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10.辺境の地と言うこと その2
しおりを挟む遮音魔法をかけたその先から、扉を叩く音がした。エディエットとしてはあらかた話が終わったから来客は構わなかった。マクベスがまだ何かを言いたそうではあるが、それはおいおい聞けばいい。今は、エディエットの正体を他言無用という約束がなされたことが全てだ。
「入れ」
マクベスが遮音魔法を解いて扉の施錠を開けた。
「失礼致します。グラハム辺境伯にギルドから使いが来ております」
「なんだろう?……依頼?早過ぎないか?」
ここに来る前に商業ギルドで求人をかけてきたけれど、もう応募があったのだろうか?まだ昼前だ、早すぎる。
「わかった。行くよ」
エディエットはソファーから立ちあがり、扉を開けた騎士の方へと歩いた。マクベスが後に続く。騎士2人に挟まれて歩くのは、なんだか居心地が悪かったが、領主となればこれが普通なのだろう。
「伯爵様」
向かった先の部屋に入るなり、ギルドの職員にそう呼ばれてエディエットは焦った。確かに商業ギルドで求人を出す際、身分証明書としてグラハム辺境伯の身分証明書を掲示した。真相を知らなければ、普通にエディエットをグラハム辺境伯と思うのは当然だった。
少し日に焼けたような肌に整えられた黒髪。落ち着きのある緑色の瞳、小さめな作りの顔立ちはやや子どもっぽさがあるものの、手足の長いバランスのとれた体がその下に続けば、成人した男性であると判断される。ウルゼン国の常識に当てはめれば、成人した正式な辺境伯はエディエットだ。つまりは、フィナは女伯爵の称号を賜ったわけではなかったのだ。
「どうした?」
エディエットはぞんざいに聞いてみた。求人の依頼を出してからまだ、小一時間しか経っていないはずた。普通に考えればなにか不都合があったとしか思えない。
「はい、本日承りました求人に応募が来ました」
「早いな」
だいぶ驚いたけれど、王城で鍛えられできたから、エディエットはまゆひとつ動かさずに答えた。
「はい、ただ、この街のものではありません。領地の者でもないので、どうしたらいいものかと」
商業ギルドの求人は国中に発信される。より条件のいい所で働けるようにということは誰しもが思うことではあるが、雇用主が必要な人材を確保しやすくするためだ。もちろん、国中に発信するにはそれなりの金を払う必要はある。
「直ぐに面接をしたいな。転移門のある街かな?魔力は俺が出そう」
「そ、それはありがたい」
ギルドの職員は驚いたのか嬉しすぎたのが、ガタッと音を立てて立ち上がった。それに合わせエディエットも立ち上がる。そうして促せば直ぐに商業ギルドへと移動を始めた。
「家族単位で移動させるよ?」
転移門でエディエットが、そういえばあちらの係のものがたいそう驚いた声を上げた。
本来、転移門を使うには身分証明書を提示して自分の魔力を使用するものだ。移動距離が長ければそれだけ魔力を消費する。
「三人ですが、よろしいでしょうか?」
向こうから声がする。
三人ということは、親子だろうか?家族と聞いている。
「わかった。準備して……流すよ」
エディエットはひと呼吸おいて魔法陣に魔力を流した。エディエットの魔力に反応して魔法陣が光り出す。相手側の魔法陣に十分な魔力が届いたのか、光がゆったりと波打った。
「っうわぁ」
幼い声がした。
転移門の魔法陣に立っているのは幼い子供ども二人と女だった。想像と違ったがエディエットはいつものようにまゆひとつ動かさない。
ギルドの職員が三人を魔法陣の上から移動させる。幼い子どもは特に、魔力酔いはしていないようだった。
「すみません。人数が多いのですが、六人です」
「構わないよ」
エディエットが返事をすると、やはりあちらの係のものが驚いた声を上げたが、すぐに準備が整ったと返事があった。
やってきたのは老人と夫婦その子ども三人だった。エディエットが想像していたのと違い、子どもたちは母親にしがみついていた。
「うん、いいね」
エディエットはにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、このままうちに来てくれるかな?」
エディエットがそう言うと、ギルドの職員に促され九人のアシュタイ人が着いてきた。転移門からさほど離れていないグラハム辺境伯の屋敷まで、エディエットを先頭に徒歩で移動する。
砦の街の人々は、見慣れない行列を凝視していた。
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