23 / 68
23.あえてご挨拶申し上げよう
しおりを挟む砦の門がゆっくりと上がっていく。魔獣の森側の門は魔獣対策も兼ねているため、頑丈な魔獣の森の木を組み合わせて上へと引き上げる形で開けられる。だから、左右の綱を二人掛かりで引いて重りに縛り付ける。だから重労働で、砦の騎士たちからは不評な仕事だった。
そんな大掛かりな仕掛けで開かれた門を見て、エディエットは目を細める。可能ならば、今門の外にいる騎馬たちをこの門の餌食にしたいところだ。だが、そんなことができないことぐらいわかっている。仕方なく、王太子時代に身につけたアルカイックスマイルで出迎える。
「遠路はるばるようこそいらっしゃいました。この地の領主をしておりますエディエット・グラハムと申します。帝国の騎士様方がどのようなご用件でしょうか」
エディエットは一番先頭の騎馬にまたがる人物をわかっていながらそのような挨拶をしてみせた。もちろん挑発と捉えられるかもしれない事ぐらい承知の上だ。
「これは、失礼」
そう言って、先頭の騎馬にまたがる人物がひらりと降りた。それが合図であったかのように、後続の騎士たちも騎馬から降り立った。そうして、手綱から手を離し、一歩前に出てくると、帝国の騎士たちは一斉に片膝をついた。
そのことにエディエットをはじめ、砦の騎士たちが驚き何もできないでいると、エディエットの目の前に立つ人物は、鮮やかに微笑みエディエットの手を取った。
「はじめまして、グラハム辺境伯。私はチールド帝国が皇帝アラムハルト。美しい人、どうか私の妻になってもらえないだろうか」
流れるように言葉を紡ぎ、あろうことかそのままエディエディの手に口づけを落とした。流石にこれにはエディエディも返す言葉が見つからなかった。
予想外にもほどがある。
「返事はもらえないのだろうか」
アラムハルトがエディエットの瞳を覗き込む。琥珀色の瞳はとても珍しい。帝国の皇帝に代々受け継がれて来た色だ。
「っ、何が初めましてだ」
エディエットはアラムハルトの手を振り払うと斜に構えて言い放った。
「ギルドの契約違反だろう。依頼人の不利益になる情報を流したな」
「おや、なんのことやら」
「とぼけるな。お前はギルドから護衛で雇った冒険者だろう?隣であれだけ話をしておいて、その瞳を隠せていたとでも思っていたのか」
「おや」
「お前は料理をしていなかったな。それに、冒険者にしては綺麗な所作で食事をしていた。違約金を要求する」
先程取られていた手を、今度は手のひらを見せてアラムハルトの前に出して見せた。
「支度金はいかほど用意してもらえるんだ?我が領地の自治はどうなる?お前が欲しがっているものはそう簡単にはやらんぞ」
その返事を聞いて、アラムハルトは微笑んだ。そうして口を開いてこう言った。
「それは困る。私が一番欲しいものは目の前にあると言うのに、お預けには慣れていないのでね」
そうしてエディを横抱きにした。
「まて、俺は承諾なんて……」
「私はこの地の諸々の技術にはさして興味はないのだ」
「どういう……っ」
エディエットが抵抗しようとした時、アラムハルトはそれよりも素早く動き、エディエットを抱きかかえたまま騎馬に飛び乗った。どう言う技術か知らないけれど、なかなかな身のこなしだ。
「早速帝国に戻り婚姻を交わそうではないか。もちろん、領地の自治は約束する」
「まて、屋敷にいるデオは俺の言うことしか聞かない」
エディエットが慌ててアラムハルトを制すると、拗ねたような顔をして、アラムハルトは騎馬を前進させた。
「それもそうだ、領地の者たちに婚姻のことを伝えなくては混乱を招くな」
そう言って、どこから取り出したのか、アラムハルトはベールを手にしていた。
「な、なんだそれは」
「ベールだ。花嫁が被るものだ」
そう言って、アラムハルトはベールをエディエットの頭に被せてしまった。
「これじゃあ誰だかわからないだろう」
エディエットは文句を言ってベールから顔を出してしまった。
「せっかちだな」
言うなりアラムハルトはエディエディに口付けた。
「なっ、何をする」
「誓いのキスだ。花嫁のベールをあげたらするのが儀式だ」
「そ、そんなこと知るかっ」
エディエットはその後も小さく抵抗をしたけれど、その度にアラムハルトが耳元で「早くお母上に挨拶がしたいものだな」と囁くので大人しくするしかなかった。
28
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる