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第1章

2 やけに事務的な転生準備

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トラックに轢かれた。
別に道路に飛び出した子供を助けるためでもなんでもない。
むしろ道路に飛び出した子供は自分の方だ。
自転車で走っていたところ路地から出てきた歩行者を避けようとしてバランスを崩し、車道に放り出された。
顔をあげると、やけにゆっくりと迫ってくるトラック。
あ、これは死んだな。
そう思った。
生き残る可能性を高めるために、脳みそがフル回転してゆっくりと見えるって聞いたことがある。
しかしこれはむり。
もうすぐそこまで来ているトラックに対して、自分の身体は一向に動こうとしない。
お父さんお母さん先立つ不孝をおy

「うるしください」
「漆ですか?」
「え?」

気づくと白っぽい空間にいた。
クリーム色というか、少し温かみを感じられる感じ?
周りを見渡して見ると市役所のような場所だった。
あれ、夢でも見てたのか?

「夢じゃないですよ」
「え?」
「安心してください、死んでますよ」

安心とは一体。
もしこの目の前にいる人──眼鏡をかけた若い感じの男性──が言うことが正しいとして、死んだというならここはどこなんだ。

「ここは転生課の異世界転生窓口ですね」

…………頭が痛い。
一つずつ考えていこう。
まず、俺は死んだ。
この人もこう言っているし、あの状況から助かるビジョンが浮かばない。
それこそ誰かが命をかけて俺を助けようと飛び出して来たりでもしない限り。
で、死んだらあの世に行くか生まれ変わるか、あるいは無かと思っていたけど、どうやら転生するらしい。
まあ、ね。
百歩譲って、転生を司る場所が市役所風でも良いよ。
多分すごく忙しいだろうし、効率を重視した結果そういう形に落ち着いたのかもしれないし?
その辺はまだ、受け入れられるんだけど。

「異世界って、あの異世界?」
「その異世界です」

どの異世界だよ!?
いや、俺も知ってるよ?
なんか異世界に転生してチートしてハーレムするんでしょ?
はいはいテンプレ乙。

「ではチートはなしで全能力は最低のハードモードでよろしいですか?」
「よろしくないです!」

それとこれとは別だよね?
やっぱり自分がやるとなれば、見ず知らずの異世界でわざわざハードモードで生きていこうとは思わないよね?
現実はゲームじゃないんですよ。
チートってほどじゃないにせよ、ある程度は特典付きで人生始めたいよね。

「わかりました。ではこちらですかね」

そういって取り出した書類をこちらに向けつつ説明してくる職員さん。
いや、役所じゃないんだし、もしかしたらこの職員さんは天使的なポジションの人かもしれないけども。
考えてみれば天使も役人も似たようなものかもしれない。

「こちらですと、まず生まれるのはある王国の公爵家になりますね」
「ほうほう。ちなみにその王国っていうのは、滅亡の危機に瀕していたりしちゃいますかね?」
「いえ、全然そんなことはないです。至って平和な国ですよ。周辺国とも友好的な関係で、国内も気候が安定しているので国民の生活も豊かです」
「なるほどなるほど」
「そしてその公爵家の第四子として生まれます」
「第四子、ですか。一応聞いておきたいんですけど、公爵家ってお金ありますよね?」
「はい。この国には四つの公爵家があるのですが、その中でも筆頭といわれていますね」

これは、これはなかなか期待出来るんじゃないか?
長男だと公爵家を継ぐために色々と大変そうだが、四男ともなれば割りと自由に生きていけそう。
となると今度は自分の能力が気になるところだな。
もしこれで全くの無能とかだったら、それで公爵家を追い出されたりとかって展開もあり得る。

「貴方の能力はこちらですね、これはチートなしの持って生まれた能力です」

そうして見せられたのは色んな項目と数字が並び、その下にはグラフがある紙だった。
文字は靄がかかっているようになって読めなかった。
グラフはレーダーチャートというのか、あの六角形とかの中に線が引かれてるようなやつ。
文字の方が読めないので、自ずとグラフに目が行く。

「こちらの一番内側の線が平均値で、真ん中が貴方、一番外側がいわゆる勇者とか魔王とかっていう存在の平均ですね」
「となると……実際はどれくらいなんでしょうかね?」
「そうですね。例えると、学校のテストで1位を軽く取れるレベルです」
「え、それってチート級なんじゃ……もしそうだとするとこの勇者とか魔王とかはどれくらいなんですか?」

外側のグラフを指しつつ訊いてみる。

「とっくに飛び級してて一度も会ったことがないレベルです」
「なるほど」

あ、あれだ。
転生チートくんが学園編とかでダントツ1位になっちゃって、それまで1位だったやつに絡まれるイベントの、絡んでくるやつレベルってことかも。

「概ねそういう認識で問題ないです」
「あ、はい」

うーん、そうなると、ちょっと気になることがあるなあ。

「はい、何でしょうか」
「あの僕の他にも異世界転生者っているんですかね? チート持ちってことでですけど」
「えー、少々お待ち下さい」

そういって何やらパソコン──に見える何か──をカタカタし始める職員さん。

「そうですね、同時代に転生される方が何名かいらっしゃいますね」
「えと、その人たちって、どんな感じの人なんですかね?」
「えー、一人は魔王」
「いきなり!?」
「魔法科学者」
「お、おう」
「アイドル」
「うん……うん?」

それ、みんなチートなんだよな。
アイドルはともかく、魔王とか魔法科学者? 辺りは下手したら変な話に巻き込まれないとも限らないよな。
しかも、巻き込まれたら自分じゃどうしようもないほどの力量差があるのか……。

「チートください」
「承りました」

ええ、迷わず選びます。
これでたとえ巻き込まれても逃げるくらいは出来るだろう。

「では次に、覚醒コースについてです」

職員さんの説明を聞くに、いつ俺が現在の俺としての意識を持つかという話らしい。
基本は生まれた瞬間から。
今さら赤ん坊からやり直しって言われてもなあ。
でも、もし逆に大きくなってから覚醒するとしたら、それまでと性格が違うとかって常識がわからないとかならないのかな。

「その辺りはご安心ください。まず覚醒前に高熱で倒れます」
「安心とは」
「その後、身体的な後遺症もなく快復するも、性格が少し変わってしまったということにします」
「つまり全然大丈夫じゃないってことですね」
「そして常識等につきましては、覚醒までに得た知識を統合しますので問題ありません」

どうしても性格が変わったという印象は残るものの、ある程度は自然に受け入れるようになっているらしい。
まあ、大丈夫だっていうならもういいや。
その後もなんやかんや質問したりして、ついに転生の時が来た。

「それでは良い転生を」
「はい、お世話になりました」

ちょっと楽しみになってまいりました。
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