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41.東京の夏は恐ろしい
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流石に暑い。
絵梨香と抱き合ってどれくらい経っただろうか。
駅の中にいたとしても、暑い物は暑い。それに、抱き合っているからもっと暑くなってしまう。
「絵梨香、暑いから早く行こ。周囲の目もあるし」
「そ、そうだね。ごめん」
「謝る事無いよ、ほら」
私は絵梨香の手を強引に掴み、埼京線のホームに向かった。
駅の中でも気温は25、6度あるだろうか、ムシムシしてとても暑い。
この暑さの中、バイトしている人も居れば会社で働いている人も居る。
私だったら忍耐力が無いからすぐにへばってしまいそうだ。
「はーちゃん、暑いよぅ」
「駄々こねないの、電車乗って家に着けばエアコンがあるから」
「アイス食べたい」
「我慢せい」
「やーだ、アイス食べたい」
「静かにせい」
絵梨香の額にデコピンをした。
埼京線のホームに着いたと同時に電車が来たので乗り込んだ。
電車の中はクーラーが効いているのか、とても涼しい。
周囲の人を見るとクーラーが効いていても暑いのか、扇子で顔を扇いでいる人や服の襟をつかみパタパタと扇ぐ人が居た。
「ふぅ~涼しい」
「涼しいから抱き着いて良い?」
「ダメに決まってるでしょ、てか絵梨香、今日は甘えん坊さんなんだね」
今日の絵梨香はいつもと違う感じがする。
周囲の事も気にせず、私に甘えたがる。まるで赤ん坊のようだ。
池袋から大崎まではおよそ20分、最初は席が空いてなかったが新宿でかなりの人が降りたので、席に座ることが出来た。
「なんか、何もしてないのに疲れたな」
「私は全然つかれてないよ、このあとはーちゃんといろんな事が出来ると思うとつい……」
この女はいったい私に何をするつもりなんだろうか、風呂での事件のようなことでも心の準備さえさせてくれれば多分出来る。多分。
横を向くと絵梨香の横顔が見れた。相変わらず顔は整っていて、何を着ても似合いそうな顔立ち。
流石に少しは化粧をしていると思うが、目元を見てもアイシャドウやアイライナーを使っているようには見えない。しかし、目元はスッキリと整っている、不思議だ。
秘絵梨香流メイク術を是非とも教えてもらいたいものだ。
「はーちゃん?おーい」
「あ、ごめん。見惚れてた。」
「誰に?」
「そりゃもちろん、絵梨香に決まってるじゃん」
「ほんと!嬉しい」
なんだか恥ずかしくなってしまった、だけど恥ずかしくなってしまったのは私だけじゃないようだ。
そーっと絵梨香の方を見ると、絵梨香の頬はうっすらと赤くなっておりなんだかモジモジしている。
恥ずかしながら私が目を合わせようとしても、絵梨香は目を合わせようとせずにそっぽを向いてしまう。
どうしたものかと思っていると「まもなく~大崎~大崎~」とアナウンスが聞こえたので、絵梨香の肩を叩き声を掛けた。
「もうつくよ、降りるよ。絵梨香」
絵梨香は「はい」と両手を出して立とうとしない。
「私、動けない。だから引っ張って。」
この子は本当に周囲の目を気にしないなと思った。
周りの人は私たちの事をどんな目で見ているのだろうか、やっぱり迷惑な若者という感じか、それとも不思議な子みたいな感じか。
このまま絵梨香を置いて行っても良かったが、周囲の目もある事だしなにより私が恥ずかしかった。
無言で絵梨香の両手を掴み、引っ張り上げた。
すると、絵梨香は立ち上がった反動で私の腕に抱き着いて来た。
まぁもし、私が男ならば確実に理性を抑えられなかっただろう。
なぜかって?それは、胸が当たっているのだよ。いや、胸に腕が食い込んでいるのだよ。
こんなの男の人が見たら100%羨ましがるだろう。
今電車から降りたが、周囲からの視線が半端ない。
「え、絵梨香。その腕掴むのはちょっと……」
「うるさい、たまには甘えさせて」
「で、でも」
「私だって、学校ではボーイッシュだのなんだのうるさくて嫌なの。」
「じゃあ、その髪型を辞めれば何にも言われなくなるじゃん」
「それもやだ」
「なんでさ」
「はーちゃん以外の女子からの人気が無くなる」
この人、私には「私以外の女子とあんまり関わらないで!」みたいなこと言っておきながら、自分は悠々と女子と絡んでるじゃないですか。
まぁ別に、私はまだ嫉妬とかあんまり分からないので良いですけどね。
大崎駅では埼京線とりんかい線が同じ5番ホームにあるのでそのまま東京テレポートや天王洲アイルに行く事が出来る。
少し待つと、りんかい線の電車が来たので乗り込んだ。
「はーちゃん、私疲れた。アイス食べたい。」
「さっき、はーちゃんに色んな事出来るからって言って全然元気だったじゃん」
「それはそれ、あれはあれだよ。疲れたものは疲れた」
絵梨香、なんだかどんどん退行していってない?
さっきからずっと「アイス、アイス」って言ってるし、家にアイスあったかな。
電車の中は埼京線と違い、あんまり人は乗っていなかった、と言っても席はほとんど埋まっており、空いている席はまばらだった。
新木場方面行きのりんかい線は大崎が最初の駅なので、直ぐに乗れば大体席には座れる。
大崎から東京テレポートまでは4駅。
ぼーっとしていればすぐに着く駅数だ。
そういえば、今日は何をするのか絵梨香に聞いていなかった。
「絵梨香、今日は何するの?」
「そんなの、内緒に決まってるじゃん」
「教えてくれないの?」
「じゃあ、一つだけ教えてあげる」
「優しい」
「えへへ、じゃあ2つにしてあげる。まず一つ目は、はーちゃんの家でお泊り会でしょ?」
「私、そんなの聞いてないよ?」
「当たり前じゃん、言ったらどうせはーちゃん、許可くれないだろうし」
おいおい、まじですか。まぁ今は夏休みだし、多分小太郎が家の掃除とか色々してくれてたと思うからお泊り会とかしても良いけど、とーっても急ですね。
しかし横を見ると、楽しみにしているのか駄々をこねている時とは違く、絵梨香の可愛らしい笑顔を見ることが出来た。
夏休みに入って、せっかく遊べるようになったのに私が入院したから、好きな場所で遊べなくて我慢していた部分もあると思う。
今回は少しだけ目を瞑ってあげようと思った。
「まぁ、分かった。それで2つ目は?」
「言おうと思ったけどやっぱり言えない」
「なんで?」
絵梨香は何も言わずに顔を近づけてくる。そう、私と絵梨香が付き合って初日の電車の時のように。
さっきまで笑顔だった顔には一切嬉しさなど感じられず、ミステリアスな雰囲気が漂っていた。
私は背中を曲げ、絵梨香の顔から逃げる。しかし、それを逃がさないようにぴったりと追って来て、私の背中の限界が来た。
「今言ったら、はーちゃんが泣いちゃうかもしれないから」
絵梨香は私の耳元で囁き、小悪魔のような微笑みを浮かべた。
汗で髪がワックスを少し塗ったかのようにキシキシになっている。それでも、絵梨香の容姿が崩れる事は無く、逆に髪がまとまっていてとても似合っていた。
絵梨香の今の容姿が私のストライクゾーンを射抜いた、そして絵梨香が言った「泣いちゃうかもしれない」という家で行われる特別な事はどんな事なんだろう。両方の出来事がマッチして、今の私の心臓は弾けそうだった。
「まもなく、東京テレポート~東京テレポート~」
電車のアナウンスにより、私は我に返った。
「それじゃあ、行こう。はーちゃん」
「う、うん」
私は絵梨香に聞こえないような声で返事をした。心臓がうるさくて上手く自分の声を発せない。
今、私は喋ったのかそれすらもわからない。
だけど、絵梨香はそっと私の手を取ってくれて、握ってくれた。
その手が凄く暖かいものだと、この時の私は実感した。
私と絵梨香は電車から降り、駅から出るまで一言も言葉を交わさなかった。
絵梨香と抱き合ってどれくらい経っただろうか。
駅の中にいたとしても、暑い物は暑い。それに、抱き合っているからもっと暑くなってしまう。
「絵梨香、暑いから早く行こ。周囲の目もあるし」
「そ、そうだね。ごめん」
「謝る事無いよ、ほら」
私は絵梨香の手を強引に掴み、埼京線のホームに向かった。
駅の中でも気温は25、6度あるだろうか、ムシムシしてとても暑い。
この暑さの中、バイトしている人も居れば会社で働いている人も居る。
私だったら忍耐力が無いからすぐにへばってしまいそうだ。
「はーちゃん、暑いよぅ」
「駄々こねないの、電車乗って家に着けばエアコンがあるから」
「アイス食べたい」
「我慢せい」
「やーだ、アイス食べたい」
「静かにせい」
絵梨香の額にデコピンをした。
埼京線のホームに着いたと同時に電車が来たので乗り込んだ。
電車の中はクーラーが効いているのか、とても涼しい。
周囲の人を見るとクーラーが効いていても暑いのか、扇子で顔を扇いでいる人や服の襟をつかみパタパタと扇ぐ人が居た。
「ふぅ~涼しい」
「涼しいから抱き着いて良い?」
「ダメに決まってるでしょ、てか絵梨香、今日は甘えん坊さんなんだね」
今日の絵梨香はいつもと違う感じがする。
周囲の事も気にせず、私に甘えたがる。まるで赤ん坊のようだ。
池袋から大崎まではおよそ20分、最初は席が空いてなかったが新宿でかなりの人が降りたので、席に座ることが出来た。
「なんか、何もしてないのに疲れたな」
「私は全然つかれてないよ、このあとはーちゃんといろんな事が出来ると思うとつい……」
この女はいったい私に何をするつもりなんだろうか、風呂での事件のようなことでも心の準備さえさせてくれれば多分出来る。多分。
横を向くと絵梨香の横顔が見れた。相変わらず顔は整っていて、何を着ても似合いそうな顔立ち。
流石に少しは化粧をしていると思うが、目元を見てもアイシャドウやアイライナーを使っているようには見えない。しかし、目元はスッキリと整っている、不思議だ。
秘絵梨香流メイク術を是非とも教えてもらいたいものだ。
「はーちゃん?おーい」
「あ、ごめん。見惚れてた。」
「誰に?」
「そりゃもちろん、絵梨香に決まってるじゃん」
「ほんと!嬉しい」
なんだか恥ずかしくなってしまった、だけど恥ずかしくなってしまったのは私だけじゃないようだ。
そーっと絵梨香の方を見ると、絵梨香の頬はうっすらと赤くなっておりなんだかモジモジしている。
恥ずかしながら私が目を合わせようとしても、絵梨香は目を合わせようとせずにそっぽを向いてしまう。
どうしたものかと思っていると「まもなく~大崎~大崎~」とアナウンスが聞こえたので、絵梨香の肩を叩き声を掛けた。
「もうつくよ、降りるよ。絵梨香」
絵梨香は「はい」と両手を出して立とうとしない。
「私、動けない。だから引っ張って。」
この子は本当に周囲の目を気にしないなと思った。
周りの人は私たちの事をどんな目で見ているのだろうか、やっぱり迷惑な若者という感じか、それとも不思議な子みたいな感じか。
このまま絵梨香を置いて行っても良かったが、周囲の目もある事だしなにより私が恥ずかしかった。
無言で絵梨香の両手を掴み、引っ張り上げた。
すると、絵梨香は立ち上がった反動で私の腕に抱き着いて来た。
まぁもし、私が男ならば確実に理性を抑えられなかっただろう。
なぜかって?それは、胸が当たっているのだよ。いや、胸に腕が食い込んでいるのだよ。
こんなの男の人が見たら100%羨ましがるだろう。
今電車から降りたが、周囲からの視線が半端ない。
「え、絵梨香。その腕掴むのはちょっと……」
「うるさい、たまには甘えさせて」
「で、でも」
「私だって、学校ではボーイッシュだのなんだのうるさくて嫌なの。」
「じゃあ、その髪型を辞めれば何にも言われなくなるじゃん」
「それもやだ」
「なんでさ」
「はーちゃん以外の女子からの人気が無くなる」
この人、私には「私以外の女子とあんまり関わらないで!」みたいなこと言っておきながら、自分は悠々と女子と絡んでるじゃないですか。
まぁ別に、私はまだ嫉妬とかあんまり分からないので良いですけどね。
大崎駅では埼京線とりんかい線が同じ5番ホームにあるのでそのまま東京テレポートや天王洲アイルに行く事が出来る。
少し待つと、りんかい線の電車が来たので乗り込んだ。
「はーちゃん、私疲れた。アイス食べたい。」
「さっき、はーちゃんに色んな事出来るからって言って全然元気だったじゃん」
「それはそれ、あれはあれだよ。疲れたものは疲れた」
絵梨香、なんだかどんどん退行していってない?
さっきからずっと「アイス、アイス」って言ってるし、家にアイスあったかな。
電車の中は埼京線と違い、あんまり人は乗っていなかった、と言っても席はほとんど埋まっており、空いている席はまばらだった。
新木場方面行きのりんかい線は大崎が最初の駅なので、直ぐに乗れば大体席には座れる。
大崎から東京テレポートまでは4駅。
ぼーっとしていればすぐに着く駅数だ。
そういえば、今日は何をするのか絵梨香に聞いていなかった。
「絵梨香、今日は何するの?」
「そんなの、内緒に決まってるじゃん」
「教えてくれないの?」
「じゃあ、一つだけ教えてあげる」
「優しい」
「えへへ、じゃあ2つにしてあげる。まず一つ目は、はーちゃんの家でお泊り会でしょ?」
「私、そんなの聞いてないよ?」
「当たり前じゃん、言ったらどうせはーちゃん、許可くれないだろうし」
おいおい、まじですか。まぁ今は夏休みだし、多分小太郎が家の掃除とか色々してくれてたと思うからお泊り会とかしても良いけど、とーっても急ですね。
しかし横を見ると、楽しみにしているのか駄々をこねている時とは違く、絵梨香の可愛らしい笑顔を見ることが出来た。
夏休みに入って、せっかく遊べるようになったのに私が入院したから、好きな場所で遊べなくて我慢していた部分もあると思う。
今回は少しだけ目を瞑ってあげようと思った。
「まぁ、分かった。それで2つ目は?」
「言おうと思ったけどやっぱり言えない」
「なんで?」
絵梨香は何も言わずに顔を近づけてくる。そう、私と絵梨香が付き合って初日の電車の時のように。
さっきまで笑顔だった顔には一切嬉しさなど感じられず、ミステリアスな雰囲気が漂っていた。
私は背中を曲げ、絵梨香の顔から逃げる。しかし、それを逃がさないようにぴったりと追って来て、私の背中の限界が来た。
「今言ったら、はーちゃんが泣いちゃうかもしれないから」
絵梨香は私の耳元で囁き、小悪魔のような微笑みを浮かべた。
汗で髪がワックスを少し塗ったかのようにキシキシになっている。それでも、絵梨香の容姿が崩れる事は無く、逆に髪がまとまっていてとても似合っていた。
絵梨香の今の容姿が私のストライクゾーンを射抜いた、そして絵梨香が言った「泣いちゃうかもしれない」という家で行われる特別な事はどんな事なんだろう。両方の出来事がマッチして、今の私の心臓は弾けそうだった。
「まもなく、東京テレポート~東京テレポート~」
電車のアナウンスにより、私は我に返った。
「それじゃあ、行こう。はーちゃん」
「う、うん」
私は絵梨香に聞こえないような声で返事をした。心臓がうるさくて上手く自分の声を発せない。
今、私は喋ったのかそれすらもわからない。
だけど、絵梨香はそっと私の手を取ってくれて、握ってくれた。
その手が凄く暖かいものだと、この時の私は実感した。
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