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第1部 第1章 ケース オブ 調香師・鞍馬天狗『盗まれた香り』
五 その店の名は、夜カフェ〈金木犀〉
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二
中に入ると、すぐに背徳的なコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
天井吹き抜けとなっており、設置されているダウンライトのほか、中央に吊り下げられているアイアン製のシャンデリアやペンダントライトが優しいを放っている。
アイアンウッドのテーブル席のほかに、店内中央には相席して使う木目調の横長テーブルも置かれていた。
それぞれの席は、隣との距離が充分に保たれるほどゆったり広々としている。よく見ると、テーブルにはキャンドルの入ったロックグラスが置かれており、人のいる席だけに火が灯り、小さな炎の揺らめきが視界を楽しませてくれた。
そして二階はコの字のように一階を囲み、ローテーブルのソファ席が並んでいた。二階へ行くには、正面にあるカウンター横の階段を使って上れるようになっていて、全体的に座席数は多めである。
壁は白く、床は濃いブラウン、所々に配置されている雑貨は黒を基調としたものが多く、ナチュラルというよりかはクラシカルな印象だ。
微かに流れているBGMも、耳をすませばわかる程度の曲調で、夜カフェをうたうにふさわしい、居心地重視の隠れ家的空間であった。
(すごく素敵なお店だ……)
店全体を包み込む、レトロなプリンのような淡い色の灯りはおのずと飲み物を欲してしまう。
芽依は、正面にドリンク提供のカウンターがあることに気付いた。カウンターには、シュガースティックやポーションミルクといった様々なサブアイテムが並べられている。どうやらここはセルフサービスタイプのカフェのようだ。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
「!」
意表を突くタイミングで、優美な声がかけられた。
見れば、先ほどまで無人だった注文カウンターに男性店員が立っている。
黒のカマーベストにウィングカラーの白シャツ、そして首に青色の小さな蝶ネクタイを結んでいる。ウルフカットパーマ、その髪色はカフェラテのようにまろやかで、背も高く、モデルやアイドルかと見間違うほどに端正な顔立ちをしている。
(この人が店員さん……なの?)
突然のハイスペックな店員の登場に芽依は心が惑う。歳は芽依と同じか、もしかしたらもっと若いのかもしれない。
「宜しければ、ご注文をお伺いいたします」
「あ。は、はい!」
芽依は赤面しつつ、慌ててカウンターへ向かった。
「店内でのお過ごしでよろしかったですか?」
「はい。あ、あの、すみません。こちらは何時までの営業ですか?」
「うちは朝六時まで開けていますよ」
「ろ、六時?」
「開店が終電頃からの夜カフェですので。始発までおくつろぎいただけます」
「始発まで、ですか……」
まるで終電を逃して街を彷徨っていたことを知っているかのような返答だった。今夜をどうするかはまだ決めていなかったが、とにかくこのもてなしはありがたい。芽依は平静を装いながら、飲み物を注文するためカウンターに置かれている三つ折りのメニュー表に視線を移した。
これだけお洒落な店構えともなれば、それなりに価格が高くても仕方がないと諦めていたが、レギュラーコーヒーが一杯四五〇円と近隣の店から考えると割とリーズナブルであることに驚く。
(あ、ノンカフェインもあるんだ)
夜のカフェインは避けた方がいわれているし、、徹夜に追い込みたい日ならならまだしも、これもありがたい心遣いだった。
(何だか、このお店とは気が合いそう)
そして芽依は、ノンカフェインのカフェラテをホットで注文した。
スマホ画面を見せてスマートに会計を済ませると、カフェラテ風の美男子店員は、耐熱ガラスのカップを一つ取り、飲み物の準備を始めた。
手慣れた様子でカウンターの後ろに置かれている業務用冷蔵庫から専用のミルクを取り出すと、定量を測ってカップに注ぎ入れる。その隣に設置されている黒く重厚なコーヒーメーカーマシンにそのカップを置き、ボタンを押してエスプレッソを落とす。ミルクと混ざり合うエスプレッソは、湯気を上げながらカップの中で美しいコントラストで踊っていた。
その間に、美男子店員はカウンター横に並べてあったキャンドルグラスを一つ取ると、そこに火をつけて、飲み物とともに木製のトレイに置いた。
「砂糖はご利用になりますか?」
「は、はい。お願いします」
「かしこまりました」
美男子店員は一度カウンターから、シュガースティックと金製のティスプーンをカップの脇に並べる。そして出来上がったばかりのカフェラテをトレイに乗せて、芽依の前に差し出した。
「お待たせいたしました。ごゆっくりお過ごしください」
中に入ると、すぐに背徳的なコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
天井吹き抜けとなっており、設置されているダウンライトのほか、中央に吊り下げられているアイアン製のシャンデリアやペンダントライトが優しいを放っている。
アイアンウッドのテーブル席のほかに、店内中央には相席して使う木目調の横長テーブルも置かれていた。
それぞれの席は、隣との距離が充分に保たれるほどゆったり広々としている。よく見ると、テーブルにはキャンドルの入ったロックグラスが置かれており、人のいる席だけに火が灯り、小さな炎の揺らめきが視界を楽しませてくれた。
そして二階はコの字のように一階を囲み、ローテーブルのソファ席が並んでいた。二階へ行くには、正面にあるカウンター横の階段を使って上れるようになっていて、全体的に座席数は多めである。
壁は白く、床は濃いブラウン、所々に配置されている雑貨は黒を基調としたものが多く、ナチュラルというよりかはクラシカルな印象だ。
微かに流れているBGMも、耳をすませばわかる程度の曲調で、夜カフェをうたうにふさわしい、居心地重視の隠れ家的空間であった。
(すごく素敵なお店だ……)
店全体を包み込む、レトロなプリンのような淡い色の灯りはおのずと飲み物を欲してしまう。
芽依は、正面にドリンク提供のカウンターがあることに気付いた。カウンターには、シュガースティックやポーションミルクといった様々なサブアイテムが並べられている。どうやらここはセルフサービスタイプのカフェのようだ。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
「!」
意表を突くタイミングで、優美な声がかけられた。
見れば、先ほどまで無人だった注文カウンターに男性店員が立っている。
黒のカマーベストにウィングカラーの白シャツ、そして首に青色の小さな蝶ネクタイを結んでいる。ウルフカットパーマ、その髪色はカフェラテのようにまろやかで、背も高く、モデルやアイドルかと見間違うほどに端正な顔立ちをしている。
(この人が店員さん……なの?)
突然のハイスペックな店員の登場に芽依は心が惑う。歳は芽依と同じか、もしかしたらもっと若いのかもしれない。
「宜しければ、ご注文をお伺いいたします」
「あ。は、はい!」
芽依は赤面しつつ、慌ててカウンターへ向かった。
「店内でのお過ごしでよろしかったですか?」
「はい。あ、あの、すみません。こちらは何時までの営業ですか?」
「うちは朝六時まで開けていますよ」
「ろ、六時?」
「開店が終電頃からの夜カフェですので。始発までおくつろぎいただけます」
「始発まで、ですか……」
まるで終電を逃して街を彷徨っていたことを知っているかのような返答だった。今夜をどうするかはまだ決めていなかったが、とにかくこのもてなしはありがたい。芽依は平静を装いながら、飲み物を注文するためカウンターに置かれている三つ折りのメニュー表に視線を移した。
これだけお洒落な店構えともなれば、それなりに価格が高くても仕方がないと諦めていたが、レギュラーコーヒーが一杯四五〇円と近隣の店から考えると割とリーズナブルであることに驚く。
(あ、ノンカフェインもあるんだ)
夜のカフェインは避けた方がいわれているし、、徹夜に追い込みたい日ならならまだしも、これもありがたい心遣いだった。
(何だか、このお店とは気が合いそう)
そして芽依は、ノンカフェインのカフェラテをホットで注文した。
スマホ画面を見せてスマートに会計を済ませると、カフェラテ風の美男子店員は、耐熱ガラスのカップを一つ取り、飲み物の準備を始めた。
手慣れた様子でカウンターの後ろに置かれている業務用冷蔵庫から専用のミルクを取り出すと、定量を測ってカップに注ぎ入れる。その隣に設置されている黒く重厚なコーヒーメーカーマシンにそのカップを置き、ボタンを押してエスプレッソを落とす。ミルクと混ざり合うエスプレッソは、湯気を上げながらカップの中で美しいコントラストで踊っていた。
その間に、美男子店員はカウンター横に並べてあったキャンドルグラスを一つ取ると、そこに火をつけて、飲み物とともに木製のトレイに置いた。
「砂糖はご利用になりますか?」
「は、はい。お願いします」
「かしこまりました」
美男子店員は一度カウンターから、シュガースティックと金製のティスプーンをカップの脇に並べる。そして出来上がったばかりのカフェラテをトレイに乗せて、芽依の前に差し出した。
「お待たせいたしました。ごゆっくりお過ごしください」
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