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第6章
二 ロイヤルミルクティ男子の正体
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二
鞍馬はその顔に影を落としていた。
「あやかしという肩書はあるが、今生を生きるあやかしは人間と同じ体、そして心を与えられている。そのため、人間界で生きることがうまくいなかいものも少なからず存在している」
「俺はこの苦行でさえも楽しんでいる。なにせよ、俺の禊はあと何百年と続くからな。この世は苦行だらけだ。それに、近頃の人間は鬼とさほど変わらん」
(確かに。それは言えてる……)
芽依は、あやかし三人を前にしてそう思っていた。
(自分で考えた設定だったけど、ちょっと同情しちゃうな)
芽依はそっと鞍馬へ視線を向けた。
「そこでだ。これがまったくの偶然ということがわかった今、俺たちはお前をこのまま帰すわけにはいかない」
「えっ? 帰すわけにいかないって……」
「こうして、禊を行うあやかしがいることをお前は知ってしまった。タブーを犯した罪は重い」
「半分は、お前の早とちりのせいもある」
「つまり、……物語はNGと?」
「それだけじゃない。これからお前は俺の支配下に置かれる」
「支配下?」
「だが、今生で俺は手下を持つことは禁じられている。そのため、お前は自らの意思でこここへ通え。わかったか」
(なんだ、それは!)
つまり、他言しないかどうか見張るという意味なのか。
(こんなこと、誰かに話したところでまともに取り合ってくれるわけがないのに)
「それから、物語はNGだ。書き換えてくれ」
「えっ」
「ここ東京には人間として生きるあやかしは他にも多数生きている。もし、彼らのうちの誰かが騒ぎ立てでもしたら、俺は地獄へ呼び出しをくらう」
「……やっぱり、だめですか?」
芽依は望みが奪われ、落胆した。
「なにも、あやかしにこだわることはないだろう」
「そうなんですけど。実は、スポンサーからもNGが出ていまして。新しい設定で作らないとならないんです。私」
「ならちょうどよかったじゃないか」
「でも、どうしても私、ここを舞台にした物語を書きたくて。初めてここにきたとき、私、とても救われたんです。素敵なお店だし、店主さんもいい人だと思ったし。でも許可も取らずに勝手に物語にしようとしたことは本当に申し訳なかったと思っています」
「ちなみに、なぜスポンサーからNGが出た」
「どうやら、アイデアを盗まれたっていう部分がイメージダウンに繋がるかららしいんです。スポンサーさんのご友人に調香師がいるみたいで、これから大きなコレクションが控えているとかで」
すると、それまで静かにしていた鞍馬が勢いよく立ち上がった。
「ねえ。そいつってもしかして志摩ユウキのこと!?」
「えっ?」
「ねえ、どうなの?」
「いや……、それが誰なのかわからないんです。でも、確かに、志摩ユウキはコレクションが控えてますよね」
「おい、そのスポンサーは誰だ」
天童が問いかけた。
「あの、大変申し訳ないのですが、秘密保持契約を結んでるので、企画の詳細は明かせないんです」
「お前、いい度胸してるな。呪うぞ」
「な、何をおっしゃうんですか! 私、こうみえても首の皮一枚しか繋がってない身なんですから」
「どういう意味だ?」
「私、今、求職中なんです。この東京ファンタジアを書くことになったのは、大学時代の友人が私のことを覚えて声をかけてくれたまでのことで。本業ではないんです」
「そうだったのか」
「この企画が成功しないことには、私は生活どころか、京都に帰らないとならないから……」
「帰ればいいじゃないか」
「私は実家に戻るなんて絶対に、死んでも嫌なんです!」
すると、そこにいた三人は驚いて芽依を見つめていた。
「……ごめんなさい。熱くなりすぎました」
「どんな事情があるにせよ、企画立案者がこんなに近くにいるのに、何も情報が得られないとはもどかしいな」
鴑羅がそう漏らす。
だが、クライアントと結んだ契約書は破るわけにはいかない。芽依は申し訳なさそうに顔を伏せていた。
「実は、俺たちは天のアイデアを盗んだ人間を探している。そしてそいつから盗まれたレシピを取り戻そうと考えている」
「取り戻す……、ですか?」
「そうだ。そのためには、志摩ユウキに天のレシピを盗んだことを認めさせなければならない」
「ま、待ってください。あの、鞍馬さんのレシピを盗んだのって志摩ユウキなんですか!」
鞍馬はその顔に影を落としていた。
「あやかしという肩書はあるが、今生を生きるあやかしは人間と同じ体、そして心を与えられている。そのため、人間界で生きることがうまくいなかいものも少なからず存在している」
「俺はこの苦行でさえも楽しんでいる。なにせよ、俺の禊はあと何百年と続くからな。この世は苦行だらけだ。それに、近頃の人間は鬼とさほど変わらん」
(確かに。それは言えてる……)
芽依は、あやかし三人を前にしてそう思っていた。
(自分で考えた設定だったけど、ちょっと同情しちゃうな)
芽依はそっと鞍馬へ視線を向けた。
「そこでだ。これがまったくの偶然ということがわかった今、俺たちはお前をこのまま帰すわけにはいかない」
「えっ? 帰すわけにいかないって……」
「こうして、禊を行うあやかしがいることをお前は知ってしまった。タブーを犯した罪は重い」
「半分は、お前の早とちりのせいもある」
「つまり、……物語はNGと?」
「それだけじゃない。これからお前は俺の支配下に置かれる」
「支配下?」
「だが、今生で俺は手下を持つことは禁じられている。そのため、お前は自らの意思でこここへ通え。わかったか」
(なんだ、それは!)
つまり、他言しないかどうか見張るという意味なのか。
(こんなこと、誰かに話したところでまともに取り合ってくれるわけがないのに)
「それから、物語はNGだ。書き換えてくれ」
「えっ」
「ここ東京には人間として生きるあやかしは他にも多数生きている。もし、彼らのうちの誰かが騒ぎ立てでもしたら、俺は地獄へ呼び出しをくらう」
「……やっぱり、だめですか?」
芽依は望みが奪われ、落胆した。
「なにも、あやかしにこだわることはないだろう」
「そうなんですけど。実は、スポンサーからもNGが出ていまして。新しい設定で作らないとならないんです。私」
「ならちょうどよかったじゃないか」
「でも、どうしても私、ここを舞台にした物語を書きたくて。初めてここにきたとき、私、とても救われたんです。素敵なお店だし、店主さんもいい人だと思ったし。でも許可も取らずに勝手に物語にしようとしたことは本当に申し訳なかったと思っています」
「ちなみに、なぜスポンサーからNGが出た」
「どうやら、アイデアを盗まれたっていう部分がイメージダウンに繋がるかららしいんです。スポンサーさんのご友人に調香師がいるみたいで、これから大きなコレクションが控えているとかで」
すると、それまで静かにしていた鞍馬が勢いよく立ち上がった。
「ねえ。そいつってもしかして志摩ユウキのこと!?」
「えっ?」
「ねえ、どうなの?」
「いや……、それが誰なのかわからないんです。でも、確かに、志摩ユウキはコレクションが控えてますよね」
「おい、そのスポンサーは誰だ」
天童が問いかけた。
「あの、大変申し訳ないのですが、秘密保持契約を結んでるので、企画の詳細は明かせないんです」
「お前、いい度胸してるな。呪うぞ」
「な、何をおっしゃうんですか! 私、こうみえても首の皮一枚しか繋がってない身なんですから」
「どういう意味だ?」
「私、今、求職中なんです。この東京ファンタジアを書くことになったのは、大学時代の友人が私のことを覚えて声をかけてくれたまでのことで。本業ではないんです」
「そうだったのか」
「この企画が成功しないことには、私は生活どころか、京都に帰らないとならないから……」
「帰ればいいじゃないか」
「私は実家に戻るなんて絶対に、死んでも嫌なんです!」
すると、そこにいた三人は驚いて芽依を見つめていた。
「……ごめんなさい。熱くなりすぎました」
「どんな事情があるにせよ、企画立案者がこんなに近くにいるのに、何も情報が得られないとはもどかしいな」
鴑羅がそう漏らす。
だが、クライアントと結んだ契約書は破るわけにはいかない。芽依は申し訳なさそうに顔を伏せていた。
「実は、俺たちは天のアイデアを盗んだ人間を探している。そしてそいつから盗まれたレシピを取り戻そうと考えている」
「取り戻す……、ですか?」
「そうだ。そのためには、志摩ユウキに天のレシピを盗んだことを認めさせなければならない」
「ま、待ってください。あの、鞍馬さんのレシピを盗んだのって志摩ユウキなんですか!」
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