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18・ゲームの維持
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俺が学校から戻って来てゲームの続きをやっていると宏樹が午後のバイトから帰宅した。
「丁度いい時に帰ってきたな。100階に着いたぞ」
「よし、下から飲み物を取ってくる」
宏樹はこっちの世界ですっかりコーラにはまっていた。五十嵐家の冷蔵庫はコーラとミートボールで埋め尽くされている。
宏樹が戻ると俺は100階に入って行った。コウモリの大群をかいくぐり、ネコ科の眷属たちを退ける。
ヴァンパイアキングが現れ、いつものセリフを吐く。「血を捧げろ! その体はここで朽ちて我の贄となるのだ!」
「うむ。我ながら惚れ惚れするような雄姿だ」宏樹はモニターを満足そうに眺めている。
今回は堅実なパーティー編成で勝ちに行った為、6分ぎりぎりで勝利した。
「どうだった? 何か気づいたことはあったか?」ゴーグルを外しながら俺は聞いてみた。
「改めて我は至高の存在だと実感したぞ」
「どこが? 何が?!」お前負けたんだぞ、何でそうなる?
「見た目も戦闘能力も何もかもが、だ」
俺は呆れて話題を変えることにした。
「それにしても、キングのお前はゲームから出て来ちゃったのにゲームの中にまだお前が居るのって変じゃね?」
「おかしいな、確かに・・我が居なくてもプログラムが勝手にゲームを維持できるように動いているのかもしれぬ」
「分かんない事だらけだな」
宏樹は少し考えていたが、2回起こったフラッシュバックについて俺に話し出した。
「へぇ~そんな事があったのか」
「初めの記憶は置いておいて、次の記憶にゲーム開発者と同じ名前が出てきたのは少し気にかかる」
「そうだな。偶然にしても出来過ぎてるな」
そもそもキング自体はゲームの中のキャラに過ぎないんじゃないのか。それがフラッシュバックを見るなんて・・。
「なあ、宏樹はゲームの中のキャラだって事、このゲームを見て分かっただろ?」
「そうらしいな」
「それなのにこっちの世界の記憶があるのって変だよな?」
「なぜだ?」
「俺に聞かれても困るんだけど・・俺が考えたのは、お前にAIが組み込まれていてネットのラインを通じてこっちの情報を学習したんじゃないかって物なんだ」
「我には学習した自覚がないが・・フラッシュバックは無意識のうちに取り入れた情報の断片という事か?」
「そう、俺の考えではね。でも確証はないよ。これから宏樹にどんな記憶が蘇るかではっきりするだろうな」
「ま、我はここでの生活が気に入っている。このままでも悪くない」
俺が色々と思案しているにも関わらず、宏樹はお気楽な調子で自分の部屋へ戻って行った。
____
今日の宏樹は夜勤だった。
「45番」
目の前の客は一言だけぶっきらぼうに言い放った。よく見ると先日村木に暴言を吐いたあの男性客だった。
(確か村木さんに遅いと文句を言っていたのだったな・・)
宏樹は釣銭を返すときに触れた男の手にそっと冷気を流し込んだ。
「ありがとうございました~またお越しくださいませ」(また来れるものならな・・)
その客はお釣りを受け取るとそのまま小銭をポケットに突っ込んだ。店を出ようと歩き出したが右足が妙に重くてうまく動かない。男の脇をすり抜けて後ろから人がどんどん先に店から出て行く。
「な、なんだ?」
男の動きはまるでスローモーションの様だった。
やっとの事で店から出たが、歩いて10歩ほど先のバス停に行くのにもたっぷり3分はかかってしまった。釣りを受け取った右手も氷の様に冷たくなっている。指の感覚もほとんど無い。それは右足も同じだった。
バスが到着した。男はバスに乗ろうとステップに足を掛けるが、足は鉛の様に重く感覚もおぼろだ。後ろに並んでいる人達はため息をつき始めた。
年寄りなら仕方ないと諦めるだろうが、この男はまだ30にもなっていないようだ。具合でも悪いのか?
男自身も焦っていた。体が思うように動かないし、後ろに並んでいる人達からイラついたため息が聞こえてくる。
(どうなってるんだ? これじゃあまるで100歳のジジイだ‥俺がジジイ?)
男はやっとの事でバスに乗り込んだが5分もしない内にうめき声をあげながら座席から転げ落ちた・・。
「丁度いい時に帰ってきたな。100階に着いたぞ」
「よし、下から飲み物を取ってくる」
宏樹はこっちの世界ですっかりコーラにはまっていた。五十嵐家の冷蔵庫はコーラとミートボールで埋め尽くされている。
宏樹が戻ると俺は100階に入って行った。コウモリの大群をかいくぐり、ネコ科の眷属たちを退ける。
ヴァンパイアキングが現れ、いつものセリフを吐く。「血を捧げろ! その体はここで朽ちて我の贄となるのだ!」
「うむ。我ながら惚れ惚れするような雄姿だ」宏樹はモニターを満足そうに眺めている。
今回は堅実なパーティー編成で勝ちに行った為、6分ぎりぎりで勝利した。
「どうだった? 何か気づいたことはあったか?」ゴーグルを外しながら俺は聞いてみた。
「改めて我は至高の存在だと実感したぞ」
「どこが? 何が?!」お前負けたんだぞ、何でそうなる?
「見た目も戦闘能力も何もかもが、だ」
俺は呆れて話題を変えることにした。
「それにしても、キングのお前はゲームから出て来ちゃったのにゲームの中にまだお前が居るのって変じゃね?」
「おかしいな、確かに・・我が居なくてもプログラムが勝手にゲームを維持できるように動いているのかもしれぬ」
「分かんない事だらけだな」
宏樹は少し考えていたが、2回起こったフラッシュバックについて俺に話し出した。
「へぇ~そんな事があったのか」
「初めの記憶は置いておいて、次の記憶にゲーム開発者と同じ名前が出てきたのは少し気にかかる」
「そうだな。偶然にしても出来過ぎてるな」
そもそもキング自体はゲームの中のキャラに過ぎないんじゃないのか。それがフラッシュバックを見るなんて・・。
「なあ、宏樹はゲームの中のキャラだって事、このゲームを見て分かっただろ?」
「そうらしいな」
「それなのにこっちの世界の記憶があるのって変だよな?」
「なぜだ?」
「俺に聞かれても困るんだけど・・俺が考えたのは、お前にAIが組み込まれていてネットのラインを通じてこっちの情報を学習したんじゃないかって物なんだ」
「我には学習した自覚がないが・・フラッシュバックは無意識のうちに取り入れた情報の断片という事か?」
「そう、俺の考えではね。でも確証はないよ。これから宏樹にどんな記憶が蘇るかではっきりするだろうな」
「ま、我はここでの生活が気に入っている。このままでも悪くない」
俺が色々と思案しているにも関わらず、宏樹はお気楽な調子で自分の部屋へ戻って行った。
____
今日の宏樹は夜勤だった。
「45番」
目の前の客は一言だけぶっきらぼうに言い放った。よく見ると先日村木に暴言を吐いたあの男性客だった。
(確か村木さんに遅いと文句を言っていたのだったな・・)
宏樹は釣銭を返すときに触れた男の手にそっと冷気を流し込んだ。
「ありがとうございました~またお越しくださいませ」(また来れるものならな・・)
その客はお釣りを受け取るとそのまま小銭をポケットに突っ込んだ。店を出ようと歩き出したが右足が妙に重くてうまく動かない。男の脇をすり抜けて後ろから人がどんどん先に店から出て行く。
「な、なんだ?」
男の動きはまるでスローモーションの様だった。
やっとの事で店から出たが、歩いて10歩ほど先のバス停に行くのにもたっぷり3分はかかってしまった。釣りを受け取った右手も氷の様に冷たくなっている。指の感覚もほとんど無い。それは右足も同じだった。
バスが到着した。男はバスに乗ろうとステップに足を掛けるが、足は鉛の様に重く感覚もおぼろだ。後ろに並んでいる人達はため息をつき始めた。
年寄りなら仕方ないと諦めるだろうが、この男はまだ30にもなっていないようだ。具合でも悪いのか?
男自身も焦っていた。体が思うように動かないし、後ろに並んでいる人達からイラついたため息が聞こえてくる。
(どうなってるんだ? これじゃあまるで100歳のジジイだ‥俺がジジイ?)
男はやっとの事でバスに乗り込んだが5分もしない内にうめき声をあげながら座席から転げ落ちた・・。
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