、すっかり回復してます」
「宏樹はどんな仕事をしてたんですか?」
「宏樹さんはジョンソンソフトウエアという会社で働いてました」
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