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第4章

一 失言

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 一 


 芽依の再就職活動は難航していた。
 あと三十分で日付が変わる夜、その日も芽依は夜カフェ金木犀へ向かっていた。
(また来ちゃった……)
 その日は一日中雨の降り続いた夜で、ようやく止み始めたというところだった。
 芽依はおろしたての白い持ち手に星柄が散りばめられた透明傘を畳むと、店先に備えられている傘立てに入れ、店内へ入店した。
 店内を流れているBGMを聴きながら、芽依はそのまま2階席へと向かった。
 一日雨だったということもあり、店内は雨宿りのためと思われるグループが見受けられたが、それほど混雑はしていなかった。
 席を決めると、芽依はバッグを置き、着ていた上着を脱いだ。
 今日は上着がいらなかったかもしれない。そう思うほど蒸した日だった。
 梅雨のじっとりした空気に負け、髪もうねり、気分も落ちていた。
 そして芽依はバッグに忍ばせてあった東京ファンタジアの冊子をテーブルに置いた。
 駅中を探して歩き回った結果、ようやくみつけた一冊だった。
 芽依はラテを注文したら中を読もうと思ったそのとき、芽依のスマホが震えた。。
(こんな時間に電話?)
 画面をみると、そこには林田の名前が表示されていた。
(林田さん?)
 芽依は急いで通話ボタンをスライドさせ、口元を手で覆い、小さな声で電話に出た。

「もしもし、阿倍野です」
『芽依さん、お疲れ様です! すみません、こんな時間に。今、少しよろしいですか?』
「ええ、大丈夫です。どうかしましたか?」
『実はちょっと緊急事態が起きまして』
「緊急事態……?」

 嫌な予感しかない響きだ。芽依はそのまま林田の声に神経を集中させる。

『実は、スポンサーからクレームが入りまして』
「えっ、クレーム?」

 喉の奥がひんやりとし、血の気が引いた。

『東京ファンタジア、見てもらえましたか? 実はあの内容に対して注文が入ったんですよ』t
「で、でも、確認とれたはずだったんじゃ」
『もちろん。取れてました。それなのになんです。急にNGを言い渡されまして……』

 それを聞き、芽依は通話が長くなるかもしれないと思い、外へ出ようか悩んだ。

「ちなみにどんなクレームですか?」
『はい。物語を書き換えてくれと……』
「書き換える……ですか!」
『なので芽依さん、今執筆されているものはいったんストップしておいてください。明日、もう一度ご連絡しますので」
「え? あ、あの、それはもう決定なんですか?」
『いえ、そこはもう少し検討します。ですが、続きの執筆に関してはいったん止めておいてください。すみません。用件のみですがまたご連絡いたしますので、よろしくお願いいたします』
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