【完結】廃嫡された王太子は沼にハマったようです

久乃り

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9.辺境の地と言うこと その1

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 要するに、転移門はあるけれど、ある程度魔力のある者でなければ自由に使いこなすことは出来ない。加えて王都から距離がありすぎるため、一度の転移では王都には飛べない。物質だけを転移させることは出来ないため、王都で発行された新聞でさえ、ある程度魔力のある者が両手に抱えて転移門を渡ってこの砦まで持ってくるということ。

 ただし、通常転移門の使用は一日二回までが限界だ。それ以上使用すると魔力酔いをしてしまうからだ。そんなわけで、王都から新聞が届くまで最短で5日はかかる。もちろん、中継する街にも新聞を下ろすから、この砦に届くのはほんの数部になってしまう。

 つまり、新聞を読めるのは砦の騎士であり、ギルドの職員など、限られた職業に着いているものになってしまうのだ。もちろん、彼らが読み終わったあとになら、砦の詰所の休憩室や、ギルドの食堂などに置かれる。そうなれば、一般の人々も目にすることはできる。ただ、情報がだいぶ古くなる。

「つまり?俺が誰なのか知っているのはあんただけってこと?」
「ええ、そうです。あなたが王太子になる前、つまり五年前の魔獣討伐の出陣の際、見送りに来たあなたの顔を見ることが出来たのは、ひとえに私が護衛騎士筆頭だったからです」
「なるほど、あの時は確か母上と一緒に見送ったな」
「ええ、貴方様はご生母様によく似ていらっしゃる」
「……そう、だね」

 エディエットがここまでウルゼン国の貴族から疎まれる理由はのひとつに、その肌の色があった。ここより南、魔獣の森の向こう側に位置するアシュタイ国は、日差しの眩しいところだ。そのせいなのか、人々は大抵黒髪で、肌の色は茶色い。
 女性で、しかも姫であったからフィナの肌はそこまで色濃くはなかった。彫りが深くくっきりとした目鼻立ちはエキゾチックで、地味な国王の隣では浮いていたのは確かだった。

「それで、ですね」

 マクベスは言葉を区切り、エディエットを見つめた。

「この辺境の地は長らく見放されていたのです。グラハムの爵位は貴方のご生母が賜りましたが、ずっと王都にいらした。何年か前に静養のためにこられたきりで、屋敷はずっと閉じられていました」
「まぁ、ね。魔法で施錠したのは俺だけど」

 ちょこっと告白しておく。

「なるほど、貴方は相当魔力をお持ちなのですね。だから転移門に荷馬車ごと現れたのか」
「まぁね。こっちだって死にたくないし?」
「狙われていらしたので?」
「それは……わからないな。手際よく王太子と王妃をすり替えられた。俺と母上は廃嫡されたと思っている。いや、まぁ、王族簿をこっそり確認したら廃嫡されていたけどね、実際」
「見られたのですか?」

 マクベスは怪訝な顔をした。王族簿はそう簡単に閲覧できるものでは無い。厳重に管理され、王家の血を引くものでなければ開くことは出来ないよう魔法の鍵がかかっているのだ。

「まぁね。アマリアの衣装の発注が上がった頃、こっそりと見たんだ。ちょうど第二王子が成人した翌日かな?俺と母上が見事に消されていた。国王である父上がするわけはないから、やったのは第二王子だろう。妃は王族の血を持っていないから手にすることも叶わないはずだからね」
「成人してすぐにとは、なかなかですね」
「あちらさんもそれだけ急いでいたんだろうな。国王の命がいつまで持つかなんてわからないんだから。ま、廃嫡されていることを知ったからこちらとしても準備を念入りにしたよ」
「鮮やかな手際でしたね」
「魔力はあるからね。ここの転移門にバレずに飛ぶための魔法陣を考えた。それと、これ」

 そう言ってエディエットは腰にぶら下げていたポーチを見せた。

「これは?」

 マクベスはポーチをじっと見つめ、そうしてニヤリと笑った。

「素晴らしい術ですね。宰相はこれを知らなかったということですか」
「そう、知らなかった。いや、俺が知られないようにした。宰相の前で時々焼き菓子なんかを取り出して食べていたからな」
「その程度で?」
「国王が病に倒れてから、まだ王太子となってもいないのに俺に仕事を押し付けてきた。王族の血を引いていなければ押せない印があるから仕方がないことなのだけど、おかげで多忙でね。食事の時間もままならなかったから、これみよがしに焼き菓子を食ってやったんだ」

 そう言ってエディエットは笑うと、マクベスの目を見て真剣な顔をした。

「知っている。この地は税を納めない代わりに支援もないのだろう?」
「はい」
「領主が長らく不在だったのだから仕方がないよな。だから、今後もこのままでいいと思う」
「なっ」

 エディエットの言葉にマクベスが驚いた。それはもう、かなり大袈裟に。

「だって、税を納めたら俺がここにいることバレちゃうだろ?」
「は、はぁ」
「あんたさえ黙っていれば俺はグラハム辺境伯だ」
「ええ」
「何か問題があるかな?」
「いえ、何も。ただ、その……」
「あんたはもう王都に帰れない。違うかな?」

 エディエットが意地悪く言えば、マクベスは黙って頷いた。

「俺はあんたを恨んでなんかいない。母上しか見ていない父なんて興味なんかなかった。言葉を交わした記憶もさほどない。最後は病に倒れてろくに顔も合わせないままだ」
「…………」
「だからさ、俺はあんたを恨む要素はないんだよ。強いて言えば、あんたが俺の事を報告したら恨むかな?」

 最後はエディエットがふざけたように言葉にすれば、マクベスの肩から力が抜けるのがわかった。

「領主経営には興味があるから、領民?から何か要望があれば聞くよ。いままであんたがやってくれていたんだろ?」
「はい」
「じゃあ、今日からは俺が内務をする。あんたは本来の砦の責任者として騎士の仕事に戻ってくれればいい」
「ありがだく存じます」

 マクベスは深く頭を下げた。
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