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4.行先は決まっている
しおりを挟む認識阻害の魔法をかけて、馬を走らせる。遠くに逃げたいから転移門を使いたいところだけれど、それでは行き先がバレてしまう。
「どうせ廃嫡されているから使えないだろうけど」
転移門を使うには身分証明書が必要だ。王太子の身分で使えば後々宰相たちに行き先がバレてしまう。それに、廃嫡されているはずだから、エディエットが王太子と認識されないだろうと判断して転移門の使用は諦めることにした。
荷台に寝かせている母も、王妃の位から抹消されている。第二王子が王太子となったのならば、その生母である側室のセレーヌが王妃の位に着いているはずだ。病気で伏せっている国王に代わり、王太子妃となるアマリアの父である宰相が一緒にテラスに立っているはずだ。
そう、全ては仕組まれていた。
国王が病に倒れた時から、宰相と第二王子の生母が結託していたのだ。他国から嫁いできた王妃の産んだ王子ではなく、この国の貴族の娘が産んだ王子を王太子に。
元々後ろ盾のない王妃ではあるが、この国の文字が読めず、話すこともままならないのが仇となった。国王からの寵愛だけで乗り切れるほど貴族社会は甘くは無いのだ。
それなのに、エディエットの母である王妃は、何も理解しなかった。愛らしく小首を傾げれば全て事が済むと思っているのだ。国が違えばしきたりも違うということを理解しようともせず。なんの危機感も感じ取らずに今日まで過ごしてしまったのだ。
今更なのだとエディエットは思う。もとより、後ろ盾がなければ、たとえ王妃であってもどうにもならないのがこの国の貴族社会だ。国政を握った貴族が誰より強い。文字の読めない王妃など、傀儡に過ぎなかったのだろう。
国王が病に倒れた今、有力貴族たちが動いたのは必然だったのだ。
ただ、廃嫡されるだけならいい。あの王城で飼い殺しにされるのはゴメンだった。成人したての第二王子が、国政を回せるとは到底思えない。廃嫡されても気付かないふりをして、仕事をし続けるのは無理がある。
ボロ雑巾のようになってから何かのタイミングで責任を取らさせるの前に逃げ出すのが一番だ。
足の付かないように移動して、とにかく王城から遠くに行かなくてはいけない。仮に見つかったとしても、わざわざ追っ手が来ないような所。
エディエットは馬を道からそらせた。認識阻害の魔法をいつまでもかけているわけにはいかない。王城のある王都ではお祭り騒ぎで警備に兵士や騎士をさいているが、魔法使用の跡を残しすぎるのは良くないことだ。
「さて、この辺でいいかな?」
御者台から下りると、エディエットは腰のポーチから剣を取り出し、さやの着いたままの剣で地面に魔法陣を描き始めた。ゆっくりと魔力を流しながら馬と荷馬車が収まるだけの大きさの魔法陣を描く。
「よし、これでいいだろう」
エディエットは馬をゆっくりとひいて、魔法陣の中に立たせた。荷馬車の部分もしっかりと収まっている。そうしてエディエットは踵を鳴らした。
それを合図に魔法陣から光が発生し、馬と荷馬車とエディエットを包み込んでいく。
一度きりの転移魔法を発動させて、エディエットは目的の地へと逃げ出すことに成功したのだった。
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