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第2部 第1章 ケース オブ ショップ店員・橋姫『恋するあやかし』

六 天童を知る女

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 六 天童を知る女


「腹減ったよな」
「そうですね、僕もです」
「じゃあカフェにでも入っていきますか?」

 博物館を出て公園内を歩きながら、そんな話していたところ、突然、背後から天童の名が呼ばれた。

「あれ? もしかして天童くん?」

 天童が呼ばれたにもかかわらず、芽依と鞍馬も同時に後ろを振り返った。
 そこには、ゆるく巻かれたロングの髪が大人っぽい、キャラメル色の髪色をした女性が立っていた。

「あ、やっぱり天童くんだ! こんなところで会えるなんてめずらしい!」
「おお、姫! こんなところで何してるんだ?」
(ひめ?)

 ひめと呼ばれたその女性は、白のブラウスに小花柄のシフォンスカート姿は若々しく見えたものの、どこか社会人のマナーを兼ね備えた大人の雰囲気もしっかり持ち合わせている雰囲気があった。

「ちょっと近くのお店に用があって。たまたま通ったところだよ」
「そうか。例の彼氏ともうまくいってるのか?」
「うん! おかげさまで!」

 満面の笑みで答えるその表情には多幸感があふれている。

「そういうわけで、例の日だけどよろしくね」
「ああ、わかってる。まかせとけ」
「ありがとう。呼び止めてごめんね。失礼します」

 わずかな会話をしたのち、女性は芽依達にもお辞儀をしながら駅の方へ歩いていった。

「お知り合いですか?」

 鞍馬が天童に尋ねる。

「ああ。気づかなかったか? あいつもあやかしなんだよ」
「ええっ!」
(まじで? あんなに可愛い女性があやかし!?)
「じゃあ、彼女も禊を課せられてるんですか?」

 芽依は天童に聞いてみた。

「ああ見えてもな。でも、それも今回で開ける」
「えっ、開ける?」

 禊が開ける。そういうあやかしもいるのかと、芽依は改めて思った。

「今付き合ってる彼氏と結婚するらしいぜ」
「ええっ! それはおめでたい」
「ああ、でもまだプロポーズはまだらしいけどな。大事な話があるって言われてるらしい」
「それは確実にプロポーズですね」
「だから、俺の店を貸すことにしてるんだ」
「そうなんですか……」

 プロポーズ——。
 その言葉を聞き、芽依の世界から消えていた言葉を思い出したような気分になる。

(結婚……か)

 ギリギリの生活を彷徨っていた芽依にとって、結婚など二の次三の次。むしろそんなことは自分にやってくるのかどうかも怪しいほどだ。

(あんなに嬉しそうで。よっぽど幸せなんだろうな)

 そういえば、林田も彼氏がいると言っていたっけ。芽依はそんなことをふと思い出した。

「はら、阿倍野芽依。行くぞ」
「あ、はい!」

 彼女の後ろ姿に見惚れていた芽依は、いそいで天童たちに合流した。

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