【完結】廃嫡された王太子は沼にハマったようです

久乃り

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23.あえてご挨拶申し上げよう

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 砦の門がゆっくりと上がっていく。魔獣の森側の門は魔獣対策も兼ねているため、頑丈な魔獣の森の木を組み合わせて上へと引き上げる形で開けられる。だから、左右の綱を二人掛かりで引いて重りに縛り付ける。だから重労働で、砦の騎士たちからは不評な仕事だった。
 そんな大掛かりな仕掛けで開かれた門を見て、エディエットは目を細める。可能ならば、今門の外にいる騎馬たちをこの門の餌食にしたいところだ。だが、そんなことができないことぐらいわかっている。仕方なく、王太子時代に身につけたアルカイックスマイルで出迎える。

「遠路はるばるようこそいらっしゃいました。この地の領主をしておりますエディエット・グラハムと申します。帝国の騎士様方がどのようなご用件でしょうか」

 エディエットは一番先頭の騎馬にまたがる人物をわかっていながらそのような挨拶をしてみせた。もちろん挑発と捉えられるかもしれない事ぐらい承知の上だ。

「これは、失礼」

 そう言って、先頭の騎馬にまたがる人物がひらりと降りた。それが合図であったかのように、後続の騎士たちも騎馬から降り立った。そうして、手綱から手を離し、一歩前に出てくると、帝国の騎士たちは一斉に片膝をついた。
 そのことにエディエットをはじめ、砦の騎士たちが驚き何もできないでいると、エディエットの目の前に立つ人物は、鮮やかに微笑みエディエットの手を取った。

「はじめまして、グラハム辺境伯。私はチールド帝国が皇帝アラムハルト。美しい人、どうか私の妻になってもらえないだろうか」

 流れるように言葉を紡ぎ、あろうことかそのままエディエディの手に口づけを落とした。流石にこれにはエディエディも返す言葉が見つからなかった。
 予想外にもほどがある。

「返事はもらえないのだろうか」

 アラムハルトがエディエットの瞳を覗き込む。琥珀色の瞳はとても珍しい。帝国の皇帝に代々受け継がれて来た色だ。

「っ、何が初めましてだ」

 エディエットはアラムハルトの手を振り払うと斜に構えて言い放った。

「ギルドの契約違反だろう。依頼人の不利益になる情報を流したな」
「おや、なんのことやら」
「とぼけるな。お前はギルドから護衛で雇った冒険者だろう?隣であれだけ話をしておいて、その瞳を隠せていたとでも思っていたのか」
「おや」
「お前は料理をしていなかったな。それに、冒険者にしては綺麗な所作で食事をしていた。違約金を要求する」

 先程取られていた手を、今度は手のひらを見せてアラムハルトの前に出して見せた。

「支度金はいかほど用意してもらえるんだ?我が領地の自治はどうなる?お前が欲しがっているものはそう簡単にはやらんぞ」

 その返事を聞いて、アラムハルトは微笑んだ。そうして口を開いてこう言った。

「それは困る。私が一番欲しいものは目の前にあると言うのに、お預けには慣れていないのでね」

 そうしてエディを横抱きにした。

「まて、俺は承諾なんて……」
「私はこの地の諸々の技術にはさして興味はないのだ」
「どういう……っ」

 エディエットが抵抗しようとした時、アラムハルトはそれよりも素早く動き、エディエットを抱きかかえたまま騎馬に飛び乗った。どう言う技術か知らないけれど、なかなかな身のこなしだ。

「早速帝国に戻り婚姻を交わそうではないか。もちろん、領地の自治は約束する」
「まて、屋敷にいるデオは俺の言うことしか聞かない」

 エディエットが慌ててアラムハルトを制すると、拗ねたような顔をして、アラムハルトは騎馬を前進させた。

「それもそうだ、領地の者たちに婚姻のことを伝えなくては混乱を招くな」

 そう言って、どこから取り出したのか、アラムハルトはベールを手にしていた。

「な、なんだそれは」
「ベールだ。花嫁が被るものだ」

 そう言って、アラムハルトはベールをエディエットの頭に被せてしまった。

「これじゃあ誰だかわからないだろう」

 エディエットは文句を言ってベールから顔を出してしまった。

「せっかちだな」

 言うなりアラムハルトはエディエディに口付けた。

「なっ、何をする」
「誓いのキスだ。花嫁のベールをあげたらするのが儀式だ」
「そ、そんなこと知るかっ」

 エディエットはその後も小さく抵抗をしたけれど、その度にアラムハルトが耳元で「早くお母上に挨拶がしたいものだな」と囁くので大人しくするしかなかった。
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