4 / 68
4.行先は決まっている
しおりを挟む認識阻害の魔法をかけて、馬を走らせる。遠くに逃げたいから転移門を使いたいところだけれど、それでは行き先がバレてしまう。
「どうせ廃嫡されているから使えないだろうけど」
転移門を使うには身分証明書が必要だ。王太子の身分で使えば後々宰相たちに行き先がバレてしまう。それに、廃嫡されているはずだから、エディエットが王太子と認識されないだろうと判断して転移門の使用は諦めることにした。
荷台に寝かせている母も、王妃の位から抹消されている。第二王子が王太子となったのならば、その生母である側室のセレーヌが王妃の位に着いているはずだ。病気で伏せっている国王に代わり、王太子妃となるアマリアの父である宰相が一緒にテラスに立っているはずだ。
そう、全ては仕組まれていた。
国王が病に倒れた時から、宰相と第二王子の生母が結託していたのだ。他国から嫁いできた王妃の産んだ王子ではなく、この国の貴族の娘が産んだ王子を王太子に。
元々後ろ盾のない王妃ではあるが、この国の文字が読めず、話すこともままならないのが仇となった。国王からの寵愛だけで乗り切れるほど貴族社会は甘くは無いのだ。
それなのに、エディエットの母である王妃は、何も理解しなかった。愛らしく小首を傾げれば全て事が済むと思っているのだ。国が違えばしきたりも違うということを理解しようともせず。なんの危機感も感じ取らずに今日まで過ごしてしまったのだ。
今更なのだとエディエットは思う。もとより、後ろ盾がなければ、たとえ王妃であってもどうにもならないのがこの国の貴族社会だ。国政を握った貴族が誰より強い。文字の読めない王妃など、傀儡に過ぎなかったのだろう。
国王が病に倒れた今、有力貴族たちが動いたのは必然だったのだ。
ただ、廃嫡されるだけならいい。あの王城で飼い殺しにされるのはゴメンだった。成人したての第二王子が、国政を回せるとは到底思えない。廃嫡されても気付かないふりをして、仕事をし続けるのは無理がある。
ボロ雑巾のようになってから何かのタイミングで責任を取らさせるの前に逃げ出すのが一番だ。
足の付かないように移動して、とにかく王城から遠くに行かなくてはいけない。仮に見つかったとしても、わざわざ追っ手が来ないような所。
エディエットは馬を道からそらせた。認識阻害の魔法をいつまでもかけているわけにはいかない。王城のある王都ではお祭り騒ぎで警備に兵士や騎士をさいているが、魔法使用の跡を残しすぎるのは良くないことだ。
「さて、この辺でいいかな?」
御者台から下りると、エディエットは腰のポーチから剣を取り出し、さやの着いたままの剣で地面に魔法陣を描き始めた。ゆっくりと魔力を流しながら馬と荷馬車が収まるだけの大きさの魔法陣を描く。
「よし、これでいいだろう」
エディエットは馬をゆっくりとひいて、魔法陣の中に立たせた。荷馬車の部分もしっかりと収まっている。そうしてエディエットは踵を鳴らした。
それを合図に魔法陣から光が発生し、馬と荷馬車とエディエットを包み込んでいく。
一度きりの転移魔法を発動させて、エディエットは目的の地へと逃げ出すことに成功したのだった。
26
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる