高嶺の上司の優しいCommand

久乃り

文字の大きさ
上 下
4 / 12

その4

しおりを挟む
 そのときだった。

「私の部下に何してくれてるんですか?」

 ものすごいGlareが発せられ、芝崎課長がやってきた。いつもの穏やかな顔と違い、完全にDefenseに陥っていた。

「な、なにを……」

 隣の部署の課長が何とか反発しようとしたけれど、芝崎課長が発するGlareの圧が強すぎて、その場に腰砕けのように崩れ落ちていった。圧倒的な格の違いだった。

「私のかわいい部下になにしてくれているんですかね。デスクを叩くのはもちろん、身体を拘束するのは立派なパワハラ行為です。それに、Glareを使っての威圧行為は法令違反ですよ」

 カツカツと靴音を立てて芝崎課長がデスクに近づく。

「それから、この書類は私の部下の仕事ではありませんね」

 そう言ってデスクに乱暴に置かれていた書類をつまみ上げ床に座り込む隣の部署の課長に押し付けた。

「さっさとお帰り願いますか」

 もう一度強いGlareを発すると、隣の部署の課長は床を這うようにして自分の部署に帰っていった。

「さて」

 芝崎課長はぐるりとフロアを見渡した。目の前のデスクの社員は完全にSubdropに陥っている。入り口から離れた社員はそれほどでもないが、それでも一様に顔色が悪かった。

「まったく」

 そんな言葉を呟きながら、柴崎課長は歩みを進める。

「もう大丈夫。安心しなさい」

 一言ずつ声をかけながら頭を優しく撫でて回る。そうして口の中に1粒の飴玉を入れてやる。優しい甘みが口の中に広がるにつれ、柴崎課長の部下たちは顔色が少しずつ良くなっていった。

「いい子だ。《Good》よく耐えた。safewordを言おうとしていたね。偉いよ」

 そう言って一番被害の大きかった部下を労う。不安そうに揺れていた瞳が徐々に落ち着きを取り戻し、しっかりと柴崎課長を見つめた。

「私がそばにいるよ。もう大丈夫、安心しなさい。頑張ったね。《Good》よく出来た」

 そう言って何度も頭を撫で、胸に抱きしめる。氷のように冷たくなっていた指先にほんのりと熱が戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人

こじらせた処女
BL
 過労が祟った菖(あやめ)は、風邪をひいてしまった。症状の中で咳が最もひどく、夜も寝苦しくて起きてしまうほど。 それなのに、元々がリモートワークだったこともあってか、休むことはせず、ベッドの上でパソコンを叩いていた。それに怒った同居人の楓(かえで)はその日一日有給を取り、菖を監視する。咳が止まらない菖にホットレモンを作ったり、背中をさすったりと献身的な世話のお陰で一度長い眠りにつくことができた。 しかし、1時間ほどで目を覚ましてしまう。それは水分をたくさんとったことによる尿意なのだが、咳のせいでなかなか言うことが出来ず、限界に近づいていき…?

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話

こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。 家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?

処理中です...