ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

文字の大きさ
上 下
1 / 59

1・ヴァンパイアキング

しおりを挟む
 それは余りにも平凡な、白木で出来た両開きの扉だった。

 この先に最終ボスがいるはずなのに拍子抜けしてしまうほど簡素な扉。まるで雑居ビルの奥にひっそりと営業を続けるラーメン屋の扉のようだ。

 この地下100階に辿り着くまで様々な強敵やトラップをかい潜って来た。しかしどの階層のボス部屋もここよりずっと重厚で凝った造りの扉だった。

 だが彼は勇者だ。こんな事で油断したりはしない。仲間二人と共に慎重に扉を押し開く・・。

 3人が足を踏み入れると後ろで扉が閉まり、カウントダウンが始まった。3分が経過しないと扉は開かず逃げられない。6分以内に最終ボスを倒さなければ90階に戻されてしまう。

 勇者と仲間二人が選択したのは単純な力任せのごり押し作戦だ。タンクが先導を切って部屋の真ん中を走り抜ける。雑魚を無視して最奥にいるボスに直行するつもりだ。

 だが数歩進むと前方が見えなくなるほどのコウモリの群れが彼らを襲った。手のひらほどの大きさだが数が凶悪だ。タンクは大きな盾と雷撃効果のあるハンマーで道を切り開く。多くは盾で弾き飛ばされ、ハンマーから放たれる雷でバタバタとコウモリは撃ち落されていく。

「もうすぐだ! これを抜けたら眷属が出てるぞ気を付けろ!」勇者が声を張り上げる。その掛け声が終わらないうちに幾つもの影が勇者たちの前を横切った。タンクのHPがみるみる削れていく。

「ヒーラー、タンクにエクストラヒールと物理バリア展開」

 ヒーラーの反応は早かった。バリアで敵の攻撃をブロックしている間にタンクのHPは8割まで回復した。
 タンクを円形に包む物理バリアは柔らかいたまご色に輝きながら回転している。タンクに襲い来る眷属は猫のような目をして両手にシミターを持ち素早い動きでこちらを翻弄してくる。

 タンクは盾で特攻をかけるがコウモリの様に弾き飛ばすことは出来ない。雷撃によって眷属の足は止まるが感電からの回復が思ったより早い。

 勇者も大剣で大きく振りかぶるがなかなか物理攻撃のクリティカルが出ない。

「くっそ、相手の回避率が高すぎる」

 まだボス部屋の中央にも来ていないのに既に2分が経過してしまった。

「ダメだ後退だ。90階に戻されるよりは一旦逃げるぞ」

 タンクが眷属をけん制しながら後退するがコウモリの大群が復活し始めていた。勇者は大剣を振り回しコウモリをなぎ倒して行く。ヒーラーの目に外へ出る扉が見えてきたその時。

 タンクの物理バリアが切れHPが一気に半分以下まで削られた。ボスに見つかってしまったのだ。

 ボスの攻撃が放たれる。勇者の背丈ほどもある鋭い氷の刃がタンクに降り注いだ。ヒーラーがバリアを掛けたが今度は間に合わなかった。タンクが倒れると眷属たちの猛攻が勇者とヒーラーに襲い掛かる。

 後方からは眷属の猛攻と無数の氷塊が降り注ぎ、扉の前には復活したコウモリが黒い壁を作っていた・・。



  _______GAME OVER__________



「未熟者め!」

 最終ボスの声が響き、仲間二人は死亡状態でスロットに戻され勇者は90階にワープしてしまっていた。


「だぁぁぁあああ~くっそぉ」

 VRのゴーグルを勢いよく外してその男は悔しがった。「まぁっった90階からやり直しかよぉ」

 男は傍のテーブルにあるレッドブルをがぶがぶと飲み干しながら呟いた。「確か攻略サイトにラスボスの動画上げてるヤツいたよな。それ見てからやるか。あーあ、自力で倒したかったんだけどなぁ。さすが100階はムズカシーわ」

 今度はPCデスクに向かった男はコンシューマーゲーム『The Prisoner』の攻略サイトでラスボス攻略動画を見始めた。

 

 この勇者は4人パーティーだった。
 時間制限があるこの部屋ではやはりボスに直行するのが上策のようだ。タンクが数で襲い来るコウモリを蹴散らしどんどん前進していく。

 違ったのはここからだった。ボス部屋半分ほどの辺りで両手にシミターを持ったネコ科の眷属が現れたが、この勇者はもう一人の仲間・アークメイジと共にすべて倒しながら進み始めたのだ。ここで音声が入った。「ネコの眷属の生存数に比例してボスの防御と攻撃が上がるのでなるべく倒した方がボスが楽です」

「なんだよ、最初にそれ言ってくれよぉ」

 タンクの雷撃で眷属の足を止め、アークメイジの強力な単体火炎攻撃と勇者の斬撃で確実に1体1体仕留めて行く。

「あのアークメイジを育成するの面倒なんだよなぁ。初期成長は遅いし必要EXPが半端じゃないし。でもコイツがいないとやっぱ100階は無理かぁ」

 まだ4分以上を残してこのパーティーはボスの前まで辿り着いた。

 最終ボスはヴァンパイアキング。

 肩まである漆黒の髪に真っ白な肌。口角がキュッと上がった赤い唇からは尖った牙が覗いている。体のラインが分かるぴったりとした赤い衣装に身を包んだヴァンパイアキングはただのイケメンモデルの様にも見えるが、その金色に縁どられた紫の瞳からは敵意がほとばしっていた。

「血を捧げろ! その体はここで朽ちて我の贄となるのだ!」

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...